姫シリーズ | ナノ






「じいじ!ひとふり温泉行きたい!」
「む?温泉か、良いな、行くぞ!」
「確かに、久しぶりに温泉も良いな」
「では行くぞ!ひとふり温泉!」


里で唯一の源泉掛け流しが楽しめるひとふり温泉。この温泉には1つ、伝説があった。


「伝説?」
「そうぞ、伝説ぞ」
「聞いて呆れる話だ」
「えー!なになに教えて!」
「はっはっは、つなはかわいいぞ〜」


柱間がひときしり孫、綱手の頭を撫でながら、懐かしい友の話を空を見ながら語った。むかしむかし、と話し始める柱間の表情は穏やかだった。



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「久しぶりにさ!あれやろ!」
「あれ、とな?」
「あぁ…あれか」


唐突に始まる会話はすぐに成立する。**のいう“あれ”とは、三人の決闘だった。それも、1対1対1のガチンコ勝負。力関係が均衡している3人だからこそ楽しめるもの。


「今誰が何勝ぞ?」
「柱間が35で、マダラが33、私が31だったかな?」
「あとニ戦勝ったら俺が柱間とタイか」
「最下位やーだー」
「ん?…あ!今日で100戦目ぞ!」
「え?35たす33たす31…99、ほんとだ!」
「めでたいな」
「じゃあ、今日勝ったひとのお願いを1つ聞くっていうのはどう?」
「乗った」
「俺もぞ!」


記念すべき100戦目の勝者はだれか。軽く準備運動をしながら、マダラは考えていた。


「(**を俺の女に、)」


密かに願う、マダラの想いは通じるのか。




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「ルールはいつもと一緒。背中と両手を同時に地面につくか、降参したら負け。命に関わる技は禁止。オッケー?」
「あぁ」
「さぁて始めるぞ!」


瞬身で人気のない森に向かう3人。
それぞれ3人が均一に距離をとって構えた。ポーンと**が高く小石を投げる。ただならぬ空気を感じ取った動物たちがその場から逃げるように去って行った。

地面に石がついた瞬間、3人同時に印を結んだ。


「先手必勝!『木遁・樹縛栄、
「『菊花衝』!」


**が地面を殴った瞬間、バキ、と地面が割れる音が響いた。地面からわずかに出ていた柱間の木遁が豆腐のように潰れた。

真顔の**をみて苦笑いが隠せないマダラと、冷や汗が止まらない柱間。


「…まぁまぁかな」
「いつも思うが、お前のその体のどこにそんな力があるんだ…」
「木遁は豆腐じゃないぞ」
「ボサッとしてるとやっちゃうよ!」


死の宣告と大差変わらない発言に、おもしろい、とニヤリと笑う2人。ここからが本当の勝負だ。


「マダラァァァ!」
「『火遁・豪火球の術』!」
「っ、『回天』!」
「『木龍の術』!」
「チッ、『火遁・龍炎放歌の術』」
「『空遁・アツヒメ』」
「っなに!?」
「空遁ぞ!?」


**が空気をぶん殴ってできた衝撃波がマダラと柱間の術をぶっ飛ばす。聞いたこともない術に驚く2人。


「**!空遁と言っておきながらただの空気を殴った空気砲ではないか!」
「私だってなんとか遁って言いたいもん」
「空気を殴るなど…恐ろしいを通り越して馬鹿としか言えんわ」
「でも火遁と木遁をぶっ飛ばしたんだから、効果は上々でしょ?」


“案外大した術じゃないのね、火遁も木遁も。”そう挑発する**に2人は汗を垂らしながらも笑った。


「一発でも当たったら終わりだな」
「**の一撃は寸止めでも衝撃波がすごいからのぉ。もう当たるのはいやぞ」
「もう一発新技!『柔拳空法・クロヒメ』」
「チッ」
「見事な龍ぞ」


見かけは扉間の水龍弾の術のよう。しかしチャクラと空気を練り混ぜて桁外れな威力を引き出している。日向家独自の柔拳法に、**の医療忍術で鍛え上げた緻密なチャクラコントロールによる馬鹿力によって威力は計り知れない。


「柔拳法ってことは当たったらもう術は使えなくなるな」
「それはやっかいぞ」


『木遁・榜排の術』『須佐能乎』2人の最上級の防御が使われる。耐えきったのは2人の術だった。慣れない術に息を荒くする**。しかしその目は楽しそうだった。


「どうした、もう息が上がってるぞ」
「興奮してるのよ」
「**は長期戦に弱いからのぉ」
「そうね、だから次で終わらせるわ」


この攻撃を凌げば、**は当分大業は使えない。そう踏んだ2人は、最後の衝撃に備えてチャクラを練り込む。しかし、次の瞬間の**の変化に2人から完全に笑顔が消えてしまった。


