ずっと君に救われたかった


全身が痛い。苦しい。息がし辛い。肺を殴られたからかな。

デイダラくんに、会いたい。


だめだな、私。最後に決別しようと決めたのに。嫌いの言葉で全て終わらせるはずだったのに。やっぱりこんな時に、デイダラくんを頼ってしまう。

一緒に逃げたいと叫んでいたら、何か変わってたのかな。デイダラくんのそばにいたいと抱きつけば、何か変わってたのかな。


無理やり引きちぎられたネックレスが皮膚に傷をつけた痕が一番痛い。でもこれは私が悪い。あの人から、デイダラくんにもらったネックレスを守ることができなかった、私のせい。だからこれはその罰だ。

ごめんなさいデイダラくん。まず始めに謝ろう。ネックレス、落としちゃった。そう言ったら信じてくれるかな。

ゲホ、ゲホ、と重い咳で喉に血の味を感じた。もうちょっと、生きれると思ってたんだけどな。息には聞こえないヒューヒューといった音が喉元を通り過ぎる。
時折血が喉に詰まって吐き出した。お腹も殴られたから、胃からも血が出てるのかな。


本当はもう会わない予定だった。明日旅立つデイダラくんのことを考えたら、もう会わない方がいいと思った。

それでも、最後には頼ってしまう。なんて弱い私なんだ。情けない。最後の言葉が「嫌いだ」なんて、私らしくていいじゃないか。
なのに、川沿いに向かう足が止まらない。

体が辛くて仕方がない。重い。痛い。苦しい。止まりたい。


(会いたい…)


進むな、と身体に指令を出しても、身体は意思とは無関係に動いた。まだ夕方なのに、デイダラくんがいるはずないのに、川沿いに向かう私は本当にどうしようもない。

彼のいない川沿いに、価値なんてないのに。


心拍数が極限まで上昇している。リズムの取れていない呼吸も酸素を取り込めているのか不思議で仕方ないほど。

がんばって、私の体。最後だから、お願い。これで、最後にするから。


木を伝いながら体を引きずるようにたどり着いた川沿いは、いつもと変わらなかった。

ほぼ四つん這いで進む先に、透度の高い川が生き生きと流れていた。ふと手元を見たら取り残された線香花火が一本転がっていて、昨日の情景を思い出させた。

価値がないなんて嘘だ、ここには、思い出が溢れんばかりに詰まっているじゃないか。


初めて会ったあの日は、お互い怪訝な顔をしてたっけ。


『誰だよ、うん』
『…**、です、』
『…オイラはデイダラだ』


でもなぜかすぐに打ち解けたよね。なんでだろう、デイダラくんには安心感があったからかな。


『明日も、ここ、来るか?…うん、』
『デイダラくんが、…来てくれるなら、』
『…わかった、約束だ、うん』


そう言って次の日早速遅刻して来たよね。30分待たされたけど、かなりパニックになりながらすぐに謝って来たデイダラくんをみて、おもわず笑ったよね。

それから、雨の日に、一緒に一本の傘に入ったよね。


『もっと寄れよ、濡れるだろ、うん』
『デイダラくんこそ濡れちゃうよ?』
『オイラはいいんだよ、うん』
『だめだよ』
『いいんだって』
『だめ』


何回も同じやりとりしてたら、気づいたら雨が止んでたっけ。でもお互い気づかなくて、ずっと言い合いしてたね。
あがったな、なんて目を細めながら、雨で濡れた髪をかきあげるあの姿に、心臓がうるさくなったのは、ずっと秘密なの。

それから、一緒に流れ星を見たね。流星群の日でもなんでもない普通の日、たまたま同じタイミングで空を見たら、キラリと光った流れ星に感動したね。


『見たか!?うん!!』
『見たよ!流れ星!』
『お願い事できたか?』
『流石にできなかったかな…』
『…オイラも』


あまりにしょげるデイダラくんに、笑いが止まらなかったのを覚えてるよ。それでプンプン怒ってたね、デイダラくん。

里で有名なよもぎ餅を二人で並んで食べたね。喉を詰まらせたデイダラくんが川の水を飲んだ時は少し驚いたよ。


『デイダラくん大丈夫!?』
『んグッ…プハー、死ぬかと思ったぜ、うん…』
『川の水…だけど、大丈夫…、?』
『大丈夫だって、ここの水綺麗だからな、うん』


そう言って飲ませてくれた水は、冷たくて美味しかった。でも、デイダラくんの手で掬ったお水を飲むのが緊張して、うまく飲めなかったんだよ。

それから、夏の終わる日、花火をしたね。あの日は、どんなに時が過ぎても忘れられない思い出だよ。
苦しくて、辛くて、泣きたくて、どうしようもない自分