私は洗濯機に洗剤と柔軟剤を入れて洗濯ボタンを押した。思えばあちらの世界では主に手洗いで自分で洗ってたもんだから文明の力にちょっぴり感動した。
「よし。おでかけしましょうか!」
「この機械が終わるまで待つかよい?」
「あ、これは乾燥までしてくれるから大丈夫なの」
「へぇーそりゃ便利なもんだ」
マルコはこちらの世界に来てからというもの、関心しっぱなしだ。というより何にでも興味を持って、私が答えられなくて、ちょっと困る事が多い。
車はどういう仕組みなのか、とか、映像伝々虫もどき(テレビ)は生き物じゃないのにどうやって連れてくるのか、とか・・・。ざっくりと説明したらマルコがちょっぴりがっかりしてたので、本屋さんか図書館にも連れていこうと誓った。私の勉強不足を補うためにも!
「今日はマルコの日用品を買いにいくのと、図書館にもいこっか。」
「あぁ、そりゃ助かるよい。後は新聞が読みたいんだが・・・」
「図書館にあると思うけど、あっちの世界みたいにおもしろい物じゃないよ?」
「構わねぇよい。こっち情報を知っとかねぇとな」
「わかった。後で寄るね!」
私がトリップして一番最初に思ったのは生きていけるかどうかだったのに、マルコは全く動じていないようだ。むしろこの機会を楽しんでいる。本当にすごいと感じている。・・・不安じゃないのかな。聴こうとは思ったが楽しそうなところに水を指すのはやめておいた。
「じゃあいまからショッピングモールにいくから、バスに乗るね」
「よーい」
二人でバスに乗る。バスに揺られながら、マルコは真剣な表情で外の景色を見ていた。きっと頭の中は不思議で溢れてるんだろうな、と思うととてもかわいく思い、笑みが溢れる。
「・・・男女二人連れは、手を繋ぐことが習慣なのかよい?」
「うーん、習慣ではないけど、この辺りデートスポットだからかな。みんな仲良しだね」
マルコの視線の先を見ると噴水がある公園が見えた。なるほど、カップルだらけだ。
「・・・そうかよい」
そう言ってマルコは私の手を優しく握ってきた。
「…マルコ?」
「俺らも、仲良しだろい。せっかく二人しかいないんだから、この状況を楽しみたいよい」
「ふふ、そうね!」
私はその手を握り返した。
*
ショッピングモールに着くと、まず洋服を探しに行った。そういえば、マルコにあう服なんてこの店にあるのだろうか・・・。少しの不安を抱え男性物を扱うお店に着いた。
「いらっしゃいませー!」
そういって迎えてくれた爽やかな男性店員さん。・・・めちゃくちゃ背が高かった。といってもマルコよりは小さいみたいだけど、それでも私から見たら高いことには変わりない。
「うぉー!俺より高い人、初めてお客様で見ました!!!なにかお探しでしょうか?!」
「あ、そうですか・・・では彼に洋服探してあげくれませんか?」
「わかりました!おまかせください!この店、俺が着れるくらいのサイズ取り揃えてるんで、大丈夫っす!」
「頼むよい」
キラキラした店員さんと一緒にマルコが服を選ぶ。私は邪魔にならないようにアクセサリーを見ていることにした。店員さんはコーデをしながら、「仕事は何をしてるんですか」とか、「よく頭ぶつけて痛いですよね」とか「今日は彼女さんとデートですか」とかマルコに矢継ぎ早に話しかけている。店員さん、ものすごく楽しそうである。
(なんとか洋服は大丈夫そう)
何日いれるかわからないけど、私のを貸す訳にもいかないし・・・。いいお店にあたってよかった。
「彼女さん!ちょっとこちらにお願いします!」
「?はーい」
「いやー今回はめっちゃ楽しかったっす!彼氏さんめっちゃ体格いいんで、がんばりました!」
そういって試着室の前に案内してくれた。
