創設期 短編 | ナノ




「なんで扉間に言わないとダメなのよ!」
「いいから言え、**」
「やだ!」
「扉間も**も、少しは落ち着くぞ」
「俺は落ち着いている」
「とにかく!この話は終わり!」


一緒に住んでいる従兄弟の扉間に話しかけられ、なんだと思い洗濯を干している手を止めれば扉間は**が昨日会っていた男の名前を聞き出そうとする。


「人の恋路の邪魔をする奴は馬に蹴られて死んでしまえ!」
「…付き合っているのか?」
「〜〜っないけど…!」


同い年の扉間とはよく喧嘩をする**。所詮馬が合わないというやつ。
言葉が少ない扉間は**にとって少し怖かった。


「お前が会っているのは、うちはの男じゃないのか?」
「しっ、知らない!お互い姓は名乗ってないから!」
「……そうか」


本当に名乗ってない。それは本当だが、うちはの男と聞いた瞬間心拍数が上がった。その度にそんなはずないと言い聞かせる。


「手を止めてすまなかった。じゃあな」
「あ、うん…」


澄ました顔でその場を立ち去る扉間。いつもの彼なら、答えを聞き出すまでしつこく詰め寄る。だからこそ今回の引き際の良さに不信感を覚えた**。

今日も洗濯を干し終えたら会いに行くが、今回は扉間たちがいなくなってからの方が良さそうだ、そう思った**は洗濯を干すスピードを緩めた。



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扉間と柱間が他の一族との会談中に、花を摘んでくるとあながち嘘ではない言葉を女中に伝え、いつものように屋敷を出たる**。駆け足で森を突き抜け、光が反射する池が見えた時、待ち焦がれていた彼の姿をとらえ、軽く息を整える。

スゥ、と深呼吸をしてから落ち着いてる様子を見せるために余裕のある笑みでニコッと笑ってみせた。


「イズナ」
「**?」
「ごめんね、待たせちゃった?」
「ううん、全然待ってない」
「よかった、」


安堵して腰を下ろした**はイズナの手元に凛と咲いた赤の花があることに気づく。真っ赤な牡丹一華だった。


「うわ、綺麗な牡丹一華…どこに咲いてたの?」
「ないしょ」
「…イズナって、赤が似合うね」


黒目黒髪に整った顔立ちのイズナはやけに赤い花が似合うと思った。キザったらしいが、なぜか赤がイズナを象徴しているようで。


「赤は、割と好きだよ」
「うん、似合ってる」
「…**も、赤が似合うと思うんだ」
「え?」


そう言って**の顔の横に牡丹一華を近づけるイズナ。突然近くなった距離に**が赤面する。


「顔、真っ赤だよ」
「イッ、イズナが急に近くから、!」
「やっぱり、赤が似合うよ、**」


真剣な目で見つめるイズナの視線から**は目を反らせないでいた。恋人のような熱のこもった視線に、ドキドキと心臓が煩くなる。


「その、イズナ…」
「**、牡丹一華の花言葉知ってる?」
「え…?」


小さい頃から花が好きで、中でも花言葉にいつも思いを巡らせていた。いろんな花を見つけ、摘み取ってはその言葉の意味の人にプレゼントしていた。

牡丹一華はだれにも渡したことがなかった。だってそれは、


「『君を愛す』、…」


心から愛した人に渡すと、そう決めていたから。


「イズナ…その、えっと、…」
「ほんと、**から言われるなんて予想外だったなぁ」
「まっ、待ってイズナ、え?だって、この花、」
「あ、まだ言葉では言われてないからセーフかな?」


髪の毛に刺した花と、**の髪を愛でるようにそっと撫でるイズナ。やけにニコニコとしている表情が、**に混乱とわずかな期待を与えた。


「**、好きだよ」


額へのキスと同時に囁かれた声に、**の身体が固まる。パクパクと金魚のように口を開け閉めする**が可愛らしくてスルリと頭を撫でた。


「う、そ…」
「嘘じゃない、俺は**が好き」
「だって、そんな、私…」
「そもそも、先に告白してきたのは**でしょ?」
「!」
「『この恋に気づいて』、だっけ?ちゃんと言葉にしてくれないと危うく見逃すところだったよ」
「そ、れは…!」
「ありがとう、**。こんな俺を好きになってくれて」
「〜〜っ、…イズナ、だったから、…好きになったの、」


抱きつくのは無理だったから、精一杯の甘えでイズナの袖を掴む。そんな**が愛しくて、その頭を優しく抱きしめた。

その瞬間、鋭利な武器が2人に向かって飛んできた。


「っ、!」
「え、?」


させるがままにイズナに引っ張られ、体勢を崩してイズナに寄りかかる**。甘い空気とは一転、ピリッと鋭い殺伐とした空気になった。


「まさか、お前だったとはな」
「その声まさか…!」
「…千手扉間、か」


クナイを投げた主は間違いなく**の従兄弟の千手扉間。今は会議のはずなのに、なぜここにいるのかわからなかった。


「俺もいるぞ」
「柱間兄さん!?」


扉間の後ろから現れたのは紛れもなく千手柱間。今の状況についていけず、頭が混乱する**。


「**は…千手なんだな」
「まさか、イズナは…」
「イズナ」


イズナの後ろから現れたのは、髪型以外がイズナによく似た男。なんとなく、彼がイズナの兄なのか、と直感した。


「…その女は?」
「…千手の女だよ。2人とも繋がりが深そう」
「マダラか、」
「この前ぶりだな、柱間」
「**を離せ、うちはイズナ」
「っ、」


はっきりと、扉間が『うちはイズナ』と言った。それもまるで**に言い聞かせるように、はっきりと。


「ほ、んとに、…うちはなんだね、イズナ」
「…気づいてた?」
「ううん、…でも、嫌な予感はしてた」
「…俺も」


ピリ、と空気に緊張が走る。忍でもなんでもない**はただ気を失わないことで精一杯だった。


「ほう、この状況でも気を失わないとはな」
「…うるさい、うちはマダラ…!」
「気が強い女は嫌いじゃない」


**の顔を覗き込むマダラ。訳もわからずその目を強く見返した**は、ニヤリとマダラが笑ったのを見た。


「ほう、こいつがイズナが惚れた女か」
「…!兄さん何して、!」


マダラの2つの目をじっと見つめた**。その瞬間、一瞬で瞳の形が変わった。え、と驚く間も無く**はそのまま意識をなくした。

ポトリ、と赤い牡丹一華が地面に落ちた。




I love you ,and I leave you.
(何してるんだ兄さん!!)
(**に何をした、マダラ!!)
(ククッ、少し怖い夢を見てもらっているだけだ)
(っ、クソ…!)
(イズナ、お前の瞳力じゃ無理だ)
(なんでこんなこと…!)
(わかってないのか?この女が千手だからだ。この意味、お前ならわかるよな?)
(**は忍ではないぞ!すぐに幻術を解くのだ!)
(〜〜っ、**…!)



初恋は、いつだってうまくいかない


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アネモネの悲鳴