この雨が止んだら恋をする


雨が降る中、**を抱えて向かったのは、**の両親が住む家。
呼び鈴も鳴らさずに家に入れば、母親らしき人物の驚いたような表情のすぐ後に、変わり果てた**を見て絶望する顔。


「…**、?」


信じられないといった顔で立ち尽くす母親。そしてその後にどうした、と言った感じで出てきたのは、きっと**の親父。


「っ、**!?」


慌てて**に駆け寄ってオイラからぶんどるように連れ去っていった。脈を測ったり、何度も何度も**の名前を呼ぶ両親の声が耳にこびりついた。


「お願い**っ、返事をして…!」
「なぜ**を殺したんだ!!!」


人殺し、犯罪者、お前なんか死んでしまえ、
言われ慣れた言葉のはずなのに、ぐさりぐさりと心臓をえぐられるのはなんでだ。

バキッ、と頬に激しい痛みが走る。殴られたと理解するのに時間はかからなかった。


「デイダラだな!!なぜノコノコと帰ってきた!!なぜ**を殺した!!答えろ!!」


馬乗りされ、何度も顔を殴られる。あの時の夫はこんな気分だったのだろうか。


そんなとき、ガラリと開いた扉。そこにはいびつな形の同じ装束を着た旦那がいた。


「誰だお前!!」
「…何してんだよ、デイダラ」
「……」
「はぁ……隠す子も子なら、気づかねぇ親も大概だな」


そう言って親父を退かし、無理やりオイラを引っ張って立たせた。殴られた顔と、ずっと痛い心臓で頭がおかしくなりそうだった。


「帰るぞ」
「っなぜ**だったんだ、幸せに生きてる**をなんで狙ったんだ…!!」


幸せに生きてる**

あいつにとっての幸せってなんだったんだろうか。最後に言った、幸せは何を意味して、何を思っていたのか。どれだけ考えても分からなかった。


「……幸せにするために、殺した」


枯れたと思った涙が、一筋溢れた。目を見開く両親に背を向ける最後に、穏やかに眠る**を見つめた。

**は、笑っていた。



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歩いてるかすらわからない足取りで里を出て行く。あちこちでは多くの死体のせいで騒がしいから、オイラたちに気付くやつはいなかった。

ただ一人の少女を除いて。


「でいだらくん?」


呼ばれた声に慌てて振り向いた。たどたどしい声で、首をかしげる少女。腰くらいの身長で、どこか**に似ているような雰囲気。
にこにこと楽しそうな笑顔で微笑む姿に呆気にとられる。


「**お姉ちゃんが言ってた通りだ!青い目に、金色!」


小さな人差し指をブンブンと差しながら太陽みたいに笑う少女。しかし仕草よりも少女の言った単語に耳が反応した。


「**、お姉ちゃん…?」
「うん、やさしいお姉ちゃんなの!遊んでくれるの!」


あやとりとね、まりつきとね、羽子板とね、
指を折り曲げて一つ一つ数えていく少女。子供が好きって言ってたもんな、**。そんなあいつに、将来いい奥さんになる、照れながらそう言ったら、あいつも照れてたっけ。

ひとつひとつ言葉に**を思い出してしまう。苦しい、泣きたくなるのに、どれもあまりに綺麗だから、それがまた苦しい。


「お姉ちゃんがね、でいだらくんといるだけで、しあわせって、そう言ってたの!」
「っは、?」
「お姉ちゃんが嬉しそうだったから、私も嬉しいの!だから、でいだらくんに会ったら、お姉ちゃんを幸せにしてくれて、ありがとうって言おうって決めてたんだ!」


ありがとう!でいだらくん!

舌ったらずな言葉にまた涙がこぼれた。後悔と、無力感と、絶望しかなかったのに。ただいるだけで幸せだとか、馬鹿じゃねぇの。全然欲がねぇの、あいつ。


「でいだらくん、泣いてるの…、?」
「いや、…雨、だな」
「雨、止んだよ?」
「うん、今、止んだ」


大好きな**。守れなくてごめん、助けてやれなくてごめん。もっと幸せにしてやりたかった。一緒に笑っていたかった。

出会ってくれてありがとう。好きになってくれてありがとう。幸せだって言ってくれて、ありがとう。



この雨が止んだら恋をする
お前を好きになれて、幸せだ。