Clap







それは小さくてボロい、普通な味のありきたりなメニューしかない個人経営の洋食店だった。


昔は家から近いそこでよく夕飯を食べていて、外食と言えばその店しか浮かばないというくらい俺や俺の家族はそこの常連で、誕生日には馬鹿みたいにでかいケーキが毎年用意されていたのを覚えている(あれはサービスだと言っていたが、ケーキを用意するなら店を改装することを俺はお勧めする)。





「篤志、お店の中で走っちゃダメよ。」





その日は偶然雨の日で、偶然店の床が滑りやすくて、偶然知り合いの家から帰ってきた店長におもちゃを貰った幼い俺ははしゃいで店内を走り回っていた。





「あっ、」





ヤバイ。そう思った時には既に世界はぐるりと回転していて、頭には強い衝撃。ぐわんとした視界で見えた心配そうな母さんの顔に安心したのか、それとも頭の痛みを思い出したのか、次第に零れ始めた涙と共に出てきた子供特有の甲高い叫び声のような泣き声は店にいた客達の視線を集めた。





「痛かったねぇ。」

「泣かないで。」

「男の子だろう?」





いろんな大人からいろんな言葉をかけられ、訳が分からなくなってまた泣いた。

痛い。分からない。もう嫌だ。帰りたい。

頭の中はぐちゃぐちゃだった。残念ながら、この頃小学校に入ったばかりの幼い俺は冷静になるというスキルは持ち合わせてはいなかったのだ。





「ね、少年。」





不意に聞こえた聞き覚えのない声に振り返ると、黒いエプロンを着た若い女がしゃがみ込んで俺を見ている。





「コレ食べたら痛くなくなるかな?」





目の前に出されたアイスクリームの乗ったホットケーキは、一瞬にして幼い俺を笑顔にしたのだった。





「もう、泣かないでね。」





それは偶然居合わせたバイトの店員だった。


















重なった偶然と


(その先にいた貴方)












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