「「!?」」
「…よし」
「まっ、待つのだ**!もしやそれは…?!」
「その目の隈取り…仙術チャクラか!?いつの間に習得してたんだ!?」
「落ち着け**!下手をすれば里が壊れるぞ!」
「威力がわかんないからね、実験台になってもらうよ!」


ただでさえ馬鹿げた力の**に、それをさらに強化させる仙術チャクラときた。まさしく未知の世界。慌てて2人も大業のチャクラを練り始めたが、**の方が一足早かった。

高く飛び上がった**は拳を構え、2人にめがけて振り下ろした。


「『仙法・金剛一振』!!」
「ちょっ、待っ、**!!?」
「逃げるぞ柱間ぁぁ!!」


ドン、という地響きが、遠く離れた扉間の下まで届いた。


「扉間!今のは地震か!?」
「わからぬ、とにかく里の者に避難勧告を出すのだ!!また次地震が襲って来るやもしれん!」
「里内放送してくる!」



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一点に集中させられた拳は、思った以上に被害はなく、十数メートルのクレーターができた程度だった。里の長である柱間からすれば、思った以上の被害の少なさに安堵した。

なんとか逃げることができた2人。心臓が嫌な音をたて続ける。はぁ、と胸を撫で下ろし、**に目を向けた。

刺さった拳をグッと引き抜く**。手応えは十分だと思っていたが、**が想像していたよりも外観が変化しておらず、拍子抜けしてしまう。


「結構いけたと思ったんだけどなー」
「この程度で済んでよかったわい」
「む?何か音がしないか?」
「「音?」」


ドドドド、と確かに何かが迫ってくる音がした。**は音のする穴の中を覗くくと、そこには見事なまでの蒸気が漂っていた。

その瞬間、**が殴った地面の穴から大量の何かが飛び出してきた。


「っあっつ!!」
「…は?」
「地下から…お湯が…?」
「…あ!温泉だ!温泉でた!!」
「……は?」


地下から噴き出してきたのは紛れもなくお湯だった。それも少しいい匂い。温泉出たー!と両手を上げて喜んでいる**に、目が点になる柱間とマダラ。
しかしかわいいかわいい**がたいそう嬉しそうに喜んでいる姿を見ると、全てがどうでもよくなり、次に出たのは笑いだった。


「ブッ、ブワッハッハッハ!!」
「温泉って、っハハハッ**が温泉を掘り当てたぞ!」
「すごいね!やったよ!」
「ククッ、今日の勝ちはお前にやるよッ、ブフッ」
「これほど一興なことはないぞ!ハッハッハッハ!!」


涙を流しながら笑い転げる2人に、**も楽しくなる。やったー!と素直に喜びながら2人に抱きつく**。3人は大の字に寝転んで笑いあった。


「ねぇ!ここに温泉作ろ!」
「良いな!俺が木遁で建ててやろうぞ!」
「ここはうちはの集落が最も近いからな、俺たちが管理してやろう」
「ふふっ、扉間とイズナに怒られないかな?」
「大丈夫ぞ!何かあったら俺がガツンと言ってやるぞ!」
「頼りのないガツンだな」
「そんなことないぞ!」



「お前たちはなにをしているんだ!!!!」
「「「ごめんなさい」」」
「揃いも揃って里のトップが…聞いて呆れるわ!!!」
「だがな、扉間。**が温泉を、
「兄者!!明後日は五影会談があると一月前から申しておっただろう!!」
「そっそれは…明日があるから、
「明日までにこの量の業務を捌ききれると思っているのか!!今日締め切りのもあるのだぞ!!」
「…すまん」
「兄さん、明日一族を超えた結婚式があるから今日の夜に一族の長同士で顔合わせがあるって言わなかった?言ったよね?今朝も言ったよね?覚えてなかったの?耳にタコができるほど聞いたって文句言ってたの誰?」
「…顔合わせは夜だ、
「そんなドロドロの格好で行くわけ?今何時だと思ってるの?もう5時だよ?顔合わせは7時からだよ?ねぇ?わかってるの?ただ服を着替えればいいって話じゃないんだよ?」
「…すまんと思ってる」


うちはと千手の長2人が弟に正座で怒られる姿はなんとも滑稽で。書類タワーができている机を見て柱間が溜息をついた。一方のマダラは弟からの猛攻撃に下がった視線が上がらない。


