姫シリーズ | ナノ






「ねぇ!何してるの?」
「む?」
「!誰だ、お前」
「わたしは**!」
「俺はマダラ…ってそうじゃねぇ!」
「俺は柱間ぞ!」


水切りをしていた2人のもとに、突如現れた謎の少女。透き通るような瞳に淡い桃色の服。誰もが振り向くような可憐な容姿に似合った無邪気な笑顔。

まじまじと少女を見ていたら、マダラは自分の心臓が早く脈打つのを感じた。


「そっち行っていーい?」
「濡れるから俺が運んでやるよ、待っとけ」
「濡れないよ!ほら!」


少し照れながらそう言うマダラの一生懸命な想いを軽々とぶち壊し、**はパシャパシャと水の上を走って行った。


「!お前、忍か?」
「おなごなのに、か?」
「忍?うーん、多分そうかな!」


でも戦争中は最前線では出させてくれないけどね!と付け足した**に、そりゃそうだろ、と納得するふたり。

2人は**が知らぬ間に医療忍者になっていることを想像もしなかった。


「水切り、だっけ?楽しい?」
「あぁ、お前もやってみるぞ?」
「やる!」
「できるか?」
「わかんない!」


マダラに手頃な石を手渡され、2人に投げ方を教えてもらいながら見よう見まねで石を投げる**。しかし石は跳ねるどころか一直線で川底へと沈んで行った。


「…跳ねない」
「そりゃ初めてだからな」
「もっと練習したらできるようになるぞ」


もっかいやる!と意気込む**にクスリと笑うマダラ。そしてやるぞ!と爽やかに笑う柱間。いつしか3人で笑いあっていた。それが当たり前のように。

しかし何回投げてもうまくいかない**。跳ねるどころかひたすら沈んで行くばかり。


「お前…才能ないんじゃねぇの…?」
「………なんで跳ねないの…」
「うーむ、フォームはいいんだけどなぁ」
「力が足りないのかな?」
「そうかも知れんな」
「もっと思いっきり投げてみろよ」
「思いっきりか…よし!やってみる!」


再びマダラに石を手渡され、2人に習ったように石を構える**。**の中の思いっきりというのは、ほんの少しチャクラを使うことだった。


「よし、行きます!」
「まぁ、**の思いっきりっつってもそんな大して、」


腰に手を当て苦笑いをするマダラの言葉は、謎の破壊音とともに消え去った。

ドカン!!と水切りでは絶対に聞こえない音。**が投げた石は川の上を一直線に突っ切り、そのまま木に直撃した。ぶつかった木にはぽっかりと穴が開き、そしてどういうわけか、3つの木を突っ切った後にその全ての木がメキメキと音を立て、地面に倒れた。本当にどういうわけか。


「「………は?」」
「あれ、ちょっとやりすぎちゃったかな?」
「ちょ、ちょっと待て!お前なんかの術でも使ったのか!?」
「なんの術ぞ!?なんで木が倒れたぞ!?」
「?なんも使ってないよ?ただ少しチャクラを込めただけ」


目を疑ったのはごく当たり前のこと。少女と呼ばれるに相応しい華奢な体で見るからに非力そうな腕。マダラと柱間は慌てて**に二の腕を掴んで触ってみたが、明らかに自分たちよりも細く、力を入れるよう促してみても力こぶ1つない。


「なぜ!?」
「マグレか?マグレなのか?それともあれは幻術か?」
「もっかいやろうか?」
「いや、いい。お前には水切りの才能がないからもうやらないほうがいい。」
「えーっ!まだ1日しかやってないよ!」
「だめだ、やっちゃ絶対にダメぞ」
「ケチ!いいもん1人で練習するもん!」
「他の遊びをしよう!うん!」
「木登りとかどうぞ?」
「そんなの楽しくない!できるもん!」


