四桜家のダリア

「犬ちゃん……妹いたんだね……」
「あぁ。△▽という。」
「初めまして、兄さんから色々とお話は聞いています、△▽です」
「犬ちゃん、この子に何話したの?」





いきなり犬ちゃんが連れてきた人は、女の子だった。しかも犬ちゃんの妹。声の抑揚とか声の質とかそっくりすぎて犬ちゃんが一人二役をして俺をからかっているかと思った。必死に演技している犬ちゃんなんて見たくないけど。




「最近『お手』と『おかわり』を覚えた人がいると伺ってます」
「この子に何教えてるのさ犬ちゃん、俺怒るよ?」
「まぁそれは冗談です」
「いきなり冗談ぶっ込んでくるね」




犬ちゃん二世だ…と思うと自然にため息が出た。なんでいきなり連れてきたの…。




「では私は職務に戻る。△▽、634番の相手をしていてくれ」
「わかった」
「話ぶっ飛びすぎだよ?てか君もわかったじゃなくて」





もうヤダこの兄妹。マイペースにもほどがある。

スタスタと足音が聞こえた。遠ざかっていくあたり、本当に囚人の前に妹を置き去りにして行ってしまったみたいだ。




「ではお話をしましょうかムサシさん」
「…囚人なんかと仲良くお喋りできると思ってるの?」
「できないんですか?」
「君ってよく馬鹿って言われない?」
「君じゃないです。△▽です」
「ツッコミどころそこなのね」





はぁ…なにこの子。ずれ過ぎてる。正直、犬ちゃんよりも面倒くさい。




「名前、△▽です」
「うん、わかったから」
「呼んでください」
「なんでそうなるの!?」





ずいっと気配が近くなる。さっきまでは思わなかったけど、結構オーラがある子なんだな〜って思った。さすがは犬ちゃんの妹か、




「………△▽ちゃん…」




なんで戸惑ってるんだ、俺。きっとこの子にペースを乱されてるからだよ、ね?



「ちゃんはいらないです」
「もうむちゃくちゃだね…」
「…ムサシ」
「え?」
「私は今年で21歳。つまりムサシとはタメです。だから呼び捨てで呼んでください」
「理屈が中学生だよ」
「ダメですか?」





疑問形で聞いているはずなのに、答えは一つしか聞かないみたいな感じで言われ、張り合う理由もないか、と仕方なく折れる。




「…△▽……」
「ふふ…よくできました」





そう言ってふわふわと頭を撫でられる。
バカにされてるみたいだったけど、嫌な気はしなかった。

ほんと、調子狂う。








ダリアの花に忠誠を
「△▽、634番はどうだった?」
「はい、頭を撫でられると喜んでいました。」
「本当に怒るよ?…△▽。」