姫シリーズ | ナノ







「兄さん!」
「ん?どうした、イズナ」


焦ったようにマダラの部屋に入ってきたイズナ。その顔は真っ青で、異変に気付いたマダラがイズナに近づく。


「助けて、!もう俺と扉間じゃ無理だ…!」
「落ち着け、なにがあったんだ」
「**と柱間が…!!」


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時は同じくして火影邸。


「もうよさんか!2人とも!」
「柱間のばか!!サイテー!!」
「**の阿呆!!わからずイダッ…!!」


火影邸では物が飛び交い、**と柱間はお互いが子供のように喧嘩を繰り広げていた。

飛び交うものは、紙やらティッシュやらタオルやら、当たっても害のないものが多いが、なんせ**の力だ。当たると割と痛い。


「柱間がこんなサイテーだなんて思わなかった!」
「おっ、俺だって**がこんなにわからずやだなんて思わなかったぞ!」
「もう知らない!」
「俺だって知らんぞ!」
「お前ら、何してんだ…っておい!**!!」


喧嘩仲裁のために呼び出されたマダラは騒がしい部屋にため息をつきながら入った。しかし部屋に入って来たマダラを押しのけるようにぷりぷりと怒った**が部屋から出て行く。
柱間も柱間で怒っているようだが、その姿はあまりに情けない。口をへの字に曲げ、眉は情けなく下がっている。加えて泣くのを我慢しようとして眉間にシワが寄っていた。


「ったく、お前ら何喧嘩してんだ?」
「…俺は悪くないぞ」
「喧嘩両成敗って言葉があるだろ」
「……悪くないぞ」
「はぁ……」


散らかった部屋の隅で体育座りをする柱間。マダラは正直言って面倒くさかった。一向に話す気のない柱間。さてどうしたものか、とマダラは**が出て言った方向へと追いかけた。


「マダラ、2人は…」
「大丈夫だ。どうせしょうもないことで喧嘩してんだろ」


「**は?」と扉間に聞くと、「ココだよ。」とイズナがズルズルと引きずってやって来た。嫌だと暴れる**を無理やりひっつかむ笑顔のイズナ。我が弟ながら恐ろしいと思った。いや、マジで。


「**、何があったんだよ」
「……」
「言ってくれねぇとわからねぇだろ?」
「柱間が馬鹿だもん…」
「それは今に始まったことじゃねぇだろ?」


体育座りで柱間と同じような顔をする**。どうしたものか、と**に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「まぁ何があったかはしらねぇけどな、このまま柱間と喧嘩したままでいいのか?」
「……やだ、」
「じゃあこういう時はどうするんだ?」


ぐしゃぐしゃと**の頭を撫でるマダラ。マダラに言われ、目にいっぱいの涙を溜めた**は、小さな声で「謝る…」と言った。


「おい、柱間もそこにいんだろ?早く出てこい」


その声とともに、ギィ…とわずかに扉が開き、その隙間から触覚の下がった柱間が顔を出す。

**からしたら、いきなり出て来た柱間。そんな柱間に驚いて逃げようと立ち上がる**を制したのはにっこり笑顔のイズナくん。**の頭を鷲掴みし、上から抑えた。


「**?」
「ゴメンナサイッ…!」


柱間も柱間で、扉間に首根っこ捕まれ無理やり引きずられている。時に弟達とは厳しいものだ。


「………」
「………」
「まず、なんでお前らは喧嘩してんだ?」
「「だって 柱間/** が」」
「それはもういいんだよ。喧嘩の内容だっての」
「「それは言え ない /んぞ ッ!!」」
「だー、もう、同時に喋んな」


仲がいいのか悪いのか。まぁ、喧嘩こそすれ、2人は基本は仲がいい。喧嘩するほど仲がいいと言えばいいのか。

何はともあれ、こんな様子じゃ一向に喧嘩の原因がわからないじまいだ。原因追求しようにも2人とも焦った様子で隠すばかり。


「**は、柱間の何に怒ってんだ?」
「センス悪くて馬鹿なとこ」
「なんだと!!」
「だから、センスが悪いのも馬鹿なとこも今に始まった事じゃねぇだろ」
「………」
「じゃあ柱間は?**の何に怒ってんだ?」
「男のロマンがわからんところぞ!」
「多分柱間が悪いな」
「なんだと!?」
「やーいやーい」


