「それじゃあ保険委員は東城院さんと朔乃ちゃんで決まりね。」
Z組の人達のテンションについて行けずボケーッとしていた私は、いつの間にか保険委員になっていた。別に委員会が面倒臭いとか相手の子が嫌だとかじゃないから構わないのだけれど、誰か1人でもいいから「勝手に決めるな」と言ってほしかった。良く言えばフリーな、悪く言えば自分勝手な人の多いクラスだ。隣の沖田くんに限ってはおかしなアイマスクをつけて爆睡中。委員会は決まっているらしいけれど、先生とか委員長とかの話くらい聞いた方がいいんじゃないだろうか。あぁ、ほら委員長の志村さんがパキパキと指を鳴らしながらこっちに近付いてくる。
「お、沖田く…、」
「あら沖田くん、随分気持ちよさそうに寝てるのね。」
遅かった…!ごめんね沖田くん私もっと早く気付けばよかった。ゴチンととても痛そうな音と共に沖田くんは頭をさすりながら起き上がった。
「…いってェ……、なにすんでィ志村。」
「そんなに眠いなら私がより深い眠りにつかせてあげるわよ?」
「すいやせんでした。」
志村さんのニッコリとした笑顔に顔を引き吊らせた沖田くんは瞬時に頭を下げた。し、志村さん怖…いやすごいね。こんなにキャラの濃い人達の集まりの中、私は上手くやっていけるのか。少し不安になる(最早自分の病院送り騒動は頭にない)。
「あの、四季ちゃん。」
「え、あ…えっと、」
トンと肩を叩かれて振り返ると、ふわふわとした茶髪の優しそうな女の子が立っていた。確か朔乃さん、と言っただろうか。記憶が正しければ志村さんがさっき言っていた保険委員会の相方である。
「私、朔乃って言うの。同じ保険委員会だからよろしくね!」
「よろしくお願いします朔乃さん。」
「敬語じゃなくていいのよ?友達なんだから!」
「じ、じゃあ…さ、くのちゃん?」
ふふふと嬉しそうに笑った朔乃ちゃんはとってもとっても可愛くて綺麗で、女の私でも見とれてしまう。
「それじゃ2人共、今日の昼休みから早速お仕事よ。保健室に忘れずに行ってね。」
「うん、分かったよ妙ちゃん。」
「はい分かりまし、………え?」
いきなり、仕事ですか?
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「失礼します。」
ガラッとドアを開くと、保健室特有の色々な薬品の匂いがした。私がキョロキョロしていると、朔乃ちゃんはずんずん前に進んで行ってしまうので少し急ぎ足で追いかける。白いカーテンに仕切られた空間に、ふわりと微かに煙草の匂いが鼻を掠めたかと思ったその時、白衣を着て片方の目に眼帯をつけた男の人が現れた。……あれ?白衣ってことはこの人先生?え?嘘だよね朔乃ちゃんそんな訳ないよね。だってこの人なんかもう銀八先生より先生っぽくないよ。裏でなんか悪い取引とかしてそうだよ。
「お久しぶりです、高杉先生!」
やっぱり先生だったァァァァァァ!!沖田くん沖田くん、保険の先生ってあんまり大丈夫そうじゃないよ。「大丈夫でィ。やっさしーセンセーでさァ。」って本当は嘘なんだね。そうだよね、聞いた時は分からなかったけど「先生」がカタカナ表記でしかもあの時明らかに視線逸らしてたもんね。Sも大概にしてください。
「……朔乃、なんだコイツは。」
「え?あぁ、東城院四季ちゃんです。転校生で新しく保険委員になったんですよ。」
「うよ、はっあ…や、あの…よろ、よよよろしくお願いしまう、」
か、噛んだァァァァ!!噛んでしまった!あ、ちょっと高杉先生が何コイツみたいな目で見てる!さ、朔乃ちゃんお願いだから笑ってないで助けてください!
「大丈夫よ四季ちゃん。高杉先生って見た目こんなだけど中身は優しいから。」
「え?あ……え?」
そっと背中に添えられた朔乃ちゃんの手に少し深く呼吸をして高杉先生を見てみると、先生は口元を抑えながらクックックッと笑っていた。
「まぁ少しずつ慣れていけばいい。仕事はそれからだ。」
ねぇ沖田くん、どうやら君の言っていたことは嘘でも間違いでもなかったみたいです。
人を見た目で判断するべからず(菓子はそこの棚だ。お前と朔乃なら勝手に食っていい。)
(……え?)
(わー!ありがとう先生!)
(え!?)
(飲みもんは珈琲でいいか?)
(なんか、高杉先生いろんな意味で怖いです。)
※見た目とのギャップに逆に怖くなったヒロイン(笑)
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