サッカーよりも、好きなこと。

「猿門さん!備品整理終わりました!」
「おー、じゃあ倉庫の処分品を事務の方へ持ってってくれ」
「〜〜〜っはいっ!」



最近、六力は処分品の管理の仕事を嬉々として受けいれるようになって、俺は少し疑問を感じている。前までは物足りなさそうな顔をしていたのに、今となっては進んでこなすようになってきた。今朝も、「今日は備品整理しますか?」なんて聞かれて少し驚いた。

備品の中にはたまにサッカーボールとかもあるし、リフティングなんかしていたら一発シメなきゃなんねぇ。それをはっきりさせるために、これから俺がすることといえば、





「…なにしてんスか…」
「しーっ!尾行だよ尾行!」






気配を消してあいつの後ろをついていく。途中で猪里が喋りかけてきたけどすっげえ呆れた顔で見られた。これも仕事の一環だ!


六力の顔は見えねぇが鼻歌歌いながらスキップしている後ろ姿を見て少し気持ち悪いと思った。アイツあんなキャラか?これはますます怪しい。


いざ倉庫につけば、すぐにダンボールを抱えて扉を閉めた……って、ん?ボールは?
ダンボールを抱えながら器用に走る六力にバレないようについていく。あいつの鼻歌と備品がガチャガチャ揺れる音と廊下を走る音が響く。

俺も見失ないように気配を消してついて行ったら、途中で俺の足元からカランという音が響いた。その音を聞いてパッと振り向く六力。

やべっ!と思ってすぐさま隠れた。だらだらと汗が流れるが、「…まぁいっか!」とやけにでかい独り言を聞いてホッと息をつく。

そんな攻防を繰り返していればもう事務室の目の前。特にこれと言ったことは起こらないまま到着した。思い違いか?と疑問が残ったが、ドアを目の前にしていきなり荷物を床に置いた六力。服装を正したり帽子をかぶり直したりキョロキョロと自分と服を見て身だしなみを整えていた。その姿にピーンとくる。




……ははーん、これは女だな、女に違いねぇ。




パチンと頬を叩いた六力がドアを開けようとした途端、あいつが触れてもいないドアがいきなり開いた。



「っ!」
「きゃっ、!」



事務員らしい女が驚いた様子で縮まった。そしてそろりと六力を見上げた。お、けっこう可愛い。ってかあの女、確か、?




「ろ、六力さんっ!?ごめんなさい!大丈夫でしたかっ!?」
「いきなり出てきてごめんな?△▽は、大丈夫?」
「はい、大丈夫です、」
「そ、そうか…ならよかった……立てるか?」
「あ、りがとう、ございます…」





そう言って手を差し伸べる六力。顔を真っ赤にさせながらその手をぎゅっと握る事務員。六力が立たせようとしたら勢い余って事務員が六力に抱きつくような形になった。





「あっ、ご、ごめん!力入れすぎたッ」
「………」
「…△▽、?」
「会いたかった、です…」
「っ、一昨日も会っただろ?」
「もっと、会いたいです」
「ん、…俺も……」





………ははーーーーーーん。これはもう確定だな。ニヤニヤ顔が収まらねぇわ。抱きしめ合いながら顔を真っ赤にする二人を見て末長く爆発しろと思う。それにしてもいいネタが入った。後でイジメ倒そう。俺は後で質問攻めにするためにここで見たい衝動を抑え、ニヤニヤと緩む口もそのままに、看守室に戻った。若いっていいなぁ。





「△▽」
「はい、六力さん」
「上向いて」
「え?、んっ……」





ほんの一瞬、触れるだけのキス。お互いの心臓の音が聞こえて、クスッと笑った。




「あー……処分品を持ってきた」
「はい、確かに受け取りまし…」
「重いから中まで俺が持っていくよ」
「えっでも、」
「いつものことだろ?」
「う…そうですが…」
「行くぞ、△▽」
「ふふっ…はい、六力さん!」










愛しの君に、会いにいくこと。
「仕事中にサッカーより楽しそうなことしてたな、六力」
「っ!?ななななんのことですかっ、!?」
「確かここの事務員だったよな?あの△▽ってやつ」
「なんで猿門さんが$+☆♪〒〆!?!?」
「キキキ……あの女、確か犬並にモテるって有名だぞ。せいぜい奪われねぇようにな」
「っ……がんばります…。」
「んじゃ、鍛錬するぞ。」
「〜〜〜っはい!」
「あ、あと」
「え?」
「次イチャイチャしてたら動画とって刑務所内に放送するからな」
「すいませんでしたっ!!!」