センスと馬鹿と男のロマンってなんだ。共通点が全く見つからん。はぁぁ…と深くため息をついた。
もしかしたら、扉間やイズナは知っているかもしれん。そう思って2人に視線をやる。


「お前らは知らんのか?2人の喧嘩の理由が」
「うーん…まぁ、なんというか、ね」
「まぁ、お互いの言い分もわかるっちゃわかるってところだな」
「えー、わかる?」
「わからんでもないだろ」
「扉間サイテー」
「これが男だ」


まぁ、**の意見の方が普通に考えればいいがな。と付け加えた扉間。ますます意味がわからん。なぜ俺にだけ内緒にするのか。


「2人とも別のものじゃダメなのか?」
「「ダメ /ぞ !!」」
「これは毎年恒例なの!」
「一緒の方がなんかこう、盛り上がるのだ!」
「だから、お前ら一体なんの話ししてんだ」


別とか毎年恒例とか盛り上がるとか意味がわからん。腰に手を当て、ぽりぽりと頭を掻いた。原因がわからんかったら解決もできん。

今日で3度目の、どうしたものか。という言葉が脳内をよぎった。その時、ひらめいたとばかりに手を拳で叩いたイズナ。


「あ!そうだ!いいこと思いついた!」
「いいこと?」
「あのね、」


柱間と**の肩を持ち、ゴソゴソと内緒話を始めたイズナ。
数十秒後、何それ面白い!と騒ぐ**にそんなんでいいのか?と眉間にしわを寄せた柱間。しかしそんな柱間も、イズナの「でもこれしか2人の希望を叶えられないよ?」という言葉に、納得したようだった。


「やろう!柱間!」
「うーむ…うまくいくかのぅ…」
「大丈夫大丈夫!」
「なんでもいいが、仲直りしたのか?」
「うん!」


内容は非常に気になるが、仲直りができたならそれでいい。いつもと同じ、花のような笑顔の**を見ることができただけで良しとするか。


こうして、**と柱間の喧嘩は幕を閉じた。この日の夜、扉間とイズナは、軽く酒を飲みながら、マダラが子供の喧嘩を収める先生にしか見えなかったとお互い笑いながら今日の出来事を酒のツマミにした。



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時は12月23日の22時。

イズナにひとふり温泉についての話があると呼び出され、マダラは単身、屋敷の広間へと向かっていた。

なにか経営がうまくいっていないのか、少しばかりの不安を抱えながらイズナがいるはずの広間の襖を勢いよく開けた。


「イズナ、話と、は……」


広間の中心にいたのは、イズナでもなんでもない女が2人。華美な着物を着て三つ指ついて俺に頭を下げていた。

ぱっと勢いよく先に顔を上げたのは、密かに長年想っていた女、**だった。程よく化粧を施し、いつもとは違う妖艶な雰囲気に思わず生唾を飲み込む。


「**、か…?」
「マダラ!待ってた……間違えた、お待ちしておりました、マダラ様」


いつもの無邪気な笑顔ではなく、目を細めて薄く笑う**。無邪気なのもいいが、これはこれで良いな。と思った。


では隣に座っている女は誰なのか。ゆっくりと顔が上げられ、長い髪がだらんと下に落ちた。完全に見えた顔は、どこかで見たことあるような顔の女。


「…誰だ?」


なんか見たことある。見れば見るほどじわじわと憎たらしく感じるのはなぜなのか。初対面っぽいがなんか腹立つ顔。


「お待ちしてたぞ、マダラ」
「ちょっと、様は!?」
「…さま」
「……柱間ァァ!?」


ぞって言ったな!?確実にぞって言ったな!?!?

