一斬侍 | ナノ
4

眉間に皺を寄せ、こめかみに手を当てたサイタマが小さく唸る。時間が経てば経つ程言い出しづらくなっていた。
こうも喜ばれると水を差すのが躊躇われるし、露骨にがっかりされるだろうと思うと軽率な提案をした自分に対する後悔ばかり沸いてくる。


そんな危険な街にサイタマが住めるのは、サイタマが怪人などワンパンで撃退できるほど強いからだ。だがこの青年はどうだろう。
サイタマの紹介でこのマンションに住んで怪人に襲われでもしたら、自分が死なせたようで寝覚めが悪い。
かといって今更危ないからやっぱり住むのを止めろとも言いにくい。
気まぐれの親切に、趣味でヒーローをやっているからなどとかっこつけた理由をつけなければよかった。

「サイタマ?なんか顔色悪いけど大丈夫か」
「いや…ちょっとな…」

トモキは心配そうにサイタマを見遣った。
この男は思っ
た以上にいい奴だったのだ。
年近いんだからと止められるまで初対面であり年上にサイタマに敬語を使っていたし、靴を脱いだ際のマナーにしてもトモキは礼儀正しかった。
趣味でヒーローをやっていると言った時も軽蔑でも皮肉でもなんでもなく感謝と賛辞の言葉を素直に述べた。
こんなしみったれた世の中ではなかなかお目に掛かれないような、真っ直ぐで気持ちのいい奴だというのがトモキに対する正直な感想だった。

だからこそサイタマは困るのだった。気に食わないような奴なら、怪人が怖いなら諦めるか我慢するんだなと適当にあしらうこともできた。
だが人間関係に淡泊なサイタマも、この青年のことはどうにも無下にしづらかった。

「あー、トモキ。このマンションの住人になるに当たって一つだけ注意点があるんだが…」
「お、なになに」

色々と思考してみた結果、サイタマは事実を述べることにした。
やはり自分からヒーローだと言っておいて事実を黙ったままというのは良くない。ヒーローとしての格好がつかない。趣味だけど。
ここで暮していればいずれ分かる事なのだからやはり今言っておくべきだと判断したのだ。
100%の保障はできないが、できる範囲は自分がヒーローとしての本分を発揮するし、それでもトモキが不安がるなら引き止めはしないつもりだった。例え失望されたとしても。

「実は、この辺りはな…」

一呼吸置いたサイタマが、言葉を続けようとした時だった。


突如、何かが爆発したような激しい破壊音が響いた。衝撃にビリビリとガラス窓が震える。
トモキがあわてて窓へと駆け寄り、音の原因を探す。一方のサイタマは出現した怪人を殲滅すべく玄関へと向かっていた。

「トモキ!ちょっと見てくるからお前はここで…あ?」

靴を履きながら振り返りそう指示したサイタマだが、その先にトモキの姿はなかった。
ガラリと開け放たれたガラス戸。ベランダにもトモキの姿は見当たらない。

「おい、まさかあいつ…」

浮かぶ憶測を胸にとりあえずは玄関ドアを蹴り開けた。

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