一緒に住もう


混乱した。私はさっきまであののどかな山の上で、沈む太陽を見ていたはず。それなのに、その夕日が赤色ではなくフラッシュと言えるくらいの光を出したものだから、思わず目を瞑った。その間、5分も経っていなかっただろう。

再び目を開けた時、目の前に広がっていたのは街。しかも、数秒前とは違いかなり発展した街。…いや、ここは見覚えがある。だって社会人になってからというもの、休みの日はお弁当を持ってここまで散歩していたのだから。この山の上まで登り、人がいないところで自分が住んでいる街を見下ろすのが好きだった。ここに来れば、自分の会社がどのくらい小さい世界なのかわかるから。悩みなんて、ここにくれば大体解決していた。

懐かしい景色に憮然としていると、あちらの世界で何をやっていたか思い出した。

「マルコっ…」

そうだ、私はマルコとデート中で、あの山の上の御神木のパワーをもらいにいったんだった。
横を見ると私以上に呆然としているマルコがいた。

「ここは、どこだよい」

「まだ確認はしてないですけど、私の世界みたいです」

「***の…」

そういってマルコが足元に座る。まだ理解が追いついてないといったところだろうか。…私もトリップした時は頭が追いつかず、夢を見ているという事で片付けた。次は私がマルコを助ける番だ。

「とりあえず、一旦場所を移動して落ち着きましょう」

「…どこに行くんだよい?」

心なしか。マルコの声に不安が混じっている。そうだよね、身一つでまったく見たことない場所に飛ばされたんだもの。

「私の家に。」


***

思えば、あの日の夜はコンビニに行く途中にトリップしたもんだから財布や鍵などは全部あちらの世界にある。その為、管理人さんに事情を説明して開けてくれた。こういう時、ちゃんと人付き合いしててよかったと思う。身分証の一部はあちらだけど、部屋に入れば他にもある。だからお金も下ろせるし、なにも問題はなかった。少し手続きは面倒だけど。

かなり久々に自宅を開けたから、ほこりまみれだと思ったんだけど、カレンダーを見ると1日しか経っておらず驚いた。まぁ有給消化だから、まだ休みはある。大丈夫だ。

「ここが、***の家かよい」

マルコを家に連れてきて、落ち着いて話がしたかった。今は平気そうだけど、きっと色々心配だろう。

「そうですよ!家というよりアパートなので部屋ですけど。マルコも心配しなくてもいいですからね…あれ?」

ほしっぱなしの洗濯を取り込まなきゃな、と触ってから後ろを振り返るとマルコがいなかった。横のキッチンにいて屈んでボタンを触っていた。

「マルコ?!」

「***、これはなんだよい?」
ピロリン、と音がなった。…どうやらIHコンロの電源を触ったようだ。…ってそこの赤い所は熱くなるところ!!!

「あああ!そこは熱いからさわっちゃだめー!」

「お、本当だ。あーここに鍋を置いてあっためる機械かよい」

一人で納得してうんうんとうなづいていた。
…どうやら悲観的にはなっていないようでよかった。

「マルコ!座っておいてください!」

「いやだよい。俺は海賊だよい。気になるところは全部調べたいよい」

明らかに声が楽しそうだ。
…この人は根っからの冒険が好きなんだろうなあ。
心配しなくても大丈夫そうだ。
今日は休んで、また明日から考えよう。



(…マルコの身長大きすぎて、ベッドに寝れない)
(俺はどこでも寝れるからいいよい)
(うーん、今日は床にお布団しいて一緒に寝ましょうか)




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