何してんだ!?と叫べば、2人してニヤリ、と卑しく笑い、勢いよく俺を引っ張った。そして2人の間に強制的に座らされる。


「うおっ!?」
「さーさー、これで両手に花ですな、マダラ様」
「ほーれ、マダラの好きな巨乳ぞ?」
「ちょっ、胸当ててくんな柱間!キモいわ!」
「え、マダラ巨乳が好きなの?」
「違う!!程よいのがいいんだよ!!」
「本音出てるぞ」


2人してマダラの腕を絡め取る。柱間はともかく、想い人にこんなに近寄られ、腕を絡め取られてマダラは嬉しくないわけない。(しかもちょっと胸当たってる)

そして**が扉間〜!と叫んだ瞬間、突如現れる多数の料理。


「っなんだこれ、?」
「すごいでしょ!みんなで作ったの!」


色とりどりの豪華な料理や酒。なんでこんな、?とマダラの頭の中ははてなマークでいっぱいだった。


「あ!イズナ!」
「こうしてみると、ほんとすごい料理の数だね」
「お昼からみんな頑張ったもんね〜」


ちょっと焦げてたり飾りが落ちているのもあるが、どれもこれも食欲をそそるものばかりだった。

目で見て楽しんでいる時、最後に入ってきた扉間は少し疲れた様子で**を睨んでいた。


「まったく、飛雷神をなんて使い方するんだ…」
「だって扉間ったら料理めちゃくちゃ下手なんだもん」
「コンロが1つダメになったぞ」
「扉間が弁償してよね」
「……」


突然料理が出現したのは、扉間の飛雷神の術だったらしく。扉間が料理がてんでダメなのもいい気味だが、得意の忍術をこう使われるのもまたいい気味だ。


「じゃ、始めますか」
「柱間、お酒注いで〜」
「よし!皆の者!升を出すのだ!」


柱間に言われるがまま、升を手に取り差し出した。トクトクと透明の酒が注がれ、ほんのりといい匂いが鼻をくすぐる。

全員に酒が行き渡り、柱間が大きな声で酒を掲げた。


「それでは!うちはマダラ生誕の前夜祭の始まりぞ!」
「…は?」
「マダラ、乾杯よろしく」
「待て、生誕の前夜祭って…」
「明日、12月24日でしょ?」


そう言えばそうだった。最近忙しくて日付感覚がなかったが、明日は俺の誕生日とやらだった。まさかこいつら、そのことのためにこんなにも豪勢な食事を用意したというのか。


「………」
「お?泣きそうぞ?泣くならこの胸に飛び込むぞ!」
「っ泣かねぇよ!」
「いいじゃん、今柱間ちょうど変化の術で女の子になってるし」
「よかねぇよ!柱間だぞ!」
「柱子よ〜ん」
「きもい!!あぁもういい!」


べったりとすり寄ってくる柱間を退かし、ぐっと酒を掲げた。自然と笑ってしまうのは、仕方がないことだ。


「乾杯!!」
「かんぱーい!」
「乾杯ぞ!」
「乾杯」
「……」


コツン、といくつもの升がぶつかる。その度に中の酒がピチョンと揺れた。そのままズズッと口につければ、酒とヒノキの匂いがふわりと鼻に香る。


「あ!そうだ!先に渡しとくね、これ」
「ん?なんだこれ」
「開けてみるぞ!」


酒を置いた**が、何やらでかい箱を俺に差し出した。柱間に言われるがままに開けてみると、そこには鮮やかな紅色の羽織が1着入っていた。


「これは…」
「私たち2人からの2つ目のプレゼント!」
「色も2人で選んだぞ!」
「2つ目?」


1つ目はもう貰っているのか?と疑問に思ったマダラに、にっこりと笑ったイズナが意気揚々と説明した。


「1つ目はほら、両手に花と、お酒」
「…パワーが化け物な女と存在が化け物の間違いだろ」
「なんですって!?」
「酷いぞ!マダラ!」
「そう?柱間も上手に変化できてるし、**だって可愛いと思うんだけどなぁ」
「まぁ兄者という時点で女としては見れんな」


