旦那が**の家を探してくれている間、オイラは川沿いに向かっていた。掻き分けるように木々の間を通り、早く、早く、と心が体を急かす。
**は傷ついてる。助けないと。
まず始めに謝ろう。勝手なことしてごめん。今からも勝手なことする。許さなくていい、怒ってくれていい、だからオイラと逃げて欲しい。
そう言ったら、きっと嫌だと口で言いながら、泣くんだろうな。本当に嫌かどうかはわからないから、オイラも戸惑うんだ。
それから、すぐに大好きって言おう。嫌いだなんて馬鹿げた言葉を言ったから、すぐに訂正しよう。
そんなことない。大好きだ。ずっとずっと大好きだって。
木々を分けていくうちに、川の流れが耳に入った。もうすぐだ、と思いながらどんどん足を速めていく。
もうすぐ、**に会える。大好きな、大切な、**に。
会えることが嬉し過ぎて、気配なんて何一つ感じていなかった。
ヒュン、と目の前を横切るクナイ。慌てて防御態勢をとったら、5人くらいの男が川沿いに立っていた。
「来たぞ!!デイダラだ!!」
「やっぱり来たじゃないか、この嘘つき女め」
昔オイラも着ていた里の忍服を身にまとった男たちが、川沿いにいた。男の足と下には、会いたくて仕方なかった変わり果てた思い人が。
「…**、?」
「やっちまえ!仕留めたやつが昇格だ!!」
「死ねぇぇっ!!」
血の中に横たわる**。息をしているかすらわからない。乱れた髪の毛でその顔は見えない。
オイラに斬りかかる男たち。ただ手だけが無意識に粘土を放っていた。
「…喝」
独り言のように呟かれた言葉とともにあたりで爆発が起きる。衝撃で体が揺らいだが、すぐさま**の元へと駆け寄った。
生き残っていた男たちにクナイを突き刺し、息の根を止める。思ったよりも簡単にことが済んだことに、心のどこかでホッとした。
「…**、?」
「…で、だら、く…」
「ッ、**…ッ!!」
血が滲む手を慌てて服で拭い、すぐさま**を抱えた。その腹にはクナイが真っ直ぐ突き刺さっており、おびただしい血を流していた。
虚ろな視線が絡み合う。オイラを見た**が、真っ青な顔で微笑んでいるのがわかった。
「ばしょ、移動、しよ…?」
あまりににこやかに言うもんだから、返事をする前に体が動いた。**を姫抱きにし、死体が転がる下流からどんどんと上流に遡っていく。途中、辺りを濡らす雨がポタポタと降り始めた。
「でいだらくん、ネックレス、ごめんね、落としちゃった、」
「っ、拾っておいた、ここにある、」
ネックレスを取り出して**に握らせた。そしたら、穏やかに安心したように笑う**。
「ありがとう」
微かな声より、雨の音の方が強かった。
血の匂いが消えた頃、雨がどんどん強くなって、**の体をどんどんと冷やしていった。それが嫌で嫌で仕方なくて、なんとかして温めようとぎゅうぎゅうと**を強く抱きしめた。
「死ぬな、生きろよ、**…っ!死んじゃダメだ、!」
「デイダラくん、わたしね、しあわせになろっていわれてね、うれしかった、」
**の頬を濡らす水滴は雨か、オイラの涙が、わからなかったけど、無駄だと思いながら何度もそれを拭った。
「っ、オイラが**を幸せにしてやる、!!だから生きろ!!」
微かになっていく呼吸。冷たくなる体。流れる血液だけがやけに生温かった。
「デイダラくん、」
「もう喋るな、**…ッ」
目が水で滲んでピントが合わない。ぼやける視界の中、必死に**を抱きしめた。
「すきだよ」
なんでこんな時に言うんだ。なんでそんな嬉しそうなんだ。
初めての返事が、今だなんて、残酷すぎるだろ。
「俺も好きだ、**が大好きだ、
頼む、生きてくれ、死ぬなっ、**!!」
「わたし、でいだらくんを、すきになって…よかった、」
「まだ好きでいろよ…っ!これからずっと、オイラの隣にいてくれよ!!」
ゆっくり閉じていく瞳。起きろ、いくな、そう言いながら唇にかぶりついた。
「オイラを置いていくな、**、頼むからッ、」
「でいだら、くん…」
「〜〜っ、なんで笑うんだよ、**!!」
「もういっか、い…きす、して…?」
ボロボロと自身の頬を流れる涙を拭わずに、冷たい唇に何度もキスを落とした。生きろ、行くな、と懇願するオイラに微笑む**。
「で、だら、くん…」
「**ッ、**っ、!!」
綺麗に笑う**。
目を見張るほど綺麗で、息が詰まって、どうしようもなく苦しくなった。
聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声が耳に届く。目を瞑った**が、わずかに口を動かした。
ーーわたし、しあわせ、だよ
雨と涙がぐちゃぐちゃに混ざり合って、ボロボロと顔を伝って**に雫が落ちていった。
何も動かなくなった**。
違う、違う、違うんだ。
「オイラはっ、こんな幸せ、望んでないんだ…ッ!!!」
冷え切った体を抱きしめた。雨は一向に止みそうにない。
**の手のひらから落ちたネックレスが、コロコロと転がり、川の中へと沈んでいった。
雨のち初恋いつだって、初恋は実らない。