看病しよう


あの夜、気まずい雰囲気はあの時だけで翌日からは特にその事にはお互い触れないようにしていた。
数日立てば、マルコもすっかりこちらの生活に慣れたようで、家事を積極的にしてくれていた。いい旦那さんになるなぁ、マルコは。
・・・私はというと。

「うぅ・・・」

「あー、喉も腫れてるねい。こりゃ、風邪かねい」

医師マルコが言うのだからそうなのだろう、私は貧血と風邪で寝込んでいた。

「ごめんね、今日はまた図書館に一緒に行くっていってたのに。なんならマルコだけで行ってもいいから・・・」

「んなこと言うない。俺は***と一緒だからどこだって出掛けたいんだよい。・・・腹減ったろ、何か腹に入れるもん、作るよい。」

「ごめんね・・・ありがとう」

そういってマルコが部屋を出ていく。

風邪なんて引いたの、いつぶりかなぁ。私結構頑丈だから、なかなか風邪なんて引かないのに。しかもマルコと一緒にいる時に限って・・・もうやだ、辛いし。

それにしても、この部屋はこんなに寒かっただろうか。こんなに静かだっただろうか。マルコが一時居なくなるだけで、とても寂しい。これは風邪のせいなのかな。それとも、

「お粥だけど、こっちこれるかよい」

そういってマルコがひょっこり顔を出した。その顔を見た瞬間、なんだかとても泣きたくなったのは、なぜだろうか。

「マルコ・・・」

「どうした?やっぱり、まだ辛いかよい」

ベッドに近づき、腰掛ける。熱を測るように手を額に乗せてくれた。

「・・・まだ熱が高いよい。辛いな」

「マルコ、・・・お願い、近くにいて」

「・・・おう、俺はここにいるよい」

手のひらから優しさが伝わるくらいに、ゆるゆると頬を触られる。マルコは優しい。だから、”ずっと一緒にいて”なんて言ったら本当にずっといてくれるだろう。その優しさがとても、ありがたい。でもそれは同時に辛くもあって。あの夜の問いを、私は出せるのだろうか。マルコも私も傷つかない方法があればそれが一番いい。でもきっとそんな物はなくて。いつかきっと、答えを出すべき時がくるんだろう。私は、どんな選択をするのかな。あぁ、でも今はマルコを一人じめしてもいいですか。だから、だから。

「・・・ごめんなさい、マルコ。だいすき」

そう言って、瞼を閉じた。




  








          *
<マルコ視点>

***が風邪を引いて寝込んだ。診る限り、風邪自体は大したこと無さそうで安心した。
最近、俺を楽しませてくれようと、あちこち歩きまわったせいか、疲れが出たのだろう。
こちらの世界にきてから、***の世話になりっぱなしだったから、たまには恩返し含めて看病をしっかりやろうと決めた。
風邪を引いた***はいつものような元気はなくて・・・まぁ病人はそんなものだが。

いつもより甘えたで、寂しがりやで、俺がちょっとでも目を離すと次部屋に入るまで泣きそうな顔で扉を見ていたりする。・・・男として、来る物はあったが、理性で封じ込めた。そんな物で右往左往するような年でもなし。

「そんな心配しなくても、近くにいるよい。」

「ちが、家事させて申し訳ないなって思って見てたの」

「そうかよい。今日は俺に任せて、病人は休むよい」

「ごめんね、迷惑かけちゃって・・・早く治すから」

「俺が世話になってるから、たまには恩返しさせろい。腹へってるだろい、何か作ってくるよい」

朝御飯も食欲が無くて抜いているため、体力をつけるためにも食わせないとな。

キッチンに行き、お粥を作った。

このキッチンも大分使い慣れ、調味料の場所も覚えた。ふと、料理人であったサッチの事を思い出す。サッチはあんな見た目なのに、料理に関してはうるさくて、調味料適当においたら後でかなりうるさく怒られたことがあった。・・・皆、息災だろうか。親父は、無事だろうか。

こちらにきて考えないようにしていたが、一人になるとどうしても考えてしまう。今は***の気持ちが痛いほどわかる。辛いだろうと思ってはいたが、一人というのは、きつい。

しかし、俺には***がいる。***がいたから、やっていける。あちらで見ていた笑顔の裏で俺にも見せない、涙があっただろうか。

ご飯を混ぜ、お粥が出来た。きっとまた***は寂しがっているだろうから、早くいってあげねぇと。

「お粥だけど、こっちこれるかよい」

努めて明るい声でそう伝えると、やはり***は今にも泣きそうな声でこちらを見てきた。

「マルコ・・・」

そうやって名前を呼ばれると、どうしようもなく愛しさが溢れる。
喜びを噛み締めながら、側に寄る。

「どうした?やっぱり、まだ辛いかよい」

そんな問いかけでごまかす。

「マルコ、・・・お願い、近くにいて」

「・・・おう、俺はここにいるよい」

そう伝えると、***はゆっくり目を瞑り眠りについた。

「・・・ごめんなさい、マルコ。だいすき」

そういって、涙を一筋流していた。

俺は***に惚れている。きっと、***が思うよりもずっと。だから、「ずっと側にいて」なんて言われたらどうするだろうか。***のようにこちらの世界に来れたと言うことは戻る時がくるだろう。

俺だって一緒に居たい。だが、もし***がこちらの世界に居たいといわれたら、その時は?

いつかはきっと、決断を下さねばならない。

「俺だって、大好きだ。・・・ずっと一緒にいてぇよい」






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