一斬侍 | ナノ


「サイタマ、うどん茹で終えたぜ」
「おー、じゃ茶淹れるわ」

キッチンに立つトモキが声を掛けると、座布団を枕に寝転がってテレビを見ていたサイタマがのそりと起き上がる。

今日の昼飯はうどんだ。
かき揚げや温泉卵を乗せたり、せめて薬味に刻みネギやショウガでもあればいいのだが、残念ながら我が家の冷蔵庫はスッカラカンだった。
特売日である今日にたくさん買い溜めるつもりでここのところ買い物を控えていたのだ。
結局乾麺を茹でて市販のめんつゆを薄めてかけるだけという寂しすぎる1品になってしまったが致し方ない。

二人ぶんの皿にうどんを平等に盛って、希釈しためんつゆを注ぐ。
それをテーブルへと運べば、サイタマが湯飲みにお茶を淹れてくれていた。
二人でいただきますと手を合わせる。

「トモキ、今日はバイトの結果聞きに行くんだっけか」
「うん、連絡手段なかったし。1時半の約束だから急いで食わなきゃ」
「高級レストランなんだろ?いいなー、つまみ食いできんじゃね?」
「いやつまみ食いはダメだろ。というかキッチンかホールかもわかんねえんだよな…面接の日は仮合格としか言われなくて。とりあえず来てくれってさ」
「へー」

そんな会話をしながらうどんを啜っていたらあっという間に皿はからっぽになってしまった。
正直、食べ足りない。
バイトが終わり次第ダッシュで帰ろう。今日の特売は気合いを入れて臨まねばと、トモキが決意を新たにしている時だった。

「先生!!」

玄関扉の向こうから声が聞こえた。
その声には聞き覚えがあり、声の主をすぐに思い浮かべたトモキはサイタマを見た。

「お、弟子が来てくれたみたいじゃん」
「だから弟子なんか取らねーって…」

渋い顔をしたサイタマが怠そうに腰を上げて玄関へ向かっていった。
トモキはニヤニヤしながらそれを見送り、テーブルの上を片付ける。弟子(仮)のためにお茶を淹れ直そう。

「あ、トモキさん!やはり先生と一緒にいらしたんですね」
「よう。ジェノス、体直ったみたいでよかったよ。ていうか敬語なんて使わなくていいって」
「いえ!お二人は俺の命の恩人ですので」
「いやそんな恩人なんて…。あ、とりあえずお茶どうぞ」
「ありがとうございます」

生真面目な子だなぁと感心する。
そしてこんな風に年下に敬語を使われるなんて事は久々だったのでなんとなく気恥ずかしい。恩人だなんて言われる程の事はやっていない分余計に気が引けてしまう。

それでもジェノスの意思は固そうで、これはサイタマが折れて弟子入りを達成しそうな勢いだ。
サイタマの顔を見れば、相変わらず面倒くさそうな表情をしている。
部屋の時計をチラリと見つつ、トモキはジェノスに座布団を勧めた。

「飲んだら帰れよ。弟子なんか募集してねーし」
「いいじゃん、怪人退治の時以外はサイタマ暇なんだし」
「オイ、余計な事言うな。お前俺の味方じゃねーのか」
「サイタマみたいなヒーローが増えるっていいことだろ?俺は応援してるぞ」

ジェノスの向かいに腰を下ろすサイタマへ、トモキはパソコン前のデスクチェアの上から茶々を入れる。
ジェノスがトモキを期待と感謝の目で見つめたのに、親指を立てて応えた。
恨めしげなサイタマの視線は無視だ。

ジェノスはいい子そうだし、この前の一人で無茶をしすぎる姿を見る限り、サイタマのような保護者がいた方がいい気がした。
心の中でジェノスにエールを送りながらパソコンに向かいキーボードを操作する。ここ最近トモキはパソコンから地図アプリを開き道を確認できることを学んだのだ。
バイト先のF市の位置をもう一度地図で確認したかった。1度行った事があるとはいえ、万一にも道を間違えたくない。

サイタマとジェノスの会話をBGMに地図を頭に叩き込み、リクルートスーツに着替えて出掛ける準備を整えた。
ふと気付くとジェノスの凄絶な過去語りが始まっていた。

暴走サイボーグという敵に町を壊され家族を殺され、唯一生き残ったジェノスは復讐のためサイボーグとして生まれ変わり、その仇を追い掛けているという。
なんか、すごく重いものを背負った子なんだな……。
片手間にもそれを聞くトモキはジェノスに同情とも憐憫ともつかない感情を抱いたが、ふとサイタマを見ると白目を剥いてピクピクと額に血管を浮かべていた。
あ、あれは話が長すぎて聞いてられない時の顔だ。

「バカヤロウ!20文字以内で簡潔にまとめて出直してこい!」

我慢出来ずにそういい放ったサイタマは、本当にサイタマだ。
ジェノスの長話に家を出るタイミングを失っていたところもあったので、切り上げてくれたのはトモキにとっても少し有り難かった。

「ジェノス、俺バイト行く時間だからもう出てくけど説得頑張れよ!」
「はい!ありがとうございます。トモキ
さんもお勤め頑張ってください!」
「おい、なんでお前ら普通に仲いい感じになってんの?」

不満げなサイタマの言葉は気にせずに靴を履いて部屋を飛び出した。



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