創設期 短編 | ナノ




「準備できましたか?柱間さん」
「あぁ。**も大丈夫か?」
「はい。それでは行きましょうか」


よっこいしょ、と重たい体を両足で持ち上げた。私に気づかれないようにと背中を支えるための腕に心がほっこりとする。

ガチャ、と玄関に鍵をかけてくるりと体を回転させれば、優しく包み込んでくれるような笑顔で私を見つめていた柱間さん。それがあまりに愛おしく、早々に彼の隣に体を寄せた。


「今日もお天気で嬉しいですね」
「晴れはいいよのぉ〜」


朝の6時に起きて、2人で洗濯や掃除の家事を終わらす。それから、一緒に火影邸に向かう。それが最近の毎日。


「次の健診はいつぞ?」
「明後日です」
「時間があけれなかったらすまん…」
「大丈夫です、お仕事を優先してくださいね」


予定日が近づいてきたから、柱間さんが心配ぞ〜と言って見事に私を言い負かし、柱間さんの目が届く火影邸にて事務のお仕事をお手伝いさせてもらっている。
もちろん、火影という権力全てを行使して、だけど。


「柱間さん柱間さん、昨日蕾だった花が咲いてますよ」
「ん?これが昨日のか?」
「ほら、葉っぱが四つ葉みたいについてた花です」
「おぉ!これか!」


毎日、同じことの繰り返しなのに、どうして柱間さんといたら新しいものばかりなんだろう。
ひらひらと辺りを待っていた蝶々が見ていた花に留まり、2人で顔を見合わせて笑った。


「火影様!おはようございます!」
「おぉ、猿飛の子か。今日もせいが出るな」
「**様〜!お腹触ってもいいですか?」
「おはよう、いいよ。撫でてあげて」
「おっきくなったね〜」


柱間さんの大らかな性格のおかげか、毎日火影邸に居座る私に何かをするという人は誰1人いなかった。それどころか、むしろ里の人たちはとても良くしてくれる。
人望の厚い柱間さん。彼が一度出歩く度に、里の人たちは思わず笑顔になった。それは、私も然り。


「優しくぞ?やさしぃぃーく、撫でるぞ?」
「わかってますよぉ…火影様、毎回しつこいです」
「しつっ…!?」
「いつも優しく撫でてくれてありがとう、赤ちゃんも嬉しいって喜んでるよ」
「**様も嬉しい?」
「うん、とっても嬉しい。ありがとう」
「ふふっ」


ちゅ。と小さな口がお腹にキスをした。しょげていた柱間さんが、それを見てさらにショックそうに顔を真っ青にする。
一方の私は、そんなこの子の可愛らしい行動でふわっと心が暖かくなり、ゆるゆるとその小さな頭を撫でた。


「私、**様みたいな大人になる!」
「私みたいな?」
「うん!やさしくて、きれいで、それからね、」


一つ一つ指を折って数えていくその姿に、心が少しくすぐったい。愛くるしい姿に笑みが溢れるのは仕方ないだろう。


「それからな、料理も上手くて気遣いができて、誰にでも平等に接することができて、でも自分の意見をしっかりと持っていてそれをちゃんと言葉にできてだな、」


目の前の子を撫でていたら、いつの間にか復活した柱間さんが、ものすごい勢いで指を折って数え始めた。
呆気にとられる私を置いといて、目の前の2人が競うように指を折っていく姿に目をパチパチと瞬かせた。

もちろん、大人の柱間さんの方が持っている語彙が多く、えっと、えっと、と詰まる女の子を置いといてどんどんと言葉を足していく柱間さん。

そんな柱間さんにうるうると目に雫が溜まっていく女の子。これはまずい、そう思って柱間さんに制止をかけようと苦笑いをしながら口を開いた。

しかしそれは手遅れで、トドメと言わんばかりに最後にドヤ顔で「俺の方が多いぞ!」と言い張った柱間さんに、ポロポロと涙が溢れる女の子。


「っうわぁぁぁぁんっ!!」
「えっ、ええっ、!?どうかしたか!?」
「柱間さん…」


火影なのに、あまりに大人気ない姿に苦笑いが止まらない。泣いて私に抱きつくその子を抱きとめながら、よしよしと頭を撫でた。


「今のは、大人気ないです」
「う、…」


すまん…としょぼくれながら、その子に手を伸ばす柱間さん。もちろんのごとくその手は払われた。

うちの旦那様は、少し子供っぽいな。そう笑いながら、目の前の子の名前を呟いて地面に膝をついた。


「ヒック、**様、っヒクッ、」
「ありがとう、たくさんいいところを言ってくれて」
「でもっ、わたし、ヒック、」
「こんなにたくさん言ってくれた子は初めて。人のいいところを見つけれる子は、将来素敵になる人だよ」
「ふぇ、…**さま、」
「だから涙を拭いて?可愛いお顔に雨が降ってるよ」


ポロポロと流れる涙を指で丁寧に拭った。ゆっくり呼吸を合わせるようにポンポン、と頭を撫でれば、徐々に呼吸が深くなっていく女の子。


「**様みたいに、なれる?」
「わたしよりも、ずっとずっと素敵な人になれるよ。」
「ほんとに、?」
「うん、本当だよ。だってこんなにやさしくお腹を撫でてくれるんだもん。」


ぴく、と女の子の口角が上がった。真っ赤な目で上目遣いでわたしを見つめる姿があまりに可愛らしくて嬉しくなる。


「明日も、撫でていい?」
「うん。待ってるね」
「〜〜っ、うん!」


キラキラと太陽みたいに笑う少女。最後に柱間さんにあっかんべーをして去って言った後ろ姿を見て、さらにしょげる柱間さん。


「ちょっと、大人気なかったですね」
「**〜〜っ、」


しょげた声でぎゅうぎゅうとわたしに抱きつく姿は、さっきの子とさほど変わらない。もう、と同じように頭を撫でた。柱間さん、背が高いから撫でにくいんだよなぁ。


「でも、たくさん言ってくれたのは、嬉しかったです」


ありがとうございます、柱間さん。
そう言ってぎゅ、と腕を回した。回りきらない大きな体は、やさしくわたしを包んでくれる。


「さて、行きましょう。扉間さんが待ってますよ」
「**」
「はい?…っわ、」


ちゅ。
今度はおでこから聞こえたリップ音。びっくりしてマジマジと顔を見つめたら、満足そうにドヤ顔をする柱間さんが。
そんな表情に思わずふふっ、と声を出して笑ってしまう。

負けず嫌いで、ちょっぴり大人気ないわたしの世界一の旦那様。




ディア・チャイルドリッシュ・ダーリン
「火影が里の子供を泣かすとは何事だ!!!」
その日、火影邸には扉間さんの雷が降り注いだ。


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親愛なる旦那様は、大人気ない。