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ふわふわとした意識の中で、誰かが泣いているような声が聞こえた。
侍ガール!
走っても走っても追いつけない大好きな背中に何度もその人の名を叫んだけれどやっぱり届かなくて、振り向くどころか止まりもしてくれないその人は、どんどん俺を置いていってしまう。
──行かないで
──1人にしないで
暗い闇が背後から迫ってくる。怖くて怖くてたまらない。お願いだから、俺を置いていかないで。
──姉上!
どうして、俺は闇に飲み込まれていくんだ?
身体が、冷たくなっていく。足が、重い。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い
色も音もない世界は酷く冷たくて、ただ抜け出したいという一心でもがいていた。辛くて苦しくて、それでも姉上の傍に、大好きな人のいる明るい場所にいたくて、必死に重い足を動かしていた。
ふと、誰かに呼ばれたような気がして後ろを振り返る。するとそれまで真っ暗な闇しかなかった筈のそこには、ぼんやりと小さな灯りがあった。
その灯りがゆっくりと俺に近付いてくる。
何か聞こえる。誰かの泣き声か。悲しくて苦しくて辛い、小さな灯りの小さな泣き声。
──なんで泣いてるんでさァ
そう尋ねてもソレは答えてくれなくて、ただただ泣くばかり。何故だか胸が締め付けられるように痛くなった。
──…いちょ、
あぁ、俺は、
──た、いちょ…
俺はコレの正体を知っている。
──沖田隊長、
うっ、と嗚咽して俺を呼んでいるのは四季で、口元に手をやって声を抑えながら涙を流していた。
──なんで、なんで四季がそんな辛そうにしてるんでィ
胸が痛い。苦しい。
姉上に置いていかれたときより何倍も何十倍も。四季が泣いてるのを見るのが、辛い。
──お、きた…たいちょ、
分かってたんだ。四季と姉上が違う人間だってことくらい。それでも2人を重ね合わせて、自分自身を最低だと言って。なのにいつの間にか四季は四季で俺の中での存在が大きくなっていて、どうしたらいいのか分からなくなった。大切なものは姉上だけでいいと、大切な姉上に似ているから四季が大切に思えるだけなんだと自分に言い聞かせた。
──隊長!仕事して下さい!!
──またザキさんのお菓子無断で持ってきたんですか?
──隊長
──沖田隊長!
目を閉じれば浮かぶのは四季ばかりで、怒りながら、呆れながら笑いながら俺を呼ぶ四季が、それまで錘をつけていたかのように重かった俺の心身をふわりと包み込んでくれた。
分かってた。ただちゃんと自覚しきれてなかっただけ。
姉上と四季は違う。
俺はこんなにも、四季が大切なんだ。
小さな光よ
(小さな、小さな光)
(大きな、大きな君の存在)
※つまりなんだかんだで沖田さんはヒロイン大好きってことさ!←
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