姫シリーズ | ナノ








「なんで私には秘密なの!?」


ガシャン、と柱間の装具が壁にぶつかる。**が胸倉を掴んで押し付けているからだ。
混乱する思考の中で、**は戸惑っていた。さっきまで自分がなにをしていたのかすらわからない。それどころか、自分が死んで甦らされていることがわからなかった。
困惑する思考の中、鋭い視線で柱間を睨みつける**に、柱間はすまん、とだけ言う。


「たかが2人の喧嘩の理由を説明しろって言ってるだけじゃない!!なんで言えないの!?」
「…すまん」
「そんな言葉が聞きたいんじゃない!!」


白眼で覗いた柱間のチャクラは不器用に揺れていた。なにも言わない柱間に、**の苛立ちは増す一方だ。


「落ち着け、**」
「なにが落ち着けなの!?なんで私にはなにも言ってくれないの!?」


**の肩をつかみ、ぐいっと柱間から引き剥がした扉間。しかし**はその腕をパン、と払いのけ、睨みつける勢いで扉間に食ってかかった。


「噂以上のじゃじゃ馬姫ね」
「チッ…うるせぇ、」
「コエ〜…」
「誰にだって言えぬことの一つはあるだろ、わかれ、**」
「じゃあ私の死後になにがあったの!?」
「それも言えん」
「だからなんでなの!?」


扉間よりも一回りも小さな体だが、その存在感はあいも変わらず圧倒的だった。久しく会ってなかったためその勢いに押し負けそうになるが、扉間たちにもどうしても言えぬことがあった。


「マダラも柱間も関わってることに、私が関係ない訳ないでしょ!?」
「…冷静になれ、**」
「なんで仲間はずれにするの…ッ!?」


泣き叫んでいるようなそんな**にグッと言葉が詰まる扉間。その言葉は、**が最も嫌う言葉の一つだったから。

最強の体術使いの**だが、本当はかなりの寂しがりや。仲間はずれが嫌いで、どんな時でも彼らと分かち合いたいと考えていた。だからこその混乱だった。


「関係があっても、言えぬことがあるのだ。わかれ、**」
「わからない!わかりたくない!!ねぇ、柱間、なんで私だけなにも教えてくれないの?そんなに私は邪魔?仲間だと思ってたのは私だけ?」
「違う、そう言うことじゃない」
「じゃあ教えてよ、柱間とマダラの間になにがあったのか、!」


ただでさえ自分の置かれている状況に戸惑っている**だ。彼らの秘め事にさらに不安になるのはごく当たり前のことだった。
そんな状況に置かれていることを知らない柱間たちは、時期に**もわかってくれる、そう思っていた。
しかし現実はそうではなかった。


「それは教えられんのだ、**」
「………私が、…女だから?」
「ッ、」


目を見開いてハッとする柱間。ゆっくりとした口調なのに、凍え切った声。やばい、と柱間が**に声をかけようとした瞬間、余計な言葉がさらに響いた。


「男の秘密に女が首を突っ込むもんじゃねぇよ、日向のお姫さん」


水月の当たり前だろ、と言いたげな言葉に、やめなさい、と只ならぬ予感を感じ取った大蛇丸が口を開いた。
華奢で可憐な女といえど、忍の三神の一角を担う**。見た目だけではない実力が牙をむく。


「なら、ここでお前を殺したら、認めてくれる?」


ゾ…ッ、と背中に悪寒が走る水月。次の瞬間、柱間が止めに入る前に殺気を込めたチャクラを剥き出しにした**。

耐えきれなくなった床や壁がギシリと音を立てて歪んでいく。あまりの狂気に足が後ろに下がるサスケたち。
忍一の体術使いは伊達じゃなかった。


「**」


突然視界が真っ黒になった**。その手で、柱間が**の目を覆ったのだ。柱間独自の、**の落ち着かせ方、というものなのだろうか。ぽんぽん、と二回頭を撫でて、もう一度名前を告げた。


「…三人揃ったら、全て話す」
「兄者、」
「かまわん」


すまんな、**。
再三伝えられた言葉。ぽんぽん、と何度も頭を撫でられ、徐々に理性を取り戻していく**。鋭すぎた殺気が、どんどんと薄れ、丸くなっていく。
ただの殺気一つで、部屋などいとも簡単に潰してしまえる2人の忍に、ヒルゼンやミナト、その他の鷹達も冷や汗を流した。言わば、格の違い。
それをたった一瞬で示した。


「……うそつき」


教える気ないの、知ってる。
そう呟いた**に、何も言わない柱間。はぁ、と一つため息をついた**は、ごめん、と一言呟いた。


「冷静じゃなかった」
「…**は、変わらんな」
「私はずっと私だよ」


行こう、マダラのとこ。
日向の家紋が刻まれた羽織が**の手で靡いた。



泡沫に滲む人魚姫


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泡沫に滲む人魚姫