幸福片道切符 | ナノ




日曜日


「風影様!」
「……」
「風影様、お願いです返事してくださいっ、!」
「……」
「〜〜っ、我愛羅様っ、!」
「……」


はい、私、絶賛無視されています。




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昨日の記憶がほとんどない。あれからどうやって帰ったのかすら覚えてないのだ。
死んだように眠りについて、朝も11時くらいまで寝ていたら、いきなり聞こえた爆発音。はい、家がぶっ壊されました。…あれ?


「……」
「……え。」


壊した本人がご登場。5秒間くらいガン見したけど、ひたいに愛の文字がある風影様には変わりなかった。
昨日の今日で何があった。風影様はズカズカと私に近づいてきて、混乱に混乱を重ねた私のシーツを剥ぎ取り、胸キュンする暇もなくお姫様抱っこで誘拐した。(すっぴん)


「えっ、あのっ、ちょっと!?」
「**」
「っ、」
「今から俺のことは、『我愛羅』か『おいそこのお前』と呼ばないと俺は返事をしない」
「……はい!?」


待って待ってください風影様!!と叫んだ声は青空に消えた。冒頭に戻る。


「どこに行くんですか!?」
「……」


砂に乗って空を飛びながら(厳密に言えば砂に乗った風影様に乗りながら)向かう先はわからない。ただ1つ言えるのはもうすぐで里を出てしまうということだ。


「里を出るおつもりですか!?」
「……」


もちろん返事はない。しかし私には焦りしかない。
するといきなり体の重心がふわりと浮いた。高いところから落ちているような胃が浮くようなあの感じ。


「ひぁぁぁっ!」
「!!」


あまりの怖さに思わず風影様の首に抱きついた。風影様だったけど、自身の恐怖に叶わなかった。

ぎゅっと目を瞑る。早く降りて、と願っている時、風影様が私の肩をキュッと抱き締めた。今冷静に思えば、すぐ横に風影様がいる。端正なお顔が目の前にあって、息が止まる。

どうしよう、心臓の音が、聞こえてしまいそう。


「着いたぞ」
「ぅはぁいっ!」
「?」


あぁあぁっ、なんでこう変な返事になるのさ私っ!

お姫様のように降ろされ、風影様の1つ1つの動作にキュンといちいち胸が締め付けられる。
ありがとうございます、と小さく呟いて風影様を見ると、クスリと笑って頭を撫でられた。
こういうのは、本当に反則だ。


「あの、ここは、」
「「「いらっしゃいませ!」」」
「!?」
「あぁ」


いきなりの揃った声にギョッとして思わず風影様の服を掴んだ。店員さんを見ると誰もが変なくらいニコニコしてて、私達を見ていた。


「予約していた我愛羅だ。こいつを頼む」
「かしこまりました!」
「え?え?」
「ささっ、奥様こちらへ!」
「奥様!?」


アレヨアレヨと引きずられ、抵抗する間も無く店内に連れ込まれた。店内はそれはそれは豪華なつくりで、なんだかキラキラしていた。


「ここどこですか!?」
「ここはドレスショップですよ、奥様」
「奥様じゃないです、!」
「まさか風影様に奥様がいるだなんて!素敵です!」
「だからちが、」
「スリーサイズを図りますね〜」
「カーテン閉めまーす、服脱ぎますね〜」
「いやぁぁぁあっ!」





:
:






「風影様、**様の準備が整いました」
「そうか」
「**様、とても似合ってるので出てきてください〜」
「むっ、むりですっ、!恥ずかしくて死にます…!」
「ほら、風影様もお待ちですよ?」
「もっとむりです…!!」
「**様ったらシャイですね〜」
「なんでウェディングドレスなんか、」
「**」
「っかかかか風影様っ、なんで来てっ…!」


これを羞恥プレイと言わずしてなんと言おうか。地味な私には似合わない華美な純白のドレス。ドレスが今にも着せてやってるんだぜ、とでも言いたそうだ。


「他のはないのか?」
「こちらはお気に召されませんでしたか?」
「丈が短すぎる」
「承知いたしました、別のものを用意いたします。」
「そういう問題じゃないです…!!」


それでは失礼しますね〜!と愉快な店員の声と同時に引っ張られ、またもあれよあれよと脱がされ着替えさせられ、そしてまた風影様に見せられるという羞恥プレイを5回ほど繰り返したとき、ようやく風影様からこれにしようとお許しが出た。

もちろん私は屍だった。


「**様、もう直ぐで風影様のご準備が整います。もう少々お待ちくださいね」
「……はい、」


よく冷えたオレンジジュースをストローで飲み、私はやっとこさ生き返る。ふぅ、と小さく息をついて、出されたクッキーを1つつまんだ。


「**」
「んぐっ、すすすいませんッ、まだ口にクッキーが、…………」


振り向いた矢先、もぐもぐと咀嚼していた口が止まる。一度視界に入ったら、もう彼しか見えなかった。ドキドキと心臓がうるさくて、聞こえてしまうかと思った。ゴクッとクッキーを飲み込み、再び彼を見た。

そこには、純白のタキシードに身を包んだ風影様がいた。


「風影、さま…?」
「どうかしたか?**」
「〜〜っ、」


肌も服も白い風影様に、あの赤い髪がよく映える。あまりにかっこよすぎて、心臓がぶっ飛びそうになった。


「とっ、とても、お似合い、で…す、」
「そうか、ありがとう。**に言われると一番嬉しいな」
「っ、ずるい、です…」


かっこよすぎて、ずるい。私の目の前まで来た風影様に手を取られ、彼のなすままに私は立ち上がった。どこに行くのですか?と聞いても、風影様は何も答えなかった。


「こ、こは、」
「あの店についてるチャペルだ」
「チャペル!?」


なにするんですか!?結婚ですか!?なんでウエディングドレス着てるんですか私!?と焦る気持ちを素直に吐き出していたら風影様が人差し指を立てて、シーと言った。

もう本当にやめてほしい。かっこよすぎて、もっと好きになってしまうから。


チャペルの中に入り、椅子の間を2人で歩いた。神父様がいるはずの祭壇の前で風影様と2人で向き合った。

風影様は、まっすぐな視線で私を射抜いた。


「**」
「っ、」


私の目の前で片膝をつくいて、左手をとる風影様。いつもならやめてください、と慌てるのに、今はなにも動けないでいた。


「身分とか、役職とか、そういうのはいい。ただ俺は、お前が欲しい」
「〜〜っ、」
「確かに俺は風影だ。でもそんなものを捨ててでも、俺はお前といたい」
「かぜかげ、さま…」
「我愛羅と、呼んでくれないか?」
「そ、んな…」
「**」
「ッ、…が、あら…」


ふわりと笑う目の前の彼に、私は泣きそうになってしまった。あまりに嬉しくて、幸せで、それでいて苦しい。


「結婚を前提に、俺と付き合ってくれ」
「っ、!」


こんなに私を想ってくれる人が今までいただろうか。我愛羅様に握られている私の左手が、私のものじゃないみたいに熱くなる。


「私なんかでッ、いいんですか…?」
「**がいい。**じゃないと、ダメなんだ」
「〜〜ッ、はい…!」


好きです、我愛羅様。


涙を含んだ声。きっと聞き取りづらかったけど、我愛羅様は届いた、と返事をするかのように、私の薬指に唇を落とした。


教会の鐘が、2人を祝福をするかのように大きな音で鳴った。





純白の乙女に日曜日



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