なぜこんな少女にあんな力が。2人の脳内はこの疑問で溢れていた。さっきから汗がダラダラと止まらない。


「競争とか、どうだ?」
「競争?いいね!やろう!」


ええっ、と戸惑う柱間。仮にも相手は女の子。そのことをマダラに耳打ちした。


『相手は女の子ぞ!』
『あの力で女の子はありえねぇだろ!』
『しかしだな、もし怪我でもさせてしまっては、』

「ねーえー!しようよ!競争!」


コソコソと喋り出した2人に痺れを切らした**はグイ、と2人の腕を引っ張る。どうなっても知らんぞ、と呟いた柱間。マダラも眉を顰めて苦笑いした。



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「ゴールはどこにする?」
「んー、じゃああの崖の上。どうだ?」
「あそこ?」
「そうぞ」
「あそこ行ったことない!楽しみ!」
「ルールは、この石が落ちた瞬間にスタートだ。お互いの攻撃は禁止。いいか?」
「うん!」


ニコニコと楽しそうな**。そんな彼女を見て2人は心配しつつも照れてしまう。マダラに至っては耳が少し赤い。


「じゃあわたしが石、投げるね!」
「おう」
「勝つぞー!」


**が高く石を投げた。放物線を描いて落ちる石。コツン、と他の石にぶつかって落ちた瞬間、3人は一気に駆け出した。




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「っしゃあ!」
「にっばーん!」
「お、俺が…最下位ぞ……」


一位はマダラ、二位は**、最下位は柱間だった。運の悪いことに、柱間が足をかけた岩がボロ、と崩れ、コケてしまったのが敗因。


「でも2人とも速いね!柱間がコケるまで追いつかなかった!」
「お前も、女だと思ってたけど速いな。正直舐めてたわ」
「まさかあの一瞬で抜かされるとは思ってなかったぞ」
「ひひっ、女だからって見くびっちゃだめよ!」


ビシッ、と親指を立てて笑う**。気づかぬうちに、2人は**を戦友だと認めていた。


「ここ、すごいね、全部が一望できる」
「あぁ、俺たちの秘密基地ぞ」
「お前も今度からいつでも来ていいぜ」
「っほんとに!?嬉しい!」


喜びでマダラと柱間の手をとる**。2人の少しゴツゴツとした手には小さな傷ができていた。それを見つけた**は、わずかに手にチャクラをこめ、2人が知らぬ間に治した。

一方2人は、いきなり**に手を取られ、初めて同世代の女の子との握手に戸惑っていた。**の手は、忍びとは思えないほど滑らかで、柔らかかった。


「…不思議。なんだかさ、わたし、今なら誰にも負けない気がするの」
「?どういうことぞ?」
「2人がいるから、なんでだろう、強くなれるの」


**の言葉に目を見開いた2人。実を言うと、2人もそう思っていた。初めて3人で出会ったにもかかわらず、心の底からお互いを信じれた。自分以外の2人になら、命を任せられる、そんな気分だった。


「それ、なんとなくわかる」
「ほんと?不思議だね」
「**とマダラがいたら、俺の夢も、あっという間に叶いそうぞ!」
「柱間の夢?どんなの?」


ばっ、と腕を広げた柱間。そして笑顔で、将来の里を背中に、こう言った。


「ここに集落を作ろう!」
「集落?」
「なにそれ、おもしろそう!」
「子供が戦わなくてもいい世界だ。色んな一族が皆手を取り合い、仲間になるんだ!」
「そんなことできるのか?」
「できるよ」
「本気かよ、**〜」
「私たち、3人だったら、きっとできる!」


そう言って、再び2人の手をとって、重ねた**。そんな**に、2人も笑顔になる。


「作ろう、平和な世界。きっと私たちにしかできない」
「そうこなくちゃな!」
「ったく、2人がするってなら俺も参加してやるよ」
「夢が叶ったら、またここで一望しよう!」
「あぁ」
「約束ぞ」




おやゆび姫は、我儘ばかり
((む?怪我がもう治ってる?))
((ん?ここに怪我あったはずだが…?))




彼らはまだ、運命の残酷さを知らない。だがいつの日か、離れ離れになったとしても、彼らは諦めなかった。夢を叶えることを。


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おやゆび姫は、我儘ばかり