「誰に聞いてやがんだクソ切島」
「だってよー、爆豪すぐキレんじゃん?**怖がらせてねーかなって」
「んなの微塵もねぇわ!」
季節に一回くらいの同期会(つっても爆豪と切島と瀬呂と俺の4人の集まり)は、俺らん中で唯一の既婚者である爆豪家でよく行われた。**にも久しぶりに会えるってのもあるし、なにより爆豪ん家が一番でかい。爆豪と**の稼ぎは同期ん中でもトップクラスだったから、そんな2人の家も当たり前のように都内一等地だ。
んで今日は爆豪の手作り男飯でパーっとやってるわけで。
「**は今日どうしたんだ?」
「任務」
「そういえば一昨日**と同じ場所だったわー」
「瀬呂んとこの事務所と轟んとこと近いもんな」
「**が入ってから轟んとこ、すげー有名になったよな。ただでさえ轟ってだけで有名だったのに」
「**と轟の組み合わせ、人気だもんな。爆豪カップル破局とかそんな記事見たわ」
「誰だよそんなクソみたいな記事書いたやつ」
「あの2人息ぴったりすぎてビビるぞまじで」
なによりあの2人の組み合わせは**のサポートが完璧すぎる。轟の欲しいところに酸素を行き届かせて、氷だって轟が操れないところは全部**が請け負ってた。
ベストコンビヒーローズにも選ばれてたし、轟のヒーローランキングが爆豪や緑谷を抜いたのもきっと**のおかげもあるだろう。
「燃焼系ヒーローに引っ張りだこって聞いたけどそこんとこどうなんだ?」
「……俺と出動回数ほぼ変わんねぇ」
「うっわ、事件解決数トップの爆豪と並ぶのかよ…」
「サポート系だけじゃなくて単体でもいけるからマジですげーよな」
国民が支持するランキングもそこそこ上位だけど、個性の有用性からヒーローが支持するランキングはここ数ヶ月で跳ね上がった気がする。ヒーローとして申し分なく、メディアに出てもビジュアルも良くて軽口も叩けるから使いやすいんだと知り合いのプロデューサーが言っていた。
って冷静に考えるとすごくね?
「**ってすごかったんだな」
「ったり前だろ、誰の嫁だと思ってんだ」
「はいはい、ごちそうさまです」
「はっ倒すぞ瀬呂」
「**っつったらあれだよな、体育祭前の体育の授業」
「あー、体育館内を無酸素にしたアレな」
「あん時の爆豪に初めて喧嘩売った女子だよな」
「あれはヒヤヒヤしたぜ…」
話せば話すほど出て来る**武勇伝。爆豪も満更でもなさそうだし、普段こういう会話をしないからこれはこれで新鮮だった。
この場に**がいたらそんなことないと照れるんだろうが。
「正直、**が雄英に三年いたらビッグ3も動いたかもな」
「体育祭の轟との戦い激アツだったよな!」
「あのクソ下手くそな個性のコントロールでビッグ3なんてなれるわけねぇだろ」
「いやいやいや、二年の後半じゃめちゃくちゃコントロール出来るようになってただろ」
「体ぶっ壊しながらだけどな」
「お前ほんとあの時の**には厳しいよな…」
「言ってろ」
まぁ血反吐吐いて倒れたのは確かにビビったけど、でも聞いたところによると**の病気を爆豪がたまたま見つけたところから全部始まったって聞いた。なんだその青春ドラマな展開はと突っ込んで爆破されたのは記憶に新しい。
「お、噂をすれば」
バラエティ番組のヒーロー特集。今日は轟の事務所の特集らしく、共闘する2人がテレビ画面を占めていた。
画面が切り替わり、事務所内を案内する事務員とその途中で戻ってきた**と轟のコンビにすかさず駆け寄るアナウンサー。お疲れ様ですの声かけの後にニコニコと完璧な笑顔のアナウンサーに軽く対応する**。
『今、最もノリに乗ってるお二人に視聴者からいくつか質問です!』
『え、なんだろう』
