11月22日。
今日は少しるんるんしている。と、言うのも。
『いい夫婦の日?』
『そ。△▽もなんかしたらー?』
『な、なにかする、か…』
『新婚でしょ?仲良くできるうちはしといたほうがいいわよー』
『う、…うん…』
そう。今日は俗に言う、「いい夫婦の日」らしい。どこの誰かさんが作った語呂合わせに、ふむ、ふむ、と少し感嘆する。
どうせなら、まだ結婚して間もないし、ほんの少しでも特別な日にしたいし。
いつもよりも腕によりをかけて、ちょっぴりお高い食材を買って、いつもより豪華なディナーにしようじゃないのさ。
「フンフンフーンっ」
「何歌ってんだ?」
「っ!?えっ、あっで、デデデイダラくんっ!?」
どこからっ、!?
そう言わずにはいられない。だって玄関もリビングもなんの音もしなかったのに。
気配なんて、声をかけられてから気づいたのに。
「△▽、全然気づかなかったぜ、うん」
「ご、ごめんね?ちょっとだけ浮かれてて…」
「なんかいいことあったのか?」
「うーん、…うん、そうかな。」
「そうか」
「デイダラくん、今日、早かったね」
「頑張った、うん」
「お疲れさま」
上着を脱いだ途端、△▽〜〜、と私のぬくぬくと火照った両頬を、デイダラくんの冷え切った手で挟まれる。
つめたっ、と思わず顔をしかめるが、デイダラくんはしししと笑って私の両頬を摘んだり挟み込んだりと遊び始める。
「デイダラくん、料理、できないよ」
「もーちょっとだけだ、うん」
うりうりと頬っぺたを摘んだり、突いたり。子供みたいに遊ぶ姿にもう、なんて呆れたように笑ってしまう。
冷え切った手を温めるように、デイダラくんの手のひらを頬っぺたと私の手で挟み込んだら、尚一層冷え切った手がよく伝わる。
「手、少し暖かくなったね」
「△▽の頬っぺた、少し冷たくなった、うん」
「早くご飯食べてあったまろ?」
「んー…」
「っえ、」
ちゅ。
なんの前触れもなく、デイダラくんが額に唇を当てた。びっくりして目をパチパチと瞬きさせたら、「ただいま」、と目を細めるものだから、私も同じように目を細めて、「おかえり」、そう言った。
「今日の晩飯なんだ?うん」
「ふふん、今日はちょっぴりご馳走だよ」
「オイラも手伝う」
「いいよ、疲れてるでしょ?」
「そんなの吹っ飛んだ」
ーーうーん、じゃあ手伝ってもらおっかな。
ーー任せろ、うん。
本当に、私は素敵な旦那様がいるなぁ。そう思うと、たまらなく幸せになって、仕返しも含めたキスをあご先に落とした。
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「デイダラくん、これ混ぜてくれる?」
「上手だね、デイダラくん!」
「あ。あの食器、取ってもらってもいい?」
嫁が可愛すぎる件について。
パタパタと忙しなくキッチンを動き回る△▽に、顔のニヤケが治らない。なんだこれ、可愛すぎかよ。
こんな風に一緒に台所に立つなんて初めてだったから、新鮮すぎるし新婚感すげぇしなんだこれ、可愛すぎかよ。
「デイダラくん?」
「ん?どうかしたか?」
「なんか、ボーッとしてた?」
「気のせいだ、うん」
チン。
そんな情けない音がオイラを現実に引き戻す。できたできた、とミトンをはめてオーブンの前に立つ△▽の後ろからその中を覗いた。
「これ、なんだ?」
「ラザニア!」
「うまいのか?」
「うーん、どうだろ。美味しくできてたらいいなぁ」
ドアを開ければぶわりと熱気に乗ったいい匂いがあたりいっぱいいっぱいに広がる。あ、これ、絶対好きになるやつ。
「うまそうだな、うん」
「うん、上手に焼けたかな」
あちち、とミトン越しに熱された器に手を伸ばす△▽に、代わる、とその手を遮った。
大事な△▽の手が火傷でもしたらたまったもんじゃない。
「大丈夫だよ?」
「ダメだ、オイラが持つ」
とりあえずオーブンの前から避難させ、△▽がはめているミトンの袖口から手を差し込んでそれを奪い取る。か細い手がスル、といとも簡単に抜ける。本当に、小さくて、細い。だから、オイラが守らなきゃ、なんて思考にさらされる。
「…デイダラくんって、たまにずるい」
「△▽も一緒だ、うん」
ほんの少し頬が赤く染まった△▽が、もう…と視線を下げながらパタパタを顔を仰いだ。
ほら、そう言うところ、ずるすぎるくらい可愛い。
「火傷しないようにね?」
「任せろ」
ホクホクと湯気が立つそれをそっと手に取った。△▽がこっちこっちとマットを敷いて指をさしたところに器をそっと置いた。
ゆらゆらと白い湯気が食べろと言わんばかりに食欲を誘う。まじでうまそう。
そうこうしてる間に△▽がテキパキと最後の上善をしているのを見て慌てて手伝う。イロトリドリの料理が4人がけのテーブルを並んでいく様子は楽しいとさえ思う。
「美味しそうにできたね」
「そうだな」
ラザニアにバケット、スープ、あとなんかもう名前がわからない料理が何個か。
いつもご馳走だけど、今日はいつもよりもご馳走だった。
ちょうどよかった。
そう思って応接間に置いた荷物の中に隠してあったものを△▽にバレないようにこっそりと背中に隠して持ってくる。
もしかしたら、△▽も今日の日付を意識しているのかもしれない。
「デイダラくーん、何飲む?」
「あー…その、なんだ、」
「?どうかしたの?」
オイラがそんなロマンチックなこと、なんて△▽と会う前は微塵も考えてなかったけど、こう、記念日じゃないけど、何気ない日も大切にしたいと思ったから、。
「ワイン、飲むか?」
「ワイン??」
「その、これで…」
背中から取り出したのは、ご丁寧にリボンでラッピングされた四角い箱。
え、と目を丸くする△▽の視線をろくに見ることもできずに、ん、とそれを差し出した。
「これ、…」
「開けてみろよ、うん」
おずおず、といった感じで箱を受け取り、シュルリとリボンをか細い手が解いていく。あー、なんだこれ、なんか緊張する。こんなロマンチックなこと、したことねぇし、重いとか思われたらどうしようとも思う。
なにより、恥ずい。
「…ワイングラス、?」
「…おう、」
最初は、ワインだけ買って帰ろうと思ってたけど、ちょうど、たまたま、△▽が好きそうなペアのグラスがあったから。その、たまたま。
「これ、いいの、…?」
「あー、その……今日、いい夫婦の日だって、旦那が言ってて、それで、」
「〜〜っ、デイダラくん、!」
「うおっ、と、」
大事そうにそれを抱えた△▽がコツ、と額をオイラの胸元に押し付けにきた。そのままグリグリと額を擦り付けるその姿があまりに可愛くて、ははっ、と笑ってその身を抱きしめた。
「嬉しい、ありがとう、すごく幸せ」
「…ん。」
幸せってなんなんだ。ふと思うことがある。今もよくわかってない。小難しい話はオイラにはよくわからねぇ。
でも、今は、やっぱりよくわかんねぇけど、幸せだ。
バルコニーの距離、3センチ
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