「なまえ!!」
「あ、守くん!」
姉のような人になりたかった。
明るくて、落ち着きがあって、優しくて綺麗で、とても女性らしい姉は私の憧れ。いつも彼女が羨ましくてたまらなかった。
「秋?どうかした?」
ヒョコリと目の前に現れた心配そうな姉の顔に、何でもないと首を振れば、そうかと言ってまた綺麗に笑う。
「なまえ!あのさ、」
円堂くんは姉の名をよく呼ぶ。少し恥ずかしそうに、だけどとっても幸せそうな顔をして。彼は姉が好きなんだ。
私の円堂くんに対する「好き」が恋になるずっとずっと前から、円堂くんは姉を好きでいた。
私より早くサッカー部のマネージャーになって、私より早く円堂くんと出会って。そして彼に、好きになってもらった姉。けれど、
「なんだ、また来たのかなまえ。」
「響木さん!」
「いいのか?お前は受験生だろう?」
「ちょっとだけ、会いに来たんです。」
姉の「好きな人」は円堂くんじゃなかった。
別に姉は円堂くんを嫌っている訳ではない。寧ろ彼のことが好きである。だけどそれは、円堂くんの欲しい「好き」や、私の彼に対する「好き」とは違うのを、私は知っている。
「………。」
幸せそうに頬を染めて笑う姉を見て、円堂くんは悲しそうな顔をする。
姉が彼を「好き」でないのも、彼に会うためにここに来ている訳でもないのも、円堂くんはちゃんと分かっている。
それでも姉が好きだから、円堂くんは無理をしてでも笑うんだ。
だけどその笑顔があまりに悲しそうだから、私まで悲しくなってしまう。円堂くんにはいつも幸せそうに笑っていてほしい。なのに、
(どうして、)
笑ってしまいそうになるのは、あぁ…きっとそう。
彼の想いが、実らないと知ってしまっているから。
なんて最低な女だろうか
好きな人の悲しみを、笑ってしまうだなんて。
(姉のような人になりたかった)
(人の幸せを喜び、不幸を悲しめるような人に)
※秋→円堂→ヒロイン→響木さん
※秋ちゃんが怖いwww