「それから**!!」
「っは、い…」
「決闘をするなとは言わんが加減を考えろといつも言っておるだろう!!お前の一撃の地響きのせいで住民に避難勧告を出したわい!!」
「**って本当に日向なの?なんで剛拳ばっかり使うの?日向だよね?柔拳使いだよね?柔拳使いがなんで里にクレーター作るの?」
「ごめんなさ、
「もう二度とあの技を使うな!住民にも被害が及ぶ!!」
「成長したの、見せたかったの…」
「えぇい、言い訳は聞かん!!」
「…ごめんな、さ…」


ボロカスに怒られて俯く**。その反応にギョッとしたマダラと柱間は急いで依然怒る扉間をなだめにかかった。


「ま、まぁ、扉間、**も反省していることだし、
「兄者は今すぐでも業務に取り掛かれ!」
「扉間、言い過ぎだぞ」
「元はと言えばお前らのせいだ!!」
「ごめ、んなっ、さ…!」


ぎゅう、と拳を握りしめた**。フルフルと震えるその姿は最恐の医療忍者などとは思えない、子供のようだった。


「とびらまぁっ、いずなぁっ…ごめんなさいぃぃぃ」
「っな、**…!?」
「あーあ、扉間が泣かせた」
「お前も同罪じゃ!」


ワンワンと大泣きする**。ボロボロの服で懸命に涙を拭うその姿に怒っている気も全て失せ、泣き止ませたい気持ちでいっぱいいっぱいになる扉間。


「よせ、**、跡がつくぞ」
「ヒック、ごめんね、っ、とびらま、ひっく、」
「もう良い、怒ってないから泣き止め」
「**、もう俺も扉間も怒ってないよ」


大泣きする**に戸惑う2人。あまりの泣きっぷりに悪いことをしたとさえ思えてバツが悪そうな顔をした。

そんな**を泣き止ませるのは、いつも2人だった。


「**、目にばい菌がつく、擦るのをやめろ」
「**〜、そんなに泣いてたら美人が台無しぞ〜」
「ぅ、ヒック、…んぐ、」


マダラが**の両手を掴み、柱間が撫で撫でと仔犬のように撫で回す。ボサボサになった髪の毛をマダラがさりげなく整えてやると、いつしか泣くのを止める**。
潤んだ瞳で再び扉間とイズナを見上げ、再度謝罪した。


「…ごめんね、イズナ、扉間…」
「…わしの方こそ強う言いすぎた」
「ごめんね、怖かったね、**」


困ったように笑ったイズナは**の頭にぽん、と手を置いた。その感触が気持ちよくて目を瞑る**。そしてふふ、と笑った。


「あのね、地面殴ったら温泉が出てね、木の葉に温泉作ろって、言ってたの」
「あの時沸いてたものは温泉か」
「良いね、この里に温泉なかったし、ちょうど良かったんじゃない?」
「あそこはうちはの集落が一番ちかいからな、うちはで管理すると言っていたのだ」
「もちろん、おれの木遁で建物を建てるぞ!」
「ねぇ、扉間、温泉だめかな…?」


ぶん殴って温泉を吹き出させたというなんとも恐怖を煽られる馬鹿力だが、仮にも**は木の葉一の美人。そんな美人が潤んだ瞳でお願いをしたら、流石の堅物扉間でさえも緩くなってしまう。


「…はぁ、仕方あるまい」
「っほんとに!?」
「まぁ里に温泉がなかったのは事実だからな。どうせなら第三次産業として利用する手はないだろう」
「〜〜っやった!扉間大好き!」
「っ、抱きつくな、**っ!」


感激で扉間に抱きつく**。そしてそれを面白くないという視線を送る3人。つまるところ、みんな**が大好きだった。



それからほどなくして、温泉は完成した。ついでに宿泊施設やお土産も充実させ、観光客の名物になった。




「そういうわけで、この温泉ができたのだぞ」
「じぃじ、ひとふり温泉は、なんでひとふり温泉って言うの?」
「それはな、」



『仙法・金剛一振!!』



「拳一振りでできた温泉だからぞ」




竹を壊したかぐや姫
(ここの温泉の名前、何が良いかなぁ?)
(木の葉温泉なんてどうぞ?)
(普通すぎてつまんない)
(…ひとふり温泉なんてどうだ?)
(ひとふり温泉…いいねそれ、それにしよう!)
(拳一振りでできた温泉か…これは伝説になるぞ)
(ふふ、100勝目のプレゼントだね!)


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竹を壊したかぐや姫