姫シリーズ | ナノ








「待っていたぞォー!!柱間ァァァッ!!」
「お前は後!!」
「………」


穢土転生をされた柱間が、マダラのいる地に到着した。マダラは、ようやく戦えることに歓喜で震えていた。そんな彼の盲点は、ある一人の女性を忘れていたこと。


「私は、待ってないわけ?」


ゾク、
鋭い殺気に背筋が凍った。突如背後から現れたのは、絶対に来るはずがないと思っていた女だった。

チャクラがこれでもかと練りこまれた拳を、女は迷いなくマダラに向かって振り下ろした。慌てて宙へと逃げたマダラ。ドゴォッ!と地面が窪み、先ほど立っていた場所は影も形もなくなる。


「……**、何故ここにいるんだ」


マダラがどれだけ探しても、**の細胞だけは見つからなかった。だから穢土転生されるはずがない。マダラにはどうしてここに**がいるか全くわからなかった。


「私にわかるとでも?」
「……愚問だったな」


鋭い視線でジッとマダラを見つめる**。その目には僅かながら悲壮が混じっていた。かつての仲間が里だけでなく、世界をも潰そうとしているその姿に、心臓がズキズキと痛んでいた。

向こうでは柱間たちが十尾に対して結界封印を行なっている。本当はそちらに参戦したいけど、今は目の前の男を全身全霊をかけてぶん殴りたかった。


「ぶん殴る」
「…手加減してくれよ、お前の拳は俺とてキツイからな」
「一緒にあの世帰るよ、マダラ」


仙法…と呟き、ものの一瞬で目に縁を彩らせる**。文字通り、殺る気満々だった。
マダラもかつての愛した女とて、今は夢の邪魔をするやつでしかない。そんな**に対して邪魔をするなとしか言えなかった。
**が現れた一番の誤算は、あまりに昔のまま凛として美しかったことだ。


「行くよ」
「来い、**」
「待て**!一人で突っ込んではならん!」
「柱間は引っ込んでて!!」
「落ち着け**」


ぐいっと腕を引っ張られるその先を見た。さっきはまともに顔なんて見てなかったけど、昔見た時よりも年老いた扉間が腕を掴んでいた。**の体のどこかにマーキングをしたらしい。手の早い男、と睨みを効かせる**。


「策を練ってからでないと危険ぞ、**」
「私一人で行くから、柱間はひっこんでて」
「昔とは違うんだ、言うことを聞け、**」
「違うくない、同じよ」


三人の中で馬鹿をしたやつの尻拭いは、いつだってあとの二人の役目だったじゃん。
マダラを見据えてそう呟いた**。眉を顰めて苦い顔をする柱間に、扉間はなお続けた。


「一人対複数とか、好きじゃないの」
「しかしだな…」
「今のあいつは兄者のチャクラも取り入れておる。そう考えればあいつも二人だ。」
「うるさいおじさん」
「おじっ…!?」


わがままでじゃじゃ馬な日向お姫様。その性格は穢土転生していても健在だった。そんなわがままお姫様に、どうしたものかと頭を抱える柱間。


「あの、この方は…」
「あぁ、日向の姫とか言われてるやつだ」
「じゃじゃ馬にもほどがあるがのぉ〜…」
「なんですって!?」


綱手の言葉にガッハッハと笑う柱間。
美しい容姿、凜とした強い精神、華奢な体なのに馬鹿力。あのひとふり温泉を作ったとされる噂のお姫様。かつて忍の三神と称されたうちの、一人。


「噂どおりというか、噂以上というか、」
「**、一旦引くぞ」
「いや」
「っ言うことを聞かんか!」
「なんで扉間の言うこと聞かなきゃダメなの?火影になったからって偉そうになってない?あとさっき思ったんだけど、この白いもふもふが全然もふもふしてない。ガサガサして痛いよ。」
「〜〜っ、**!!」


7割程度キレているときの、**の質問攻撃も健在だった。まさか扉間が口を閉じることになるとは。


「私は、私のやりたいようにやる」


日向家紋が入った羽織を翻し、一歩前に出た**。それを斜め後ろから見るのは、いつだって扉間の特権だった。彼女が、一番美しく見える位置だったから。


「俺は置いてけぼりぞ?**」
「…柱間、」


そう言って**の横に立つ柱間。目の前にいる一人が、隣に立てば、いつもの光景だったのに。

横並びで立つ2人を見るのは、マダラにはなんとも気分が悪かった。生涯愛した女と、生涯のライバル。そんな2人が当たり前のように隣に立っている事実が、苛立ちを増強させる。