パチパチと大きな目を瞬かせて微笑む**と、のんきに茶を飲む轟。このマイペースが世の女性を虜にしているとかなんとか。俺も真似しようかな。いや顔の時点で無理か。
『お二人がチームアップを組むきっかけになった出来事はなんですか?』
『んー、なんだろう?体育祭かな?』
『授業の演習じゃねぇか?』
『あ、そっか。高校の時の授業で共闘したのが一番のきっかけかもしれないです』
『お二人はあの雄英高校出身ですものね!高校時代のお二人はどんな生徒だったんですか?』
『このまんまですよ、ショートは』
『そっちはもっと気が弱かったよな』
『え?本当に?』
『自己評価がめちゃくちゃ低かっただろ』
『今の強気の戦闘スタイルからは考えられませんね!変わるきっかけとかはあったのですか?』
『えぇ〜…自分じゃわからないですからね…でもあるとすれば、……アメリカ留学ですね』
ころころと変わっていく話題に難なく対応する**と、よそ見をしている轟。相変わらずの2人で安心した。
それはそうと気になるワードが一つ。
「**って気が弱かったか?」
「弱かねぇわ、自我の塊みてーなやつだろ」
「いやいやそこまでか?」
「俺の言うことに真正面から反抗してきたんだよ。これがどう弱いっつーんだ」
ケッ、と画面に向かってガンを飛ばす爆豪。たぶんあの時**と一番仲よかったのが爆豪だったから、2人にしかわからないものがあったんだろう。とは言え自我の塊っていうのは想像できないけど。
「自己評価が低いのは言われてみればそうだったな」
「あー、文化祭とかも、自分は端役だからとか言ってた気がする」
「**も十分かわいいのにな」
「それを爆豪はブス呼ばわりだもんな…あん時の**が可哀想になるわ…」
「んだとこのアホ面!言ってねぇわ!」
「いやいや!誰だよ、ドブスを小ブスにするって迷言残したやつは!」
「いくらなんでもあれはひどい」
「漢らしくねぇな」
「ん…っなもん言葉の綾だろうが!!」
「どんなだよ」
ダンッ!!
ほぼ無くなったジョッキを机に叩きつけては声を荒げる爆豪。この話を否定しないところを見ると、高校の爆豪も**のことをかわいいと思っていたんだと改めて思った。
素直じゃないにもほどがある。**じゃなかったら泣かれてるぞ、って言おうかと思ったけど爆破されそうだからやめた。
ガチャ。
玄関から響いた音に真っ先に飛びついたのは爆豪だった。黙って立ち上がり、スタスタと向かって行けばすぐに聞こえてくる女の声。
「ただいま、勝己。誰か来てるの?」
「アイツら」
「おぉ、久しぶりだねー」
それだけでわかるのか。
なんかしれっと見せつけられたような気がするがもうコイツらに突っ込んでたらキリがないからやめた。
三人してドアの隙間から玄関を覗くと、すっかり大人になった**がいた。テレビで見るより美人だ。
「言ってくれたらなんか買って帰ったのに」
「俺が作るからいらねぇ」
「私も勝己のご飯食べたい」
「風呂は」
「みんな帰ってから入る」
「ん。おつかれ」
「ふふ、ありがと」
うお、まじか。爆豪が**の頭撫でてる。仲良すぎだろあの2人。つーか爆豪が甘すぎだろやべぇ、砂糖吐きそう。
「帰ってくるたびこの糖度かよ…すげぇなあの2人…」
「俺でも彼女にしねぇわ」
「え、瀬呂彼女いんの」
同胞の彼女話にショックを受けつつ、くるりと振り返った爆豪が「見せもんじゃねぇぞ散れ」って手のひらを軽く爆破させ、**が「やっほー」って緩く手を振った。
「久しぶりだな、**」
「おじゃましてまーす」
「切島くんと上鳴くんは久しぶりだね。瀬呂くんはこの前会ったけど」
「おー、一昨日ぶり」
「さっさと部屋入れクソどもが」
「勝己、ごはん」
「大人しく待っとけバカ」
「あいたっ」
クッッッソ甘ぇ!!!!
