自分が親父の所に入ったのはいつだったか。かなり昔の事のような気もするし、ついこの間の事のようでもある。何度も命の危機に晒されて、それでも海賊をやめなかったのはなぜだろうか。生きていくため、といえばそれまでだが、自分を『家族』と言ってくれたあの人の元を離れたくなかった。仲間もいて、俺の居場所はずっと白ひげ海賊団の中にあった。
だがあの日、***を助けてから少しずつ何かが変わった。
仲間に***が加わってから、モビーディック号が一層にぎやかになった。***の元々の性格が白ひげ海賊団に合っていたんだろうな。
一緒に暮らして生活をしていくうちにどんどん惹かれていった。
***が何か隠しているのは最初から薄々勘づいてはいたが気に止めなかった。きっと、いつか話してくれると信じていたから。
***があちらの世界の住人じゃないことよりも、俺と同じ気持ちだったというのが、何よりも嬉しかった。絶対、死ぬ気で***を守ろうとも思った。
決心した矢先、***が住む世界に飛ばされ、俺は始めて船を降り、二人だけで生活をするようになった。海賊でも、医者でもないただのマルコになった。傍には***がいて、二人だけの生活。楽しくて、この時がずっと続けばいいのに、とさえ思ってしまった。だがいつも楽しい景色の後ろには仲間の顔が浮かんでしまう。親父にこの景色をみせたらどう思うだろうか。あいつらのためにこの医療を学べたらどんなに助かるだろうか。いつもそんな事が頭の片隅に過った。
二人で一緒に戻りたいなんて、かなり自分勝手な事だ。
元々、***とは住む世界が違う。それが元に戻るだけだったのに。
あの夜は・・・。
***
『私もついていくから』
その言葉を聞いて、俺は飛び上がって***の方を向いた。・・・予想していなかった言葉に驚いたからだ。
「・・・本気かよい?!」
「・・・え?でも、この前はマルコが一緒に来てくれって」
「あ、あぁ・・・言ったよい。」
「・・・嬉しくなかったりした?」
「そんな事無いよい!嬉しいに決まってるよい!・・・だが」
「マルコの事だから家族がー、とかこっちの方が住みやすいよいー、とか言うんでしょ」
「・・・そうだよい!そんな簡単に返事するなよい。その歳までこっちで暮らしてきたんだろい。おそらくもうここには、」
「あー、私マルコが言うかな、って言葉予想してたけど本当にそのまま言った。・・・あのね、マルコ」
***は緊張している様子も、落ち込んでいる様子もなかった。むしろようやく伝えられたからなのか、サッパリとした表情をしていた。
「私、色々考えたの。夜寝る前とか、マルコとお昼寝してる時とか。・・・マルコと幸せになるのは、やっぱりここじゃないなぁって」
「***・・・」
「ほんとに色々ね!考えてね・・・それこそ、家族の事とか。でも、私こっちの生活捨てるわけじゃないから。いつかきっとまた会えるよ。・・・だってあっちでマルコと出会えたんだもん。」
「・・・そう、かよい」
きっと、***がこの答えにたどり着くまでは色々な葛藤があっただろうに、表情からは微塵も感じられない。・・・辛い決断をさせてしまった。
俺は***を抱きしめた。そして、
「愛してる、よい・・・」
そう、耳元で呟いた。
**
「マルコ!早く早く!」
「お。おいおいそんな急がなくても大丈夫だよい」
「急ぐよ!私、一回決めたら楽しまなきゃ損って思っちゃうんだから!」
「・・・***はそういう奴だったねい」
俺たちは帰る日を決め、それに向けて行動する事に決めた。
といっても、『買い出し』と『疲れること』の二つだけだったが。
今日は船に戻った時の生活用品を買い出しに来た。***はすこぶる元気がよかった。胸のつかえがとれたようにはしゃいでいた。
「うーん。白ひげさんのお土産はなにがいいかなぁ」
「***の生活用品が先だよい」
「でも!これからまたお世話になるわけだから、改めて挨拶しなきゃ!・・・はっ、私戻っても追い出されないよね?!居候の身だったこと、すっかり忘れてた」
「気にすんない。親父は***の事好きだからねい・・・あー、これなんかいいねい」
「そうなのかな・・・ならいいんだけど。あ、この前言ってた薬にもなるお酒ね。これダースで販売されてるかな・・・」
そういって店員の元へ走る***。
「すみません!これってダースでありますか?」
『一升瓶をダースで・・・?!い、いえケースでしたらありますが、宴会か何かでしょうか」
「いえ、お酒好きな人が一人一回分で飲みます」
『・・・一人用ですか?!!』
何やら店員が驚いた顔をしているので、一緒に話すことにした。