翌日、シカクさんが用事が入って来れなくなってしまったと女中さんから聞いて、家庭教師に出されていた宿題をやるようにとジジイに言われた。少し期待していたからそれなりにショックだったけれど仕方ない。シカクさんは私とは違って忙しいのだから。小さく溜め息をついて、大人しく勉強をすることに、
「よっしゃァァァ!脱走だ!!」
するわけがなかった。
せっかくお目付役がいないのにあんなクソジジイの言いなりになってられるか畜生。シカクさんの代わりの人が来る前にさっさと逃げよう。見つかっても今屋敷にいるのは女中さんだけ。これでも毎日クソジジイ相手に修行してるんだ、捕まる筈ない。動きやすい格好に着替えて豪快に窓ガラスを割り、外に飛び出した。
「いけませんハツヒ様!お戻りください!!」
警報がビービーと大きな音を屋敷中に響かせて、女中さん達が集まってきた。みんなものすごく焦った顔をしている。帰ったらきっとジジイに怒られるだろうけど、今の私の頭にあるのは目の前の楽しいことだけ。どうせ明日からまた部屋の中で過ごさなきゃならなくなるんだ、だったら一瞬でも外の空気に触れたい。塀を飛び越えてすぐに目に入った街に頬が緩んだ。
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たどり着いたのは広場のようなところで、見たところ私と変わらない年頃の少年少女が集まっていた。「缶蹴りするってばよ!」はて、缶蹴りとはなんだろうか?黄色い髪の少年は空のコーラの缶を高々と掲げた。"缶蹴り"と言うんだ、きっと缶を蹴って遊ぶんだろう。それなのに彼らは缶を蹴らずに「鬼を決める」と言ってジャンケンを始めた。缶蹴りって鬼ごっこみたいなものなのか?全員缶を蹴りながら逃げたり追いかけたりする遊びなのか?……それってダサくないか?とりあえず彼らのいる場所から一番近い木の上で"缶蹴り"を見学させてもらうことにした。
「サクラちゃんみーっけ!」
「ちょっとナルト!なんでさっきから私ばっかり見つかるのよ!?」
"缶蹴り"は私が想像していたものとは大分違うもので、とても面白そうだった。
(……いいなぁ。)
あの子達みたいに普通の子供になりたかった。木ノ葉丸みたいにアカデミーに通いたかった。でもどうしてかジジイは私が外に出ることだけは許してくれなくて、そのせいで何度も喧嘩をした。
「……帰るかな、」
ここにいたって仕方ない。あの子達を見てただ羨ましいという気持ちが大きくなるだけだ。ゆっくりと立ち上がって服に付いた葉っぱをはらおうとしたその時、
(か、体が…動かない!?)
金縛りにあったかのように動かなくなった体はジリジリと引きずられていく。このままでは木から落ちてしまうが、手も動かせないから印も結べない(落ち、…る)。ぐるんと視界が回転したかと思ったら、グイッと足を何かに掴まれて宙吊りになった。
「さっきからコソコソと…なんだお前。」
フードを被って子犬を抱いた少年が私を睨みながらそう言った。
出会いなんてそんなもの
(あ…の、)
(あ?)
(頭に、血が上って……爆発しそう、)
(おいシカマル!!早く降ろしてやれ!!)