白々しく生きたひと


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**へ

来週、里に行く!!
夕方ぐらいに着くから、夜とか会えねーか?


デイダラ


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そんな短いお手紙が届いたのは、朝ごはんや洗濯を終え、夏の日差しに虐められながらも精一杯反抗していたときだった。


(デイダラ君……)


三年前に彼に告白されたことは、鮮明に覚えている。あの川の麓で何があって、何を言ったのかも、全部。

あの日のことを思い出したら無意識に手に力がこもっていた。少し寄れた手紙の皺を慌てて伸ばす。


(…会いたい、)


会いたい気持ちと、会いたくないと言う気持ち。相反する思いがぐちゃぐちゃと絵の具みたいに混ざり合う。
会いたくて仕方ないのに、会うことに恐怖とか、背徳感とか、そんなものを感じてしまう。もう戻れなくなるよ、と自分に言い聞かせていた。


(……デイダラくん、)


会いたいって言ってくれたら、素直に甘えれるのに。どうして言ってくれないんだろう。

消された文字を指先で辿った。ここにあった四文字を求めているのに。


(未練がましい、)


デイダラくんのことを思ってしまったから、きっとバチが当たってしまったんだろう。


「いたっ、!」


ほんの少し動いただけなのに、ズキズキと肩が痛んだ。その歪があらゆるところに伝わって、一時的に消えたはずの身体中の痛みが再発する。


(こんなわたし、見られたくない、)


ゆっくりと身体をさすった。落ち着いて、治って、痛いのは嫌なの。願うように撫でた。そんなので治るわけがないのは知っているけど。


(たすけて、デイダラくん…)


デイダラ君なら、こんな時、大丈夫だって、抱きしめてくれるのかな。

袖口から見えた青黒く変色した痕は、もう見飽きてしまった。


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デイダラ君へ

明日の夕方か夜かな?時間が合えばいいね。できるだけ時間作るようにするね。

場所は、あの川原でいいかな?夜の11時に、行ける日は、あそこで待ってるね。

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わかってる、もう自分が手遅れなことくらい。全部全部、手遅れなことくらい。

書いた手紙を丁寧に折りたたんだ。一折一折、願いを込めて。
届いて欲しい思いと、届かないで欲しい現実が苦しくて、息すらしたくない。狭間で揺れる中途半端な自分が一番悪いことはわかっているけど。


「ゲホッ、ゲホッ…!」


もしかしたら、デイダラ君に会ったら、本当に全て見透かされてしまうかもしれない。それだけは避けなきゃいけない。デイダラ君に知られるわけには、いかない。

自分で選んだ道なんだ、今更私が何を言う。


『私を、連れ去って、』


あの時、声を出さなかったのは自分じゃないか。家族に迷惑かけるとか、自分が犯罪者になるとか、そんなどうでもいい綺麗事を並べて自分を守ったのは自分じゃないか。


(苦しい、)


どうしたって、あの時には戻れないんだ。何を求めても、無駄なんだ。

夏の生ぬるい風が頬をくすぐった。なんの飾りもないシンプルな手紙がカサカサと音を立てる。
好きの想いだけじゃ、何も変わらないし、変われない。




白々しく生きたひと
(字が、震えてる?…気のせいか、うん)