登場人物は二人だけ


『デイダラくんの瞳の色だから』


「〜〜あーっ!」
「うるせぇ」


あのセリフは反則すぎる。かわいい。いや、綺麗の方が強い。いや、あの喜びようはやっぱりかわいい。…どっちもだ。

あれからポツポツしゃべって、さすがに夜遅いから送れるギリギリのとこまで歩いて送ってった。

別れる最後までずっとお礼言ってきて、『次、いつ会えるかな?』だなんて聞かれて、舞い上がらないわけがない。


「顔がうざい」
「今は何言われても許せるぜ、旦那!うん!」
「死ね」
「いてぇっ!!」


宿の布団で枕を抱いてゴロゴロと転がっていたら旦那に頭を蹴られた。容赦なんて一切ない。あまりの痛さに頭を抱える。


「〜〜っ、!」
「少しは黙れ」
「ひでーぜ、旦那…うん、」


多少半泣きになりながらじっと旦那を見た。相変わらず傀儡の整備をしている。永遠なんかにこだわるからめんどくさいメンテナンスとかしなきゃならないんだ。

天井を向いて、手をグーパーと閉じたり開いたりした。あの時、**の腕を掴んだ感触が忘れられない。


(やけに、細かったんだよなぁ…)


夏なのに長袖の着物を着ていた**。長袖の分を足しても細さが目立っていた。ダイエット、してるわけじゃないっつってたのに。

それに疲れてるように見えた。確かに昔より大人っぽくなって綺麗になってたけど、なんかしんどそうに笑う時とかあった。


(疲れてたのか…?、うん)


専業主婦っつってたし、仕事はしてないんだろうけど、鬼鮫見てたらわかる。飯作ったり洗濯とかもいつも忙しく動いてる。

専業主婦も楽じゃないらしい。


「主婦、なぁ…」
「あ?なんか言ったか?」
「何も言ってないぜ、うん」


ゴソゴソと枕元に置いてあるポーチの中を漁った。冷たく触れた薄い缶を取り出して、慎重にフタを開ける。
開けた瞬間なんかよくわからないけどいい匂いが花をくすぐった気がした。
缶を傾けるとコツコツ、と紙の角が缶の壁にぶつかる。

その中の一通を手に取った。滑らかな紙感触が手に馴染む。決して多くはない手紙。だからこそ一枚一枚が大切だった。

開いた手紙は春先に届いた一番お気に入りの手紙。無意識のうちに何度も『会いたい』の文字を目で追う。


(…会いたいな、うん、)


つい数刻前に別れたばっかなのにもう会いたい。もっと近くにいたい。触れたい。抱きしめたい。キスしたい。それ以上だって。


(だめだだめだ、あいつには旦那がいて、…)


頭の隅で、旦那って単語が頭に引っかかった。家族の話をした**が、忘れられなくて。


『だ…旦那とは、どうなんだ、?…うん、』
『……結婚って、難しいからなぁ…』
『でも、まぁ、**なら、その…いい嫁さんなんだろうな、うん』
『、ううん…そんなことないよ…、私なんて、全然だよ』


昔から、自己犠牲が強い方だと思ってた。そんなことない、私なんて、と言いながら戸惑いがちに笑う姿は印象的だった。

その一瞬だけ、いつになく悲しそうに笑うから、目を離せなかった。


『だっ、大丈夫だ!**はいい奴だし、料理だってできるし、子どもにも優しくて、その、…なにより、綺麗、だし、、うん、』
『…ふふ、ありがとう、デイダラくん…。デイダラくんが旦那さんだったら、すごく楽しそうな家庭になるね』
『お、おう!もちろんだ!うん!し、死ぬほど笑わせてやるからな!うん!』
『いいなぁ、…ステキだね、そんな家庭』
『**たちよりも、ったくさん笑う家庭になるからな、うん、』


その瞬間、すげー悲しそうな顔して、でもあれは一瞬でいつも通りの顔に戻って、『そうだね』と呟いていた。あの顔は、何を意味してたのだろうか。
家庭がうまくいってないのか、おいらが羨ましかったのか、


(…わかんねぇなぁ、うん)


手紙を胸に置いた。悲しそうな顔をする**が忘れられない。でもまぁ、家庭を持つって大変だろうし、今、**は頑張りどきなのかもしれない。


(…がんばれ、)


ズキズキと心臓が悲鳴をあげる。綺麗で思い通りの現実だけだったらいいのに。そうすれば、楽しい思い出だけ思い返して、こんなに心臓が苦しくならないのに。
**と、ずっと一緒に笑ってられるのに。


(オイラが、**を断ち切るのを、がんばらねぇとな、うん、)


ぎゅうぎゅうと締められる心臓。胸から、クシャ、と紙が寄れる音がした。


「やべっ、!」
「じゃあな、俺は寝る。明日寝過ごすなよ」
「ちょっ、なんで電気切るんだよ旦那!うん!」
「うるせぇ早く寝ろ」


パタンと閉じられた扉。胸元の手紙を抑えて慌てて立ち上がった。電気をつけて、手紙を見ると、結構な具合でシワが寄ってる。


「〜〜っ、はぁ…」


よりによって一番思い入れのある手紙。寄ったシワを優しくさすりながら伸ばす。とはいえ一度ついたシワは元には戻らず。

諦めてまた手紙を折って缶のなかに仕舞った。


(……寝よ)


時刻は午前4時。外からわずかに光が差し込んでくる。電気を消して、布団の上に転がった。

頭の中は、また夜に**に会えるってことでいっぱいいっぱいだった。



登場人物は二人だけ
(もう、会いたい)
太陽なんて、二度と昇って来なければいいのに。