一斬侍 | ナノ
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「トモキー、今日の昼飯だけど…」


ツケといてやるからうどん食いに行かねえ?
サイタマはその勧誘の言葉を飲み込んだ。
開け放ったドアの向こう側には人気のない空間が広がるばかりだったからだ。あれ?いつもなら帰ってる時間なんだけどな。
サイタマは首を傾げて何かを思い出すような素振りをしてから、ああと納得する。


そういや、今日は昼帰らないとか言ってたっけか。


朝食の際のトモキの言葉によると、今日の昼過ぎにF市の飲食店でバイトの面接があるそうだ。今の今までどこの店でも門前払いを食っていたトモキにとっては面接まで漕ぎ着けられただけでも相当嬉しいことだったらしい。
採用されるまでは分からないからと平静を装いつつも、上擦った声ではバレバレだった。
微笑ましくすらあるそんな彼をいつも通り見送ってから4時間が経つ。
それからテレビを見たり漫画を読んだり。ニュースを見てもこれといった事件は起きていないのでダラダラと過ごしてサイタマの今日の午前中は終わったのだ。
外から昼の12時を知らせるチャイムの音が聞こえる。うどんでも食べたい気分だったのでトモキを誘おうと思ったのだが、いないのなら一人で行くか。
今頃トモキはファミレスで何か気合いの入るものでも食べているだろう。

この間、迷い犬探しのお礼にともらったファミレスでも使えるプリペイドカード。
二人分の食事で使用してもまだ1000円以上残っているそれを今日はトモキが持っているはずだ。どうせ家で食わないならなんかうまいもん食っとけと今朝渡したのだ。


カツ丼だとかベタなもん食ってもたれてなきゃいいけど。


そんな受験生の母のような心配をしながらサイタマがトモキの部屋を後にしようとして、ピタリと足を止めた。
玄関のシューズボックスの上。見知ったカードが置いてあるのは気のせいか?


「おい、これ…。」


手にとってみてサイタマは確信し、はぁと溜め息をついた。これを忘れてくなんて抜けているにも程がある。

まさかプリペイドカードなしでファミレス入ってねぇだろうな…。


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