七夕家の織姫様
「お疲れ様です、猿鬼さん」
「あぁ」
コトリ…と彼の目の前に湯気が漂う緑茶を置く。熱いものが好きな彼のために、いつも私は彼が戻ってくるギリギリまでは淹れない。
ズズ…とそれを啜り、何も言わなかったところを見ればお気に召したみたい。
「あ、そう言えば、今私の弟が南波に来るために訓練中なんですよ」
「ほう、弟がいたのか」
「はい、猿門くんより4つ歳下です」
「若いな」
「猿門くんみたいに強くなってくれたらいいんですが…」
「あいつはまだ弱い」
「ふふ、お厳しいこと」
今目の前にいる彼を憧れ、尊敬し、必死に追いかけ続けている弟くんを思うと、少しばかり笑みが溢れる。
「…何を考えている」
スルリと腰に手を回され、彼に密着させられる。あらあら、始まっちゃった。
「猿門くんが可愛らしいなと思いまして」
「今目の前にいるのは俺だぞ」
「もう…ヤキモチ妬きさんですね、」
そう言って彼の頬に手を寄せる。頭一つ分あたり低い所にある顔に、ふわりと笑いかけた。
「俺といる時は俺だけの事を考えろ」
ぐっと後頭部を抑えられ更に距離が近くなり、お互いの唇が重なる。自然と目を閉じて温度を分け合った。
初めての頃のようにドキドキして心臓が潰れそうになるようなことはもうないけれど、いつもキスをするたびに心がふわりと暖かくなるのは、これからもずっとあるのだろう。
お互いどちらともなく離れれば、自然と絡み合う視線。
いつものギラギラした鋭い視線じゃなくて、私にだけ見せる甘い視線。私だけ、という特別感と優越感にやられてしまったんだよなぁ…なんて若い頃の自分を思い出す。
その視線を愛おしむように、今度は私から唇を合わせた。
チュ、チュ、と繰り返しているうちに、ゆるりと口を開け、お互いの舌を受け入れる。グチュリ、と淫らな水音と、私から溢れる甘い声は部屋中に響く。
「ん、…ふっ…」
ヂュッ…という強いリップ音を最後に、銀の糸を渡らせて離れた。プツリと切れた糸が服に落ちた。
唾液に濡れた彼の唇が、すごく淫らで、目を細めてただ真っ直ぐ私を見つめる姿がとても綺麗だと思った。
「綺麗だ、△▽」
「…猿鬼さんも、ですよ」
そういえばわずかに口元を緩ませる彼に、心がキュンとなった。あぁ、愛しいなぁ…。
「明日は非番だったな」
「えぇ、そうですが…」
「夜、俺のところへ来い」
「……お手柔らかに…」
愛しいけれど、気を失うほど激しく求められるのは、やめていただきたくはある。
織姫様の秘密の約束
「猿門くん、たかがキスくらいで顔真っ赤にさせないでよ」
「無理だ…てか兄貴、今勤務中…」
「ほんとラブラブだよね、ちょっと妬いちゃう」
「頼むからせめて他所でしてくれ…」
「今日△▽ちゃんが家に行くみたいだけど?」
「最悪だ…俺、今日ここに泊まる」
「え、なんで?」
「兄貴ら激しすぎるから夜寝れねぇんだよ…!!」