モノクローム

※71番の名前がチィーです。







「チィー!おはよう!」
「おー起きたか、はよ。」




薬を調合している手を止めて顔を向ける。昨日の夜は酷くうなされてたみたいだが今日は顔色がいい。よかった、と一息ついて朝の薬の準備をする。




「ねぇ、チィー!なに食べたい?」
「んー…たまには洋食食いてぇなぁ」
「ひひっ、そう言うと思って昨日フレンチトーストの準備してたの!」
「んだよ、決まってんじゃねぇか」




「以心伝心だ〜!」と叫びながら小動物みたいにパタパタとキッチンに向かった△▽。朝からテンション高ぇな。

残りの成分を調合し終えた頃には、ほんのり甘い匂いが漂ってきた。そろそろだな、と重い腰を上げれば、ちょうど△▽も俺を呼びに来た時だった。




「チィー!ご飯できたよ!」
「おう、ありがとな」



真っ白いテーブルの上に並べられた木製の皿に乗ったうまそうなフレンチトースト。昨日安かったサクランボは、他の色とりどりな果実の中にたっぷり使われていた。

その一つを手に取り口に含めば、少し酸味の効いた果実ならではの甘さが口に広がる。




「あー!まだいただきますしてない!」
「悪かったって、冷めねぇうちに食べるぞ」
「うん!座って座って!」





椅子を引いて促されるままに座ると、キッチンからサラダやらベーコンエッグやら残りの料理を運んできた。我が家の朝食は今日も豪華だ。ちょこんと椅子に座った△▽を見て、手を合わせた。




「「いただきます」」




外はカリッと、中はふわっふわのフレンチトーストは相変わらず絶品だった。噛み締めるたびに口いっぱいにハチミツの香りが広がる。




「ん、うまい」
「よかった〜」




花が咲いたようにニコニコ笑う△▽。たったそれだけで俺の周りはいろんな色で溢れる。これが、幸せなんだなって思った。今日もまた、いつも通りの幸せを繰り返す。




ただの日常がどれほど幸せなのか、その時の俺に教えてやりたい。



△▽






目が覚めた。もはや慣れた音の無い空間。また夢か、とモノクロと同然の部屋を見渡した。

あいつがこの世からいなくなって1年。月に2〜3回のペースで見てしまう、幸せだった頃の夢。もう泣くことはなくなったが、いまだにこの夢は俺を苦しめる。幸せすぎる夢だから、永遠に眠り続けたい。目覚めるたびに、そう願ってしまう。




「△▽、」




ポソリと呟いた声に返事をしてくれる人はもういない。ニコニコと朝ごはんを作ってくれる人はもういない。俺の周りに花が咲いて色に溢れることもない。

俺の愛した人は、もう、いない。



ぐっと手を握り締め、今日も毒を作る。単なる作業でしかない毒作り。上の命令をただこなし、△▽を救うために蓄えた知識は誰かを苦しめ、陥れる。こんなことしてる俺を見たら、お前は、怒ってくれるのだろうか。



枯れたはずの涙が溢れた。その涙すら、毒に思えた。







モノクローム
(今更薬を作ったところで、手遅れなのはわかりきったことだけど)