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貴方の笑顔も優しさも、私に向けられていたものじゃなかった。
侍ガール!
昨日の急な雨で、びしょ濡れで帰って来た沖田隊長は今日、高熱を出して寝込んでいた。
医療班の隊士や女中の方が忙しくて手が回らないために隊長の看病は私がすることになり、朝からずっと隊長の傍にいたのだが、
「…んぅ、」
この状況は、何だろう。
確か私は沖田隊長にお昼ご飯を食べてもらうために声をかけたハズだ。うん、間違いない。
じゃあ一体何故、私は沖田隊長に抱きしめられているのだろうか。
熱がある時は何かと人肌が恋しくなるとか言うアレだろうか。それともただでさえ暑いこの時期に、私にくっついて汗だくにしてやろうという嫌がらせだろうか。
病人には失礼であるが、若干後者が怪しいのは相手が沖田隊長なのだから仕方がないだろう。
「た、いちょ…離れてくださっ、」
ググッと体重がかけられて、身体が倒れそうになる。それでも離れてくれない沖田隊長は本当に嫌がらせしているんじゃないのか。
とにかく早く離れようと、隊長の肩に手をついて押し返そうとした時だった。
「…あ、ねうえ。」
「…え?」
沖田隊長の口から漏れたのはミツバさんを呼ぶ声で、だけど彼が抱き締めているのはミツバさんではなく私で。
「…行かねェで、くだせェ……姉上。」
──どうして、
どうして隊長は私を抱き締めているの?どうして隊長は、ミツバさんを呼んでいるの?
私がミツバさんと似てるから?沖田隊長は、私をミツバさんと重ねて見ているの?
喉の辺りが熱くなって、何かが引っかかったように苦しくなった。直ぐにでも隊長に離れてもらいたいのに体が動かなくて、気付けば流れていた涙も拭くことすら出来なくて、何度もミツバさんを呼ぶ沖田隊長をただ見ていることしか出来なくて。
──無事で、良かった。
あの日、攘夷志士に捕らわれて自ら命を絶とうとしていた私にかけてくれた言葉も、もしかしたら、ミツバさんに言っていたんじゃないかと、そんなことを思っている自分がいて。
最低だと、分かっているのに、
(四季ちゃん。)
(副隊長!)
──四季。
みんなの見ている私は東城院四季なんかじゃなくて、本当はミツバさんなんじゃないかと思ってしまって。だけどそれでも、ただの間違いだと、重ね合わせられていないと期待しているところもあって。
「……姉上。」
目の前の現実を、全て否定してしまいたかった。
存在否定のような
(私は、私でいることさえ許されないのか)
※とりあえず沖田さんに「ヒロインとミツバさん重ね合わせてんじゃね?」疑惑
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