ダサいですけど何か?
「ねぇナマエ、貴方もう少しお洒落したら?」
やあやあどうもどうも。カミツレの妹、ナマエです。ただ今お姉ちゃんと2人で夕食をとっているところです。うん、今日のハンバーグは大きさも焼き加減も最高。デミグラスソースも上手く出来た。だから少し気分が良かったのに、どうしていつもお姉ちゃんはそういう話ばっかりするの。
「別に、興味ないしいいよ。ジャージの方が動きやすい。」
「ほら、またそんなこと言って。」
年頃の女の子だとは思えないわね。なんて言ってわざとらしく溜め息を吐くお姉ちゃん。あーあ、まーたお姉ちゃんの「お洒落演説」が始まった。久しぶりに2人でご飯食べられると思ったらいつもこう。お姉ちゃんはジム以外にも仕事あるから忙しくてこうやって一緒にいられることが少ない。だからせめてこういう時くらいはもっと家族らしい会話がしたいのに。なんでいつもお洒落の話しかしないのお姉ちゃん。
「全く…私の妹とは思えないわね。」
少しだけでいいから、ただ私を見てほしかっただけなのに。どんなに頑張ってもお姉ちゃんは振り返ってはくれない。テストでいい点とっても、お姉ちゃんの好きなハンバーグを作っても。お姉ちゃんは私のことなんか、どうだっていいんだ。
「…に、よ……。」
「え?」
「何よ、お洒落なのがそんなに偉いの!?すごいの!?」
「ちょっと…ナマエ?」
お姉ちゃんが構ってくれなくても家事をしなくても怒らなかったし文句だって言わなかった。本当はすごく寂しかったけれど、それでもお姉ちゃんにジムリーダーとしてもモデルとしても頑張ってほしかったから。キャーキャー騒ぐファンは嫌い。でも仕事でキラキラ輝いているお姉ちゃんが大好き。だからいつもショーやテレビに出てるお姉ちゃんを見ると嬉しくて幸せでいっぱいだった。
「私はお姉ちゃんの何!?」
「そんなの妹に…、」
「妹?笑わせないでよ、私のことなんかなにも知らないくせに!!」
お姉ちゃんはもう、私だけのお姉ちゃんじゃなくなっちゃったんだ。「私のお姉ちゃん」なんてもういない。目の前にいるのはライモンジムのジムリーダーで人気モデルのみんなの憧れカミツレ。私はそのカミツレの身の周りのお世話をしている人。
「お姉…ちゃんなんか、」
目頭が熱くなって視界がぼやけてきた。耐えられなくなって家を飛び出したとき、焦ったようなお姉ちゃんの声が聞こえた気がしたけれど、私には振り返る余裕なんてなかった。
着ているのはいつも、動きやすいジャージ。
(だけどお姉ちゃん、気付いてる?)
(私が着てるジャージ、全部お姉ちゃんがプロデュースしたやつだよ。)