幸福片道切符 | ナノ




水曜日

「はぁ…」


窓を見て溜息をつく我愛羅。数えただけでも本日5回目。ついでに言っておくが今は午前だ。


「おい、我愛羅に何かあったのか?」
「あー…なんつうか、うん」


久々に木の葉に帰ってきたかと思えば弟は溜息ばかり。カンクロウに聞いて見ても言葉を濁される。


「なんかあったんだろ?」
「あったっちゃあったけどよ…なんかこう、まだ確信がもてねぇってか、なぁ…」
「んだよ、はっきりしろよなー」


ぼーっと窓から里を眺める我愛羅。まぁ仕事はいつも通りほとんど終わってるし、その点に関してはなんの心配もしていない。

しかしいかんせん調子が悪そうと言うか、悩んでいると言うか、こう、心ここに在らず状態にも見える。


「ったく、我愛羅に直接聞いて、
「やっやめろって!踏み込むもんじゃねぇじゃん!」
「はぁ?」


ハッキリしないカンクロウに腹を立てながら、我愛羅じっと見つめる。なんかこの表情ってか、誰かが前にこんな感じになってたことがあった気がする。
誰だったかな?


「…あ」
「ん?」


外を見ていた我愛羅が何かに反応した。なんだなんだと思い我愛羅の視線の先をこっそりと見てみる。
外には大勢の子供と大人の女性が一人。アカデミーで見たことある子供ばかりだったから先生と生徒か、と決定づけるのは容易だった。


「生徒と先生だけだった」
「その、先生がキーポイントなんだよ」
「先生が?」


もう一度外を見てみる。確かに遠目から見ても優しそうな先生だが、……あ。


「…本当か?」
「ここにきて嘘つくわけねぇじゃん」


再び我愛羅に視線を戻した。あー、はいはい、通りで見たことある表情って思ったら、うちの主人が私をデートに誘う前のあのそわそわしてる感じと一緒じゃないか。


「ったく、世話の焼ける弟だねぇ」
「なんかするつもりか?」
「ほっといて進展するなんて思っちゃないからね」


それもそうか、と軽く笑うカンクロウ。私はと言うとズカズカと我愛羅に近づいて、未だ外を見ている我愛羅の両肩をバシンと掴んだ。


「食事には誘ったのかい?」
「……は?」
「だから、食事には誘ったのかいって聞いてんだ」
「テマリ、なんのことだ」
「唐突すぎるじゃん」


今ならきっと最高の笑顔だろう。ニコッと笑って窓の外を指差した。ついでに「あ、の、子、に(ハート)」と言う言葉を付け加えて。


「……なぜ食事に?」
「あの子のことが好きなんだろ?」
「すき…?」


きょとん、とする我愛羅。おいおい、まさか気づいてないだなんて言わないよな?好きって感情を知らないとか?…いやいやいや、流石にもう20歳過ぎてるし、…。


「好きとはどう言う感情だ」
「………」


誰だよ!こんな純粋に育てちまったやつは!!私らだよ!!!


「…よし、我愛羅、とりあえず椅子に座れ」
「なぜだ?」
「今から講義を始める。」
「は?」
「カンクロウ!お前は正座だ!!」
「なんでだよ」




:
:





「と、言うことだ」
「なるほど」


好きと言う感情がどう言うものなのか、恋愛とは、と言うありがたい講義を初めて早2時間。俺の足は死んでいる。


「会いたい、触れたい、そばにいたい、か…」
「いいか?これには個人差がある。我愛羅はあの子にどう言う思いがあるか口に出してみな?」
「…知りたい、だな」
「他には?」
「………知られたくない、」
「知られたくない?」
「俺のことだ。彼女にはなぜか知って欲しくない」
「なるほどなぁ…」


目を瞑って真剣に考える我愛羅。まぁ確かに、幼少期のことは知られたくないだろうな、とは思う。まぁそれってつまり、


「嫌われるのが嫌なんじゃねぇの?」
「…そうかもしれんな」


ここまで言って、やっと少しは理解してきたようだった。まぁテマリ先生の努力の賜物というやつか。


「彼女の隣にいるとき、胸が締め付けられるようなことがたまにある。普段はいつも以上に穏やかになるのだが、」
「それだよ!それが恋ってやつだ!」
「だがまだ一昨日会ったばかりで、」
「一目惚れだな」


そんなにいいやつなのか?と聞いてくるテマリ。まぁ確かにいいやつそうで、優しさが滲み出てたけど、…


「初めて見るタイプ、ってやつじゃん」
「初めて見るタイプ?」
「なんかこう…うーん……よくわかんないやつっていうか…」


堂々としているのにビビりだとか、慌てやすいのに度胸があるとか、よくわからないやつじゃん、と説明したが、テマリは顔をしかめるばかりだった。


「まぁ、とりあえず飯に誘うべきだ」
「誰をだ?」
「決まってるだろ?意中の女だよ」
「テマリたちも来るのか?」
「我愛羅と、その子、2人だけだ」
「………むりだ」


うわ、我愛羅が弱気とか珍しいじゃん。と口に出そうだったが、慌てて飲み込んだ。相変わらず対人関係は苦手なやつだ。


「その子のこと、もっと知りたくないのか?」
「それは……」
「ずーっとこっから眺めてるだけでいいのか?」
「………」
「あの手の女はすぐに他の男に取られちまうぞ?」
「……………どうやって誘えばいい」


テマリの猛攻に折れた我愛羅。相当惚れ込んだらしい。あの日、たった数分会っただけでこんなに惚れ込んだかは知らねぇけど、我愛羅にここまで行動させれるあの女は只者じゃないと思った。






天使が舞い落ちる水曜日
(誘うならまずは昼飯からだな。)
(なるほど)
(偶然を装うとかまどろっこしいことはいい、直球勝負だ)
(なるほど)
(じゃあ後は頑張れ)
(………)
(大丈夫か我愛羅!!息しろ!息!!)



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