緩やかな斜面を足早に降りる。マルコにばれない様に図書館を抜けてきたから早く戻らなければ。さきほどの「疲れる事が条件」という仮定を思い返してみた。他に条件は思い当たらないし、おそらく当たっているだろう。
しかし私は、その事について思いついてからなぜかずっと気持ちが晴れなかった。
マルコはあちらの世界の住人だ。それにエースや白ひげさんなどマルコを必要としてる人は大勢いるんだから、方法が見つかってよかったんだ。
これからもマルコは白ひげ海賊団として生きていくんだから。
・・・私が、独り占めしていいような人材じゃないんだから。
しかし、自分を納得させようと色んな理由を考えれば考えるほど、心の奥が痛み涙が出てくる。
「・・・わがまま、っだよね・・・」
『ずっと一緒にいたい』と思うなんて。
口に出して言ってはみたけれど、それでも涙は止まらなかった。
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図書館についてからは、一旦トイレに行き目が赤くなっていないか確認してから戻った。幸いマルコはまだ本に夢中だった。
「マルコ、その隣に積んである本借りるの?」
「おう。家に帰ってからみるよい。頼んでもいいかい」
「うんわかった。じゃあ、借りてくるね」
マルコの本を借りて図書館を出る。私は条件についてどう伝えようか、迷っていた。正直、マルコの反応が怖かった。やっぱり喜ぶのかな。・・・喜ぶよね、生まれ育った元のところに戻れるんだから。
「***、さっきから黙っててどうしたんだよい」
「え?あ、ごめん」
「・・・やっぱり本調子じゃなかったかねい」
「ううん。体調は大丈夫だよ。もう、具合も悪くないから」
「そりゃよかった。今日見たのはテクノロジーの本を読んだよい。深くは理解出来なかったが、技術が発達してるっていうはわかったかねい」
「テクノロジーかぁ。私は興味すらないや。マルコは色んな知識をすぐに吸収出来てすごいなぁ」
「あぁ。親父が聞いたら喜びそうな話だよい」
その一言を聞いて胸が痛んだ。でも、その一言のおかげで決心がついた。
マルコは元の世界に帰りたいんだから、私の気持ちは置いておかねばならない。だから、もう迷わない。
「ねぇ、マルコ。」
「なんだよい」
私だけ歩みを止め切り出す。
「元の世界に戻る方法ね・・・おそらく、だけど・・・疲れる事だと思う。」
声が震えてしまった。出来る限り、明るく言おうと思っていたのに。
マルコが数歩進んだ先で止まり、少しだけ沈黙が流れた。
「・・・そうかい。」
マルコは振り返らずに、一言だけそう言った。