両手に花と目の前に酒、か。これがこの前2人が喧嘩していた時に柱間が言っていた男のロマンというやつなのかもしれん。いや、このバカのことだ、きっとそうだ。だから**はブチ切れたのか。そう解釈すると、全てが繋がった。


「…まさか、お前らのこの前の喧嘩の内容は…」
「柱間が女の子をプレゼントしようだなんていうんだよ?」
「今年は一風変わったことをしたかったのだ」
「ほんと、聞いて呆れるよね」
「馬鹿2人の喧嘩の内容だ。馬鹿馬鹿しいだろう」


俺への贈り物について、喧嘩していたのか。そこまで真剣に考えてくれていたということが何よりも嬉しかった。小さな声で、ありがとう、と一言だけ呟いた。

それを聞いた2人は顔を見合わせ、そして2人していい笑顔で「おめでとう、マダラ」と答えた。


そのあとはどんちゃん騒ぎだった。酒に酔った柱間の術が溶け、ごつい男の醜い女装姿が披露されたり、想像通り酒に酔うと面倒くさい**が柱間の帯を引っ張ってお代官ごっことやらをしていたりと、やはりいつも通り騒がしかった。

時刻は24時を目前にしている。するとここで、かなり飲んでいたにも関わらず全く酔っていないイズナが「俺からもプレゼントがある」と言い出した。


「え!イズナ、マダラにプレゼント用意してたんだ!」
「もちろん。兄さんだからね」
「なになに?なんのプレゼント?」


俺への贈り物なのに**が我が物のように身を乗り出した。そしてなぜか柱間も、**につられてイズナの目の前に近寄る。

すると、イズナは2人にこそっと耳打ちをし、何かごそごそと作業をしている。なんだ?と思い2人に近づくと、ばっ!と勢いよく振り向いたのは、唇を真っ赤に紅で色付けた柱間だった。


「……は?」
「マダラ!俺の愛ぞ!!」
「ま、待て、近づくな、ちょっ、そこで止まれッ待て待てやめ…ッウオオォォーーーーーっ!!!」


マダラに勢いよく抱きついた柱間は、そのままマダラの頬に顔を近づけ、ぶちゅーっ!と盛大にキスをした。まさかの展開に顔が青ざめるマダラ。その姿は屍のようだった。

目の前が真っ白になり、床に倒れるマダラ。柱間から解放され、恐怖と憎悪と絶望で体が震える。

そんな中、トン、と顔のすぐ横に手をつかれ、じきに灯の光が遮断された。

見上げれば、そこには柱間と同じく唇を紅で染めた**がいた。


「ッ…**、?」
「マダラ、」


前に垂れ下がった髪の毛を、**は耳にかける。押し倒され、目の前でそんな色気のある仕草をされ、マダラは自身の身体に熱が籠もるのを感じた。

妖艶に微笑む**。酒に酔わせた**は怖い。油断をすれば、その身を押し倒して襲ってしまいそうで。

ゆっくりと**の顔が近づいてくる。無意識に伸びた手が、**の首筋をとらえた。雰囲気に身を任せ、ゆっくりと自身の視界を遮断した。

ボーン、と0時を示す、鐘が鳴った。それと同時にチュッと可愛らしいリップ音。それは唇からでなく、頬から聞こえた。


「おめでと、マダラ」
「…おう」


嬉しいような、悲しいような。まぁまさか、こんなご褒美で口づけがもらえるだなんて思ってもいなかったしな。うん。貰えるわけねぇよな。うん。…、いや、別に悲しいとかそういうわけではない。


起き上がってイズナを見れば、にっこりと笑っておめでとう、兄さん。と言った。

我が弟ながら、なかなかのプレゼントだ。ドキドキと高鳴る心臓の所在は、本人にしか、わからない。




午前0時の姫のキス
(柱間ァァ…、起きろこのハゲが…)
(扉間、落ち着けって)
(こいつ酔ったらこんなことになるのか?)
(扉間は酒癖悪いよ)


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乙姫は夜盲症