なんだよデコピンって!!爆豪そんなに優しくデコピンできたのかよ!!緑谷に見せてやりてーわ!!!アイツ絶対「かかかかかっちゃん……!?」って震え上がるわ!!!
あまりの甘さに俺ら三人なんとも言えねー顔になっちまっただろ!?こっちが恥ずかしいわ!!仲良くて大変よくできましたちくしょう羨ましいな!!!!
「あれ?どうしたの、三人とも顔変だよ?」
「お前らのせいだよ!!!」
「くだらねェこと言ってねーでさっさと部屋入れ」
「いてぇっ!!」
ゲシッと尻を蹴られた。**にした力の二千倍くらいの力だ。尻が腫れ上がるかと思ったわ。
「爆豪、どこ行くんだ?」
「キッチン」
爆豪一人別のドアから入って俺ら四人はさっきの部屋に逆戻り。**を端っこに座らせて我先にと質問大会になった。
「爆豪にいじめられては…なさそうだな…」
「うん、あいかわらず私には甘々だよ」
「自覚あんのか」
「奥さんですから」
「ウワー素敵ナ響キデスネ」
「本当に思ってる?上鳴くん」
あはは、と楽しそうに笑う**。本当に美人になったと思う。なんだこれ、爆豪効果か?そんなんがあるのかはわかんねーけど。
「子供とか作る気ねーのか?」
「うーん、そうだなぁ…今はショートをNo. 1にするのでいっぱいいっぱいだからなぁ…そうなったら考えるよ」
「轟かよ」
「もちろん。コンビだし」
「爆豪が許さねーだろ」
「負けるのが悪い」
「**も結構体育会系の考えだよな…」
「高校の時から負けず嫌いだもんな!」
「えー、そうかなぁ」
でも**と爆豪の子供って、なんだろ、すごそうだ。どっちの個性引き継いでもめちゃくちゃ強いから子供も安心だろうな本当にまじで。
「ま、勝己ともショートとも要相談、ってとこかな」
「轟ならなんも考えずにいいんじゃね、って言いそうだな」
「うん、言うと思う。あの人何も考えてないから」
「言うようになったなぁ〜**も」
「長いことコンビ組んでるからそりゃね」
唐揚げをつまみながら爆豪が口つけた酒をチビチビ飲む**。ヒーロー事に関しては轟が優先らしい。多分その事なら爆豪に対しても容赦ないんだろうな。さすがとしか言いようがないが、そう言う公私混同しないところは好感を持てる。
「爆豪も**と轟が相手じゃ苦労もんだな」
「もちろん。No. 1は渡さないよ」
「かっけー!**最高だな!轟が羨ましいわ!」
「ざけんな、俺がNo. 1になるに決まってんだろ」
「お、爆豪」
そうこう話してたら皿を持った爆豪が顔を歪めてリビングに来た。どこから話を聞いていたのか、**をキッと睨んでいる。
「そう言うのは国民支持率を上げてから言ってよね〜」
「ハッ、事件解決してたら上がってくんだろ」
「甘いね、そう簡単に上がるんだったらエンデヴァーさんもすぐNo. 1になってたよ」
「つーかあの野郎一人の力でトップとるべきだろ」
「私もショートの力の一つだからね」
「テメェはテメェだろーが」
「もちろん。私も上を狙ってるよ」
バチ、と音がなったように二人の視線が絡まった気がした。本当にヒーローの事に関しては二人ともライバルのようだ。夫婦でライバルってほんと訳わかんねぇ関係だけど、爆豪が**を認めてるのは態度でわかるし、何よりそうやってヒーローに関してお互い公私混同せずに本気になれるのが爆豪が**を好いてる一番の理由のような気がする。
「勝己を抜かしたらごめんね?」
