夢を見た。働き始めてすぐの頃の夢。最初はとても辛くて、今もあまり思い出したくないくらい。次の日は休みだからと深夜近くまで働いていた事があった。もう思考がゼロになるくらいヘトヘトになって、道を歩いてた時。大きく背伸びをした瞬間に空を見たらとても澄んでいて綺麗で驚いた。
(毎日通る道なのに新鮮だなぁ)
どうせなら、といつもの散歩コースの高台に行ってこの景色を堪能し少しでも癒されようと、そこへ向かった。
「あーやっぱり綺麗だな・・・」
高台に登ると、自分の住んでいる街と、夜空と月がとても綺麗で。
腰かけてしばらく景色に癒されていた。そして疲れからか、ウトウトし始めたときに聞こえてきた、波の音。まるで自分がふねに乗っているような感じの揺らめきとカモメの声。あぁ、こんなゆったりした世界で暮らせたらこんな疲れもないのかなと感じた事がある。
そこで目が覚めた。
夢から覚めたばかりで何が現実か一瞬わからなかったけど、起き上がって辺りを見渡すと、自室のベッド。
(・・・そういえば、昨日はあのまま寝ちゃったの、かな)
昨日のマルコとの夜と一気に思いだし恥ずかしくなってしまう。それにしても自分の体はあんなにも汗をかいたはずなのに清められ、ベッドも綺麗になっている。しかし、隣で寝ているはずのマルコがいなかった。
「マルコ・・・?」
すると、キッチンの方から軽快な足音が聞こえてくる。だが、声に出した後にしまった、と思ってしまった。あそらく致した後、体を清めてくれて、ベッドで一緒に寝たとは思うが今は朝。その事実が恥ずかしくて、ちゃんと顔を見て話せるだろうか?
私の心配をよそに部屋にマルコが入ってきた。
「***、呼んだかよい」
「マルコ・・・う、うん。どこにいったのかなって」
その返答を聞いてマルコが柔らかく微笑んだ。
「昨日俺が酒飲んでばっかりで、夜ご飯もまともに食えなかっただろい。朝メシ作ってたんだ。起きれるかよい?」
「え、ご飯?ありがとう。食べたいな」
そういえばドアの向こうからは何やらいい匂いがする。起き上がろうとすると、すかさずマルコが肩に手を回してきた。
「どしたの?マルコ」
「・・・昨日はその、無理させちまったみたいだからねい。立てるか」
「だだだ大丈夫だからー!」
昨日の事を思い出させるような発言に、思わず思いっきり立ち上がり走ってリビングまで向かう。
今日はどうやらマルコの顔を直視できそうにないなぁ・・・。
「ご飯美味しそう・・・。」
「***の見よう見真似だけどねい、こっち来てから一緒に料理するようになっただろい。それで覚えた」
「すごく嬉しい。ありがとう!」
「さて、食べるかねい」
朝食をとりながら、さっきの夢について考えていた。あの場所はおそらくマルコの世界に繋がっているのだろう。あの疲れていた時に感じた波の音や、カモメの鳴く声は本物だろう。・・・条件が揃えば、きっと、帰れる。
「・・・***、***!」
「えっ、なに、マルコ」
「・・・何か難しい事、考えてるんだろい。どうした?もしかして昨日の・・・痛かったり嫌だったりしたかい」
「え?!違うよ!あんなに幸せだったのに、そんな事ないよ!」
「・・・!そうかよい、そりゃ、よかった。じゃあなに考えてんだい」
「ううん。ちょっとぼーっとしてただけ。」
「ならいいんだ。・・・今日も図書館にいくかよい?」
「うん!いこっか!」
考えていても始まらない。直接、あの場所に行けばわかると思った。図書館からあの丘まではそこまで離れていないから、マルコと離れてから様子を見に行ってみよう。
*
「今日は何を読むの?」
「そうだねい。前回は地形や歴史中心だったから今回は考古学とかいいねい」
「そっか。じゃあ私はお料理の所にいるね。」
そういって図書館で一旦解散し、マルコの姿がみえなくなった時、私は図書館を出て散歩がてらゆっくり丘に向かう事にした。
「うーん。条件条件・・・なんだろうなぁ」
斜面を登りながら考える。今日はとってもいい天気なのに人があまりいなかった。花も咲いていて、写真をとりつつ頂上へ向かう。
「まぁこの丘に来ることは大前提として。あの夜来た時と、あっちの世界で登った時にあったことねぇ」
ここは散歩コースだからいつもトリップ出来るとは思わなかった。そんな噂も聞かないし。
もやもやと考えている間に頂上についた。
「・・・やっぱり何もないよね」
そこに広がるのはいつもの見慣れた景色。ベンチに座って、暖かい日を感じながら思考を巡らせた。
「なんだろう、服装・・・は違ったし。今と違う事・・・」
あっちでマルコと登った時は、たしかデートだからってテンション上がって無駄に走ったりしたくらいか。
後、一人の時は残業後だったから、へっとへとだった・・・あ。
「もしかして、疲れてる事が条件・・・?」