侍ガール! | ナノ


▼29







任務失敗の報告をすると、おやっさんは呆れたように笑った。




侍ガール!





「そりゃオメー遊郭に500円で行ったってダメにきまってんだろうよ。」





クックッと喉を鳴らしながら笑うおやっさんは荒々しく俺の頭を撫でる。分厚くてゴツゴツした手だけど、とても心地よかった。





「まぁ、20年かけてやっと見つけたんだ。焦らずやってきゃいいさ。」

「うん、」





猫又族の俺は、人よりも成長スピードが遅い。だから見た目は四季と同じくらいに見えるけど、実際の年齢は170歳くらいだ。でも、これだけの年数生きてきたというのに、この20年はとても長く思えた。





「長かったな、20年。」





20年前。地球に来たばかりの俺を、人間からしてみれば自分達の国を乗っ取った怪物の俺を、おやっさんは嫌な顔一つせずに世話してくれた。この星に来たのはちょうど攘夷戦争が終わって天人達が好き放題し始めた頃で、誰もが俺を恐れて近付こうとしなかった。





(天人だ…。)

(く、…来るな化け物!!)





俺が一体何をしたって言うんだ。どうしてそんな目で見られなきゃならないんだ。何日も飲まず食わずの生活で、宛もなくただふらふらと知らない星の知らない街を歩くだけ。なにもかも限界だった。妖術が弱って飛び出た猫耳や尻尾が更に人間達の恐怖を煽る。背中に当たった堅いものに振り向けば、小石を持った男がこちらを睨んでいた。




──大嫌いだ、

同族も人間も、この世界も。


降り始めた雨ですら憎くて、消えてしまえばいいのにと唇を噛み締めた。「……さ、くの。」会いたい。大きく視界が揺れて、雨に濡れた冷たい地面の上に倒れた。





「死ぬのか。」





声がする。だけど顔を上げるような力はもう、俺には残っていない。尋ねてきた声はゆっくりと俺の周りを歩いて顔の前で止まり、しゃがみ込んで同じ言葉を発した。「死ぬのか。」嫌だ。「生きたいのか。」生きたい。生きてもう一度朔乃に会いたい。





「生、ぎるぅ…。」





最後の力を振り絞って出した声は情けなく震えていたけれど、目の前のびしょ濡れの"声"は優しく笑って俺の手を握った。















温かい手


(初めて「俺」を見てくれた人)




「今日は寿司でも食いにいくか。」





そう言って笑ったおやっさんの顔は、あの日とちっとも変わらない。







※ヒロインが登場しない件について(笑)