創設期 短編 | ナノ




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○月4日

病院に行ったら、赤ちゃんがいる、そう言われた。嬉しさと同時に、不安があった。
扉間が、堕ろせ、なんて言うんじゃないかと一瞬でも考えてしまったから。

今日は扉間は帰ってこない。
でもよかった、まだ報告しなくても良さそう。

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○月5日

扉間が1日早く帰ってきた。変わりないか?と言われたが、思わず嘘をついて、「変わりない」と答えてしまった。

その日は、また、不安とか、罪悪感で、眠れなかった。


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○月6日

先に寝てたはずなのに、なんでかわからないけど昨日寝てないことがバレた。
理由を言えといつも通り言われたはずなのに、情緒不安定なわたしだったから、思わず泣き叫びながら赤ちゃんのことを言った。



「扉間のばかぁ、っ!」
「いきなりどうしたんだ、**、」
「ヒック、う、わからずや、!」


子供のようにボロボロと涙を流すわたしに戸惑う扉間。でも扉間を気にする余裕なんてなくて、自分の感情をどうしようもできないわたしはその泣き叫んだまま近く扉間を跳ね除けた。


「わたっ、わたし、扉間がなんて言ったって、ぜ、たい…っ、ヒック、…や、だからねっ、」
「なんのことだ、**。それを教えてくれん限りわからんだろ」
「赤ちゃんだよ、っ、ひくっ、ばかぁ、!」
「…は?」


大泣きする私を他所に、カチコチと静止した扉間。ぽかぽかと体を叩き、その体に顔を埋めた。


「…俺と、お前との、子か…?」
「他に、誰がいるのさ、ばかぁ、っ、!」


堕ろせなんて言ったって絶対やってやらない。どんな子だって私の大切な子だ。
あれ、そもそも、なんて扉間が堕ろせって言うと思ったんだっけ…?


「…産んで、くれるのか、?」
「あたり、まえ、ヒック、だよ、っ」


もう自分でも何がなんだからわからない。情緒不安定で何を考えているのか自分でもわからない。

ただ怖いのだ。赤ちゃんを産むなんて、そんな初めての体験に。もし、万が一にも、扉間に拒絶されてしまうのではないのか、もしされたら、どうすればいいのか。

色んな不安がぐちゃぐちゃになって、もう考えられない。


「なぜ泣く、**」
「わかんなっ、ッヒク、」
「俺を見ろ、**」
「う〜〜、…とびらまぁ、っ、」


ズルズルと鼻をすすりながら、ボロボロの顔で扉間を見つめた。目を細めて笑うその姿に、ひどく安心した。


ありがとう、なんて、言われたから、安心して、その日は久しぶりにぐっすり眠れた。

もちろん、扉間の腕の中で。

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○月7日

夕方、お買い物から帰ってきたと思えば、リビングにはそれはそれは大量のオムツやら本やらが机の上に積まれていた。



「……扉間、これ、なに」
「雑誌だ」
「これは?」
「おもちゃだ」
「赤ちゃん産むまであと何日あると思ってるの」
「事前学習は大切だろう」


「たまごサークル」や「産すぐ」、「cotocoto」など有名どころの妊娠雑誌や、絶対に1歳くらいの子が使うであろうガラガラおもちゃ、そして大量のオムツ。
当たり前だろう、と言わんばかりのドヤ顔の手の中には「パパの心得」たるタイトルの本が。


扉間はきっと我が子にぐずぐずな親バカになるだろう。2人の寝室に赤ちゃんベッドがあるのを見て、私は確信した。

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○月19日

お腹も徐々に膨らんできて、日々我が子の存在を感じるそんな日だけど、どうも私はつわりが酷いらしい。
白米が炊けた匂いでげろげろ吐いて、苦しくて、1人泣いていたら、任務のはずの扉間が慌てた様子で帰ってきてくれた。



「大丈夫か、**」
「と、びらま、」


苦しい、気持ち悪い、なにもしたくない。
ふらふらの体で部屋に戻れば散乱した洗濯物。だめだ、家事をしないと。そう思って手を動かそうにも、どうにも気持ち悪い。
そう言えば、もうお昼だと言うのにご飯を食べていなかった。


「食えるか」
「…いらない、」
「口を開けろ、**」
「…やだ、」
「赤ん坊のためだ、頑張れるか?」
「……ん、」


いつの間にか、扉間の手の中には温かいたまご粥が。スプーンの中一口サイズに掬われたそれを必死に口を開けて食べた。
やさしい味がした。


「いい子だ、**」
「扉間が、作って、くれたの?」
「うずまきミト殿に習った。これが一番いいらしい」
「…おいしい、」


頭や背中を撫でながら、ゆっくりと私が食べるのを待ってくれる扉間。仕事が忙しいはずなのに、こんなに私に時間を割いてくれるなんて、どれほど私は幸せ者なのだろうか。


「ありがと、扉間、」
「あぁ」


その後、任務にすぐに飛び立った扉間。幾分かマシになった体を少し休めてから、また家事に取り掛かった。今日は、扉間が好きなご飯を作っておこうかな。


たまご粥、おいしかったなぁ。

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△月21日

お腹も膨らんできて、本当に赤ちゃんがここにいるんだ、と少しずつ実感してきた。
扉間に、どんな子が生まれるかなって聞いたら、私に似た女の子がいいと答えた。



「扉間似の男の子でもいいかなぁ」
「いや、絶対に**似の女の子だ」


眉間にしわを寄せて、口をへの字に曲げて言い切る扉間に、思わず大きく笑った。私がなにを言っても、「いや、絶対に…」と同じ言葉を繰り返す扉間があまりにおかしくて、愛しくて、また笑った。


