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「疲れた...」

玄関の扉が閉まりきることも確認しないまま、ずかずかと部屋の中へ足を進めた。床に鞄と上着を放り投げ、最近買ったばかりのお気に入りのソファにこの身を投げた。

視線をずらせば日付が変わってしまっている時刻。ため息が漏れてしまうのも致し方ないだろう。

先程放り投げた鞄がはち切れんばかりに詰め込まれた持ち帰りの書類と、シンクに残された洗い物に、溜まった洗濯物。やらなければならないことがあり過ぎて1日が24時間なんてくらいでは到底足りない、と自分の不甲斐なさを八つ当たりしそうになる。

「3時間、くらいかな」

私に与えられそうな睡眠時間を口にして、とりあえずお風呂と思った矢先、玄関の鍵ががちゃがちゃと音を立てた。

「お前、不用心だぞ」
「お帰りなさい、ネジさん」

鍵を閉め忘れたことを怒られていたが、お構い無しに彼の胸に飛び込んだ。

「どうした...っ、凄い隈だな、」

割れ物に触れるような優しい手で顔を包み込まれ、彼の親指が私の目元を擽った。柔らかいその手つきに今すぐにでも眠ってしまいそうになる。

「今が、頑張り時なの」

気丈に笑ってみせると、彼は少し困ったような顔をした。

ちがう、
そんな顔が見たかった訳では無いのに。

「あまり無理をするな、身体に毒だぞ」
「でも、」

言いかけた言葉を止めるかのように彼との距離がなくなった。ふわりと私の頭を撫でる彼の手はまるで泣いている小さな子供をあやすようだった。

「俺の大事な人にあまり無茶させないでやってくれ」
「...善処します」

大事な人、と言われて少しばかり緩んだ口元を隠すように彼の胸に額を押し付けた。

" 大丈夫だ、お前には俺がついている。"

そんな心強い言葉が頭の上から降ってきた。