「言ってろ」
でも本当にあり得る話だ。轟とペアって事で影に隠れやすいが、ヒーローの支持率ではたぶん**の方が上だ。今後上がってくる可能性は十分に高い。そうなれば雄英ビッグ3のあいつらの均衡が崩れるのは現実的になるわけで。
「…お前ら夫婦なんかライバルなんかどっちかにしてくれ」
「あはは、ごめんごめん」
「おら、さっさと食って寝ろ」
やった、リゾットだ、と爆豪の持つ皿を覗き込む**。火傷すんなよ、とすぐに甘くなる二人に混乱しつつ、幸せそうに手を合わせる**がかわいいからもうどうでもよくなった。こりゃ爆豪が骨抜きにされるわけだ。
「いただきまーす」
「…俺の酒飲んだだろ」
「ちょっとだけだよ」
「明日仕事は」
「ない。ショートに無理やり休みにされた」
「…へぇ、」
めちゃくちゃ含みのある返事に顔が引きつった。爆豪が俺らににっこりと笑いかけるから寒気で鳥肌が立つ。これはまさか。
「お前ら、いつ帰んだ?」
「……スグニデモ。」
「さ、さーて、帰る準備帰る準備、」
「え?もう帰るの?もっとゆっくりすれば良いのに」
「いや、いい。**も帰ってきたことだしな」
「私…?」
「テメェは黙って食ってろ」
早く帰れと目で訴える爆豪に苦笑しつつ、これから「お楽しみ」が待ってる**にドンマイと心の中で同情した。
そそくさと帰る準備をして立ち上がる。俺らを見送ろうとする爆豪が**の頭に手をついて立ち上がった。それとなく頭を撫でるのは癖か何かだろうか。
「飯サンキュ、爆豪」
「またな〜、**も」
「うん、またね」
「早よ帰れ」
「ははっ、そーするわ!」
なんだかんだで**も立ち上がって五人で玄関に向かう。爆豪夫婦が見送る中、リュックを背負い直してドアを開けた。あたりはすでに真っ暗だ。
じゃあなとドアを閉める直前、切島が何かを思い出したかのように声を上げた。
「あ、そうだ、爆豪!」
「あ?」「ん?」
同時に反応した二人。え、と逆にこっちが戸惑った。不思議そうな顔をする**に、切島の目が点になる。
「どうしたの?切島くん」
あぁ、そういえば**はもう**じゃなくて、爆豪になったんだっけ。
「…あー、わり、男の方…」
「、え、あ、ごめん、…」
「いや、こっちこそ、なんかごめん…」
「…やだな、恥ずかしい…さ、先部屋に入ってるね、」
「ハッ、ようやく苗字に慣れたかよ、**」
「う、ううるさいな、もう、」
最後の最後までゲロ甘かよ。ちくしょう、爆豪夫婦が羨ましすぎるぜ。なんだよ、ベタかよ。なんでこっちが恥ずかしがってんだよ。羨ましすぎてクソ腹立つ。
「んで、なんだよ」
「、いや、週末の関西のミッション、ファットのとこと組むって聞いたんだけどよ…、」
「日が近くなったらテメェに連絡入れる」
「おう、わかった」
「おら、さっさと帰りやがれクソが」
「…へーへー、爆豪夫婦がお楽しみだから早く帰れってよ!帰ろうぜ!瀬呂!切島!!」
「ちょっ、な、なな何言ってるの上鳴くん!!」
「そう言うこった、早よ帰れ」
「勝己!?やだよ今日疲れてるもん寝たい!」
「じゃあなー**、元気でな」
「またな!」
「えっ、あ、ば、ばいばっ、ん…!」
バタン、と爆豪の手によってドアが閉まる寸前、わずかに漏れた**の声に顔を見合わせて頬を引攣らせる俺ら三人は、我先にと玄関から離れた。
爆豪夫婦の夜はまだ始まったばかりなんだろう。
ちくしょう、俺も早く結婚したい。