「私似の女の子だったら、何の術教えるの?」
「…そうだな、まずは医療忍術を教えて自分の身を最低限守れるようにしてそれからチャクラの特性を見て水遁なら俺が、木遁なら兄者が、火遁ならイズナ…いや、やはり俺が稽古をつけてそれから飛雷神まで使えるように…」



兎にも角にも、うちの子はものすごい忍者になりそうです。

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◇月30日

初めて赤ちゃんの胎動を感じた扉間が、私に背を向けて顔を抑えていた。泣いてるのをバレたくないらしいから、それを見守っておいた。
お腹の赤ちゃんへ。
あなたのパパは、世界で一番素敵な人ですよ。

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▽月1日

食器棚からお皿を取ろうと台に登って手を伸ばしたら、いきなり後ろから人の気配が現れた。


「わっ、だれ、!?」
「**!高所にあるものは取るなとあれほど言っただろう、!」
「…扉間、今里外任務のはずだよね……」


ヒョイっと私の取ろうとしていたお皿を取っては机の上に置いたと思うと、次は壊れ物を抱くように私の体を支えてゆっくりと台の上から降ろしてくれた。


「台に登るようなことはするな。落ちたらどうする」
「でも、登らないと、取れないし…」
「仕方ない、背の低い食器棚を買うか」
「待って待って待ってなに言ってるのかさっぱりわからないんだけど」


それに任務は!?
と叫ぶ私に、しれっとさらっと扉間は口を開いた。


「影分身を置いてきた。大丈夫だ。」
「今ここにいるの本体なの!?」


普通逆でしょ!?と声を大にして言っても、キョトンとした表情の扉間。当たり前だ、そう言いたげな表情は私の頭を悩ませるには十分だった。


「飛雷神で飛んで来るなんて…バカじゃないの…」
「高所のものを取るときはすぐに呼べ」
「飛雷神の使い方間違っています」


お腹の赤ちゃんへ。
あなたのお父さんはぶっ飛んでいます。いいですか?心配だからと言ってむやみやたらに飛雷神の術は使ってはいけません。

それからお母さんの知らない間にマーキングをするのも禁止です。

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☆月6日

私の妊娠中は、それはそれは扉間のぶっ飛びように頭を抱えたなぁ、なんて思い出した。
柱間さんには一切お腹を触らせなかったり、マダラさんは私の半径5メートル以内には近づいたらダメみたいなこと言ったり、毎日なにかしら増えていく赤ちゃん雑誌やおもちゃ、陣痛が始まった時の扉間の下手くそすぎるマッサージとか本当に色々あった。

今となっては、どれもこれといい思い出だ。



「ぱ、ぱ、だ。ぱと言ってみろ」
「うぁ」
「うぁ、ではない。ぱ、だ」
「ぷぁ?」
「そうだ、それを繰り返すのだ、パパだ、言ってみろ」
「うー…」


大きな体を丸めて我が子に向き合う扉間。先日、初めて我が子が「まま」と言ったっきりずっとあの調子だ。どうしてもぱぱと言わせたいらしい。
すっかり親バカだ。


「まだ難しいよね〜」
「まま、」
「ままが言えるならぱぱも言えるはずだ。もう一度ぱ、と言うんだ」
「……ふぇ、」
「扉間、そんな怖い顔するから泣いちゃうよ」
「なっ…俺の顔は怖いか、!?この目か?傷か?髪の毛か?」


たった一言に動揺する扉間ぱぱがおかしくて、クスクスと笑みがこぼれた。日記を書いていた手を止めてよーしよーしと今にも泣き出しそうな我が子を抱っこした。まま、なんて天使が私に笑いかける。
うん、今日も天使。


「ままですよ〜」
「ま、ま、!」
「**、そこを変われ。俺が抱っこする」
「ごめんね扉間、私の服を掴んで離しそうにないの」


ぱぱ呼び指導をしてから早3日。うちの天使はまだパパと呼びません。
が、今日はしょぼくれている扉間に微笑みかけ、おやつを請求しているところを見ると、きっとこの子は魔性の女になると確信しました。



ディア・ウォーリアー・ダーリン
「扉間、なんでこの子にマーキングがついてるの」
「こんなに愛らしい姿をしているんだ、誘拐されたらどうする」
心配性もほどほどが一番いい。


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親愛なる旦那様は、心配性。