「かーいーふーく!!!」
「おいおい、そんな動き回っちゃぶり返すよい!」
「大丈夫!マルコが看病してくれたから健康そのもの!ありがとう!」
心も体も参っていた、翌日。いつも以上にすっきり目覚める事が出来て、無駄にマルコの周りをくるくると回っていた。風邪引いた後なのにこんな元気なのは、本当にマルコの献身的な看病のお陰だろう。
「今日こそは一緒に図書館行こうね!」
「ダメだよい!今日は大人しくするよい。」
そうマルコに言われると、心配かけちゃったし強く断れなかった。
「うぅ・・・じゃあ!夕飯の買い物はいいでしょ?!冷蔵庫に食材なかったし、そのくらいは!
お礼にマルコに美味しいもの食べさせてあげたいから〜〜!お願い!」
「それくらいなら・・・まぁいいよい。具合悪くなったら不死鳥になって連れて帰るよい」
「無茶はしないとチカイマス」
なんとかマルコを説得できた。せっかくおうちにいるんだし、おうちでしか出来ないこと、やりたいな。
「そうだ!私お母さんから貰った梅酒があるから、体温めるためにも晩御飯の時飲まなきゃ。」
「酒かよい?まぁ、梅酒なら薬にもなるか・・・」
「そういえばマルコって酔うの?あんまり見た事ないけど」
「基本酒は水と一緒だろい・・・酔ったとしてもその隙に敵襲あったら困るから、セーブするようにしてるよい」
「いや、水と一緒は違うと思うんだけど・・・そうだったんだね。マルコの酔った所、おもしろそうだな、見てみたいなー」
ふと、思った事をそのまま言ってみた。
・・・そして後悔した。
「ほう」
少しだけ笑いながらそう言ったマルコに、ぐいと引き寄せられすっぽり胸の中に収まった。
「俺が酔ったら、責任取ってくれるのかよい」
上からそう呟くマルコに意図を察して恥ずかしくなってしまう。
「責任って、」
「酔っても、俺がこんなに優しいといいねい」
くつくつと喉の奥で笑いを堪えながらそう伝えられると、私を離し、啄むようなキスをされた。
「〜?!っマルコのえっち!風邪移っちゃうしだめだよ!」
「もう治ったんだろい?さて、買い物に出掛けるかい」
キスの後視線を合わせて頭を一撫ですると、外着に着替えるためにマルコが部屋を出た。
私はまだ高鳴る鼓動を押さえきれず、その場に立ち尽くしていた。
(ああああれが大人の余裕ってやつかあああ!!)
*
いつものスーパーへの道。最近はずっとマルコと買い物に行く事が日課になっており、その間は手を繋ぐことが習慣付いていた。マルコとは身長も体格も違うから歩くスピードも違うはずなのに、外を歩く時は歩幅を合わせてくれていた。こういう、ちょっとした所にときめいてしまう。後、荷物を持ってくれる所とか。・・・海賊って海兵がいうように汚くて、ガサツで、みたいなイメージだったのに、マルコはまったく真逆だ。・・・元々のマルコの性格だとは思うんだけどね。
スーパーにつくと、青果コーナーを見つつマルコに何か食べたい物はあるか、と尋ねた。
「***が作ったものならなんでも食べるよい。・・・っと、前サッチが何でもが一番困るって言われたな・・・」
「ふふ、そうね。何でも、が一番困るのよね。食材でもいいよ?マルコ、何の食べ物が好き?」
「果物なら、パイナップルがすきだよい」
「パイナップルかぁ。じゃあデザートにお酒と合わせたフルーツパンチにしようかな。・・・あとは?」
「そうだねい、***と一緒にたべられるような物がいいよい」
「私と?なんで?」
「同じ釜の飯を食べた仲間とかなんとかいうだろい?」
「なるほど!ふふ、じゃあ今日は温かいお鍋にしよっかな」
「楽しみだよい」
