プリズム | ナノ





夢だったら良かった、と何度思っただろう。




少女が目覚めたのは彼女が流星群を見たあの夜から三日経った夜のことだった。少女は白く無機質な一人部屋にしては広すぎる部屋のベッドで目を覚ました。ゆっくりと起き上がりまだはっきりとしない意識で見覚えのない部屋に居ることに気付き酷く混乱しているようだった。その時部屋の扉の開く音がした。少女は肩を揺らし警戒するように扉の方を見つめた。
「……目が覚めたのか」
群青色の長いドレスを風に揺らした中性的な女性が少女を見てすっ、と目を細めた。彼女も少女を警戒しているようだった。少女は彼女の放つ威圧感に圧倒されながらも生唾を飲み込み辛うじて口を開いた。
「あ…あなたは誰」
鈴の音のような声だった。凜としているけれど言葉は震えていた。
「それは此方の台詞だ。お前は何者だ」
「っ…!?」
今しがたまでドレス姿だった女性は瞬時にセーラー戦士の姿へと変えると少女に向かって剣を突き付けた。その目は嘘を赦さないそう言っていた。まるで鋭い刃物のようだと少女は思った。
「私は…星を旅する流星の一族…」
隠したとして、既に彼女は知っているのだろうと悟った少女は素直に明かした。流星の一族。銀河のように美しい瞳を持つ彼等の姿を見ることはとても稀有な事だ。何故なら彼等は星々を転々と旅して廻り決してその星に降り立つ事がないからだ。多くの文献にはこう書かれている。少女は少し躊躇った後に、星の軌道から逸れてしまいここへ落下してしまったと述べた。
「君は侵入者だ」
しかし彼女は如何なる理由であろうと許可なく侵入した事を許さず少女を厳しい表情で見つめ冷たく言い放った。少女は肩を縮めて罰が悪そうに視線を落とした。
「事故とはいえ…侵入したことは事実です…。私の処分は貴女の好きなようにして下さい。」
覚悟を決めたように真っ直ぐに彼女を見た少女は言った。星のように煌めく瞳に彼女は一瞬吸い込まれそうな感覚がした。
「そうだな。…では君は僕がこの城で監視する。」
「監、視…」
「勝手にこの部屋から出るな。…いいね?」
有無を言わせない鋭い視線に少女は頷くしかなかった。彼女はふ、と表情を柔げると再びドレス姿へと変え踵を返した。
「今日はもう休むといい。」
優しく細められた瞳に少女は暫く困惑した。
少女はその日眠れない夜を過ごした。