どうして私はロボットじゃないの。どうしてみんなはロボットなの。そんなこと言ってもどうしようもないのは分かっているのだけれど、少しずつ、少しずつ老いていく自分と全く変わらないみんなを比べたら悲しくなってしまって、何も悪くない大きな青いその人の大きな手のひらを何度も何度も握った拳で泣きながら叩いた。





「すまないなまえ。」





悲しそうにデッカードは言った。私が泣き止むようにそっと優しく頭を撫でてたくさん謝った。二十歳をとうに過ぎた大人がみっともないと頭のどこかで考えて、それでもやっぱり悲しくて悔しくてロボット刑事課の大きな部屋いっぱいに広がるような悲鳴みたいな声を出しながら泣いた。ずるいよずるいよ。なんで私は成長するの。なんでみんなはずっとそのままなの。死にたくないの生きていたいの。誰より長くみんなの側にいたいのよ。冴島さんよりも東さんよりも勇太よりもずっとずっと私がみんなの隣に立っていたい。





「なまえ。」





どうしてどうして、私の身体はこんなにも脆いの。原因はあんなに小さな目にも見えない菌のくせに、そいつはちょっとずつ私を中から壊していく。背後から私を呼んだ冴島さんは眉を釣り上げていたけれど、泣きそうな顔をしていたからちっとも怖くなかった。おいでと言って伸ばされた褐色の手。あの手を握ったらきっと私はもう二度とみんなに会えなくなるの。それが怖くて必死にデッカードの手にしがみついてさっきよりももっと大きな声で泣く。助けて助けて死にたくないの。呆れられても構わない。真っ白で誰もいない部屋で、心もなければ話もしない機械に囲まれて死ぬなんて絶対嫌よ。





「いやいやいやいやしにたくないひとりはいやよ。」





お願いお願い、私を壊さないで殺さないで一人にしないで。みんなに悲しい顔をさせているのは私、みんなを困らせているのは私。それでも私はここにいたいよ。命が尽きるその瞬間まで。






「っていう夢を見たのよ。」

「話が長い上にいろいろ可笑しいだろ。」

「まあまあパワージョー、出番がなかったからっていじけないの。」

「いじけてねーよ。」





なまえのアホみたいな夢の話に俺達はみんなで笑った。そんな話、本当になってたまるか。俺達はロボットだからなまえよりずっと長く生きるけど、それでも出来るだけ長く側にいる。夢は夢だ。いっぱい笑って、そんな悲しい夢は忘れてしまえ。





「悲しい話はやだもんね。」





そう言って笑ったなまえは翌日の朝早くに一人、本当に真っ白で本当に誰もいない、ピッピッとふざけた音が定期的になるだけの機械が置かれた部屋で息を引き取った。なぁなまえ、悲しい話は嫌いなんだろ?だったらもう一度冗談だって笑ってくれよ。なんでお前、泣きそうな顔で寝てるんだよ。起きろ、起きてくれ。朝だよなまえ仕事しなきゃならないんだ。頼むから目を開けて。



どうして俺達は人間じゃないんだ。どうして彼女は人間なんだ。













悲しい話は嫌いだよって


(そんな彼女が教えてくれた。)

(人間の脆さを知った、悲しい話。)








※J刑事書くと必ず悲しいのになるよどうしよう。







悲しい話は嫌いだよって