「開けますよー!」
そういってカーテンを引いて、マルコを見た。
「・・・いいですね?!」
「いいでしょう?!この体格じゃなきゃ似合わない格好ですよー!この皮のジャケット似合いすぎっす!」
「・・・よい」
「ものすごくかっこいいですね!よし、買いましょう!」
「ありがとうざっす!」
店員さんが見繕ってくれた洋服がとてもマルコに似合っていた。あちらでは肌を見せてラフな格好が多かったが、こういうかっちりした服装も似合う。・・・なんて羨ましい。
「***、こりゃーいいけど、戦いには不向きだよい」
「戦い・・・武道かなんかですか?」
「いえ!なんでもありません!お会計お願いします!!」
支払いを終えて、お店を出る。
「マルコ、その服似合ってるよ!」
「***が喜んでくれるのは嬉しいんだが、戦いになったら上手く動けないよい」
「敵はいないから心配しないで。もしなんかあったら警察呼ぶしね」
「海軍かよい?!やっぱりこの服は・・・」
「わー!マルコは捕まらないから!似合ってるからダメー!かっこいいのに!」
すぐ脱ごうとするマルコを止めるのは骨が折れました。
*
その後は日用品を買い、図書館に向かう。
「おお、こりゃ楽しみだよい」
町の中でも大きな図書館に着き、見渡したマルコがそう漏らす。ここはカフェも併設されていて、とても落ち着く場所でもあるため、私のお気に入りの場所だ。
「何か借りたい本があったら行ってね!おうちでも読めるように借りるから。」
「わかったよい。・・・あっちの方見てきてもいいかい」
「うん、じゃあ私はこの辺りにいるからねー」
二人がそれぞれ好きな本を探し、しばらく時間がたった後。
(そういえばマルコ、どこのコーナーにいるのかな)
自分が見ていた料理雑誌を元に戻し、回りを見渡す。
「いた。」
政治経済のコーナーに座っていて、左右に本が積まれている。あ、右から本を取ってる・・・ってことは左に積まれているのはまさかもう読んだ分ってこと・・・?
(集中してるみたいだし、邪魔しないでおこう)
私はカフェに向かった。ここの紅茶が美味しいから、マルコにも飲んでもらいたかった。
マグカップを二つ受け取り、マルコの側に座った。
「マルコ、いい本あった?」
「あ、悪い。集中してたよい。もう帰るかよい?」
「ううん、まだ平気。前いってた紅茶なんだけど、どうぞ」
「・・・ありがとよい。この世界は興味がつきないよい。***はこんな世界で育ったんだな」
「そういってもらえて嬉しいな。まだまだ一緒に行きたいところあるし、楽しみにしててね!」
「楽しみにしてるよい」
ゆっくり、ゆっくり時間が流れる。こんな心地よい日がずっと続いたらいいのに。
*
本を借り、晩御飯の食材を買って家についた。
「よーし、ご飯作っちゃうね」
「頼むよい、俺は洗濯取り込むよい」
家事ってやっぱり二人ですると捗るなー、なんて思いながら野菜を切り始めた。
その日の夜。
二つ敷いた布団に入り、電気を消した。
「本当に、違う世界にきちまったんだな」
マルコがぽつりとそうつぶやく。
「うんそうだね・・・。やっぱり寂しい?」
「いや***がいるから寂しくはないが・・・あいつら心配してるよい、きっと」
「そうだね・・・はやく元に戻れたらいいね」
”元に戻る”その言葉を発して思ったことがある。
私はこちらの世界の住人で、元々マルコとは違う。
もし、マルコが戻れたら私は、どうなってしまうのだろうか。
「・・・そうだねい」
きっと、この問いかけをしてマルコも同じことを思ったのだろう。
そこからは、二人とも何も話せなくなってしまい、眠りに落ちた。
(”その時”が来たら、私はどうするのかな)