「棗ェ!今日という今日は許さへんからな!!」
今日も棗は佐倉に悪戯をして怒らせていた。初めの頃は俺も周りも止めようとしていたのだけれど、毎日同じことを繰り返しているうちに「その内棗さんも飽きるんじゃね?」と誰かが言ったことで、佐倉が助けられることはなくなった。可哀想だと思っていないわけではないし、出来ることなら助けてあげたい。だけど棗があまりにも楽しそうに佐倉に悪戯をするから、頭の隅で「助けなくても大丈夫か」なんて思ってしまっていたり(実際、棗はかなり手加減をしてくれている)。
「ルカぴょん助けて!!」
ギャーと叫びながら、棗の出した鬼火から逃げている半泣きの佐倉。さすがに可哀想になって、隣の棗に視線を移したのだけれど当の本人は全く話を聞いてくれそうにない。横で委員長が説得しようと頑張っていたけど、棗に睨まれて一発でノックアウト。「るーかーぴょーん!!!!」ごめん佐倉、なんか今日の棗はいろいろ無理。
「うぎゃァァァァァァ!!」
鬼火が佐倉の顔に向かっていった。ストレスでも溜まっているのか、今日はなんだかやることが酷い。誰もが顔を引き吊らせながら佐倉の最後を見届けようとしていたその時だった。
「焼けるゥゥゥ……て、あれ?」
急に、棗の鬼火が消えた。ぽかんと口を開けて驚いている佐倉を見たところ、どうやら無効化を使ったわけではないらしい(というより、初めから無効化を使えばいいんじゃないか?)。もしかして棗が寸前のところで消したのだろうか?そう思って隣を見ると、これまた驚いた顔をした棗が、立ち上がって窓の外を見ていた。
「な、……棗?」
心配して佐倉が声をかけてくれたけれど、聞こえていないのかずっと窓の外を凝視している。棗は一体何を見ているんだろう?棗の視線を辿りながら見ているものを探す。
「棗…あの人、」
見えたのは綺麗な髪を揺らし、先生と思われる人物と笑いながら話をする中等部の女の人だった。
交わる視線
そうして2人は、悲しそうな顔をした。