予めわかっている別れと、急に来た別れの場合どちらが辛いのだろうか。もちろん予めわかっていた方が気持ちの整理はつくだろう。覚悟も出来る。悲しいことには変わりはないと思うけど。
帰る途中で、仮定ではあるが条件を伝えてから自宅に着くまでの間、2人とも何も話さなかった。自宅に着いてからもそれは同じで、風呂に先に入るかとか、そんな内容を一言二言話しただけだった。ボーッとしたままご飯や風呂を済ませて、布団に入る。
チラ、とマルコの方を見ると、こちらに背を向けていた。
明日の朝はちゃんと話せるかな。
(…いつ帰るか、とか決めてるのかな)
マルコのことだから、私が条件を伝えた時点で全て決めているはずだ。ただ、お互いにそれを伝えてしまうと終わりに向かってしまうため、きっと私のために何も言わないのだろう。
(マルコ…)
ふと、白ひげさんの事が頭に浮かんだ。大きくて、温かくて、懐が広い人。あの人のためにクルーは命を掛けている。私の事を娘と呼んでくれて、おかげで騒がしいけど優しい仲間がたくさん出来た。いろんな経験もした。
私があちらの世界にいた時は覚えることがたくさんで、忙しくて大変だったけど、
それ以上に楽しかった。
なによりマルコに出会う事が出来た。
私の大好きな人。なによりも、私を大事にしてくれる人。マルコと恋人になった時は、こんな嬉しいことがあっていいのか、と嬉しくて眠れない日もあったっけ。そんな時はマルコの部屋に行ってお話したりしてたな。あ、そういえばマルコの部屋に行く途中でエースが素っ裸でお風呂から出てきて叫んだ事があったな。それを聞いて隊長がほとんど集まって騒ぎになったんだよね。
…あの日々が懐かしい。そんな時間は経っていないはずなのに、懐かしくて堪らない。
「ねぇ、マルコ」
私はマルコに呼びかけた。
「なんだよい」
やっぱり起きてた。…マルコも色々考えてたのかな。
「今日の図書館でね、お酒特集記事があってね。親父さんが好きそうなお酒があったんだよ。しかも少しずつ飲めば健康にもなれるようなお薬みたいなお酒があったの。」
「…そうかよい」
「あとね、エースやサッチさんの似顔絵をイゾウさんが書いたことがあったよね。イゾウさんわざとエースを火だるまで書いたことがあったよね。あれは笑ったなぁ」
「…***、もういいよい」
「…私ね。あの白ひげ海賊団でいた時のこと、細かいところまで覚えてるよ。だって人生であんなに楽しかった毎日無かったから。」
「…」
「マルコが私を助けてから、みんなとご飯食べて、仕事も与えてくれて、みんなと話して。なんて幸せな日々なんだろうと思った。ずっとこんな日が続けばいいのにな、って
」
「…そうかよい」
「だから…マルコは、帰らなきゃだよ」
そう、いつも楽しい空間にはマルコがいた。みんなと笑って、たまに喧嘩して、クルーに怒って。
私に好きといってくれた、あなたが。
「…***はそれでいいのかよい」
「…うん、いいの」
私も心に決めたから。
「私も、一緒に戻るよ。」
一緒に来てくれ、といってくれた、あなたへの返事。