お酒も買って(普段飲まないような度数高めのお酒と、熱燗用の日本酒)、今日の鍋はもつ鍋にすることにした。
帰宅して料理の準備。私は飲まないけどマルコ用に熱燗も準備する。こたつで鍋に熱燗なんて、ド定番が一番ワクワクするのよね。
「出来たー!!」
「おー、どれどれ、美味そうだよい。これは、酒を温めたのかい?」
「うん。熱燗知らない??こうすると、日本酒の香りが立つんだって。私は飲まないけど前に友達が置いていったのよね。マルコが使ってくれてよかったー」
「へぇ。基本そのままが多いからねい。珍しくはあるよい。頂くとするかい」
「いただきまーす!」
二人並んでテレビをつけて鍋を食べる。たまにマルコにお酌するけど、ペースが尋常じゃなく早い気がする。
「・・・マルコ、大丈夫?」
「平気だ、よい」
マルコの顔を見ると、顔が赤いのは気のせいではないはず。もしかして私、ものすごく珍しい光景を見ているのでは・・・
そしてそのペースで飲み続け、ご飯を食べ終わった。
*
「一升瓶って、一日で空くものなの・・・?」
マルコに合わせて熱燗を作っては注ぎ、作っては注ぎ、を繰り返していたらいつのまにかもう無い。
(本当にお酒強いんだ・・・)
「あ、もう無くなったかよい。じゃあ手元にあるのが最後か・・・」
「梅酒でよければあるけど、ほんとに大丈夫?私ならとっくに病院行きだけど」
「んー、ちーっと、だけ酔ってるよい。***、」
キッチンに食器を下げていた時に、ふいにマルコに呼ばれ隣に座る。
「マルコ、梅酒もよければ注いでくる、っ?」
酔って目が据わっているマルコの方を向き、確認をしようとした時、唇を塞がれた。
朝した、ちゅ、を音を立てるだけのキスではなく、それはにても似つかず。
深く唇を重ねられ、少しだけ開いていた口に舌が入ってくる。
どうしよう、どうしよう。
そういう経験が無いわけではないが、こんなに緊張するキスは久しぶりだった。途中の息の仕方も忘れるほどの、荒々しいキス。
「ま、っ・・・」
マルコ、と名前を呼んで止めようとしても、呼吸の間に舌を絡めてきて、止まる気配はない。後ろに手をついて逃げようとすると、腰に手を回し、逃がしてくれなかった。
「・・・すまねぇ、よい」
ようやく唇を離してくれて、ぽつりとマルコがいった。そのまま抱き締められる。
「・・・忘れようと、したんだよい」
「・・・忘れる?なにを」
「この前のあっちの世界に戻ったら、って話だよい。***の答えを聴くのが怖くて、忘れようとした。けど、***と一緒にいればいるほどどんどん好きになって・・・つい、酒の力借りてキス、したよい。すまん」
抱き締める腕により力が入る。私だって考えないようにしてた。きっとマルコは、帰るっていう選択をするだろうから。その時は絶対に止めないでおこうと思っている。
「離れたくなくて、でも傷つけたくなくて俺だって必死なんだよい。だから、出来れば戻る時ついてきてくれねえかい。」
マルコからの告白。
「・・・う・・・っ、くっ・・・」
自然と涙が溢れた。私はなぜか、すぐ答えることが出来なかった。
「・・・ごめんな。すぐ答えが欲しい訳じゃないよい。考えておいてほしいだけだ」
「・・・ごめ、んなさいっ・・・」
「***が悪い訳じゃないよい、心配するな。」
とんとん、と優しく背中を叩いてくれた。マルコの胸に納められている今、涙が止まらなかった。
「・・・***。泣いてるところわりぃんだが」
「ぐすっ・・・なに?」
「・・・抱いても、いいかよい」
その問いかけにまた顔が赤くなるのを感じながら、私は浅く、頷いた。