いつもは横から見ていた、凛とした立ち姿。前から見ても、依然美しさは変わりない。むしろその向けられる鋭い眼力に背筋がゾクっと疼いた。


「変わらないな、お前らは」
「マダラもだよ。馬鹿なとこ、なに一つ変わってない」
「なぜだ、なぜこんなことをする!」
「お前らには、一生理解できない」


マダラの殺気を受け、**と柱間は同時に仙人モードに入る。2人のオーラに扉間たちの髪がなびく。
過去の栄光とはいえ、三人とも忍の三神。その振る舞いは圧巻だった。


ただならぬ殺気を感じたオビトが、加勢にやってきた。


「おい」
「なんだ」
「こっちに加勢するべきか?」
「…あのガキどもはどうした」
「フン…興味もない」


突如現れたうちはの男。2人並んでいたら、昔のマダラとイズナを思い出した。それがひどく懐かしくて、苦しい。

白眼、と呟いて目にチャクラを集中させた。思ってたよりもかなり多い2人のチャクラ量。
いけるか…?、という**らしくもない不安と、隣にマダラがいれば、という叶うはずもない願いに**は自分で自分を嘲笑した。


「**…?」
「ん?どうしたの?柱間」
「…いや、なんでもないぞ」


自分の強さは、自分で理解していた**。どれほど相手に通用するかも、わかっていた。だから、この弱気は、きっと杞憂じゃないことも、やはり理解していた。


「行くよ、柱間」


不安とともにわずかにぶれるチャクラをひたすらコントロールした。ぎゅう、と拳にチャクラを込める。


「柱間はお前がやれ、オビト」
「いいのか?殺すぞ」
「なぁに、すぐにそっちに行く」


ピリ、ピリ、と殺気が鋭くなる**。聞こえてるよ、なんて言葉を笑顔で言ってのけたが、腹のなかは今にも噴火しそうなほど熱くなっていた。

怒れば怒るほど、自我を失う感じがひしひしと柱間には伝わっていた。自分と、認めた相手が馬鹿にされることを何よりも嫌うやつだから。


「**、冷静にな」
「ぶっとばす」
「マダラが相手ぞ」
「だからなに」
「…落ち着くぞ、**」


コツン。
頭を指でノックされ、コテンと首が曲がる**。最高にイラついているタイミングだったから、そんな柱間の気の抜けた行動にさらに苛立ちが増強した。

口をへの字に曲げ、柱間を睨みつけた。当の本人はやれやれと言わんばかりに腰に手を当てていたが。


「なにすんのさ」
「**が怒ってるからぞ」
「ほっといてよ」
「ほっとくわけがないだろう」


怒っている**を見るのは嫌いぞ。

なんとも気が抜ける口癖だったが、そう言って頭をぐしゃぐしゃと撫でる柱間にいつのまにか苛立ちはシュゥゥ…と鎮火していく**。
むかつく、と呟く**に、柱間はニコニコと笑った。それで良し、と言いたげな表情で。


「茶番は終わりだ」
「!」


グッと距離を詰めて来たマダラ。すでに手の印は結び終わりそうで。
しかし印を結ぶ必要のない**は瞬時にチャクラを拳に込めた。冷静になった**の技を発動させる速さは、先に術を発動させたマダラをも凌ぐ。


「『菊花衝』」
「『豪火滅却の術』」


ドンッ…
衝撃波と豪火がぶつかり合う。しかし想像以上の豪火が**の周囲を焼き尽くした。火の粉が顔を掠めた。チリ…と痛む頬。辺りが豪火で覆われた**は、即座に仙人チャクラを練り、目に白眼を宿した。

そして火の煙に隠れてやってくるうちはの馬鹿に対峙するために、高濃度の柔拳のチャクラを拳一点に集中させる。

視界にはっきり映った青いチャクラ。それに向かって踵を迷いなく落とした。ボフン、と消える影分身を、尻目に、背後から音もなく近づいて来た目当ての男。


「もらった」
「こっちがね」


振り向きざまに拳をまっすぐ突きつけた。まっすぐと相手の腹に突き刺さった拳。しかしそれは一切の手応えがなく、すり抜ける。
目を見開く**に、マダラが反対の腕をグッと腕を強く掴んだ。視界にはっきりと映った黒髪。

いや、ちがう、こいつは、


「っ、お前は、!」
「罠だ!!!**!!!」
「とりあえず、お前は戦線離脱だ」


扉間の叫び虚しく、現れたのは、マダラじゃなく、あのオビトと言う男だった。しっかりと**の腕を掴んだオビトが神威を発動させる。その瞬間、暗転する世界。

最後に視界に映ったのは、豪火をバックにニヤリと笑う男だった。




おとぎの国のうぐいす姫
これでやっと2人きりになれるね。



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おとぎの国のうぐいす姫