姫シリーズ | ナノ








「っくそ、…!」


吸い込まれた先は、灰色の世界。あたり一面何もなく、だだっ広い空間の中で私1人が立っていた。
白眼を使用するにも全くチャクラが練れない。きっとこの腕の術式のせいだろうか。
チャクラが練れないんじゃなんの力もないただの女だ。今更戦場に戻ったところできっと役立たずだろう。第一、戻れたら、の話だが。

しくじった、としか言いようがない。いかんせんなぜか体が動き辛いし、反応も鈍い。穢土転生とはそのような術なのだろうか。


「…マダラ、」


たった1人、私たちから外れて笑うあの馬鹿が心配で仕方ない。なんで、あんな風になってしまったんだろう。なんで、柱間と喧嘩してるんだろう。なんで、夢とは正反対のことをしてるんだろう。


(…わからない、)
「お呼びか?」
「っ!?」


突如、背後から聞こえた声に慌てて立ち上がる。条件反射で逃げようと足を引いたが、それは腕を掴まれたことによって阻止された。

目の前には、ぶん殴ってやりたい男が立っていた。


「っ、マダラ…!」
「久しぶりだな、**」


離せ、と訴えるように腕を引くが、マダラの掴む力が強く、それは叶わなかった。
じ、と目の前の相手を睨みつける。マダラは笑っていた。


「このっ、馬鹿マダラ…ッ!」
「おっと」


離さないならぶん殴る。拳を握って迷いなく顔面にそれをぶつけにいったが、チャクラを練ってないただの女の拳だ。やすやすと受け止められ、そしてそのまま私を地面に押し付けた。


「どいて!!」
「今日はヤケに荒れているな」
「っ、離して!!」


腕を拘束され、馬乗りにされる。ぐっと足を蹴り上げてもなんの意味もなさなかった。

片手で私の両腕をまとめ上げたマダラが、ゆっくりと首に手を這わせていく。


「何故ここに来た」
「マダラが馬鹿なことしてるって聞いたからに決まってるでしょ、!」
「くだらんな」
「マダラのしてることがね、」


私が死んだ後、何があったの
そう告げたら、何もなかった、そう答えるマダラ。柱間といい、マダラといい、どうにもこうにも私には話したくないことがあるらしい。
私だけ、何も知らない。


「どいつもこいつも、隠し事が好きみたいね」
「…ここで消えてもらうぞ、**」
「この術、死なないって聞いてるけど?」
「俺にかかればそんなの関係ない」


首に当てられた手に力がこもっていく。ギリギリと締め付けられ、酸素を取り込むのが困難になってくる。
それでもなおマダラを睨みつけた。

しかし次第にふらふらと視界が明転と暗転を繰り返し、酸素を求めて口が開いた。無理やり吸った息が喉でつまり、ヒュー、と高い音を鳴らす。

じわじわと苦しくなっていき、条件反射で涙がこぼれた。


「苦しいか」
「っ、は、…」
「その顔、最高に唆るな」
「し、ね…ッ」
「チャクラが使えなかったら、ただの女だな」
「ッ…!!」


悔しい。何も言い返せない。苦しい。頭がふらふらする。目の焦点が合わなくなり、目の前が暗くなっていく。
最後の抵抗にぐ、と歯を噛み締めたが、なんの意味もなさなかった。

もう直ぐ意識が落ちる。それまでに、言いたいことがあった。


「ま…ラ、ッ、」
「どうした。つっても、なにも言えないだろうがな」
「な、んで……」


ポタ、と頬に雫が落ちた。それも一度じゃない。なんども、なんども。やがて耐えきれなくなった雫が頬を伝って地面に向かった。


最後に聞こえた、私の名前を呼ぶ声と、濡れた唇の柔らかい感触。それがなにかわからないまま、私の意識は底へと沈んだ。


:
:



「、ろ…**…、ッ**!!」
「っ、は、…」


大丈夫か!?
ガクガクと体をゆすられ、ハッと目が覚めた。ズキズキと頭が痛い。目の前には、心配そうな顔でこちらを見つめる四つの瞳が。


「マダ、ラ…?」
「俺がわかるか?」
「柱間も、…あれ、わたし……」
「敵の幻術に嵌められていたのだ。だが術が解けてもなかなか目を覚まさなくて心配したぞ…」
「幻術…」


だめだ、何が何だかわからない。頭がぼやぼやといろんな情報にかき乱されている。ぐちゃぐちゃの時系列の物語が嫌なほどに流れてきた。

わたしがさっきまで見ていた光景は、幻術だったのか。
わたしが死んで、なぜかマダラと柱間が喧嘩して、そしてマダラが……。


「幻術、だったんだ、」


混乱の中の、大きな安堵。そうだ、あれは幻術だ。現実じゃ無い。よかった。本当に、良かった…。


「**…?」


心配そうにわたしの顔を覗き込むマダラ。わたしは2人の手をグッと引っ張って掴んだ。不思議そうな顔をする2人に、わたしはその手に唇を落とした。


「っ、!?」
「どうしたぞ?**」
「…三人とも、わたしの、大切な人だよ」


愛しの女の口づけ(手)に動揺するマダラ。しかし**はそれを知らない。ぎゅう、と2人の手を包み込んで、胸に抱え込んだ。

大丈夫、私たちは、ここにいる。


「怖い幻術でも見たのか?」
「…うん、。どんな事よりも、怖い事。」
「どんなぞ?」
「……ないしょ」



リトル・スリーピング・ビューティー・キス
夢だろうと現だろうと、何だってかかってこい。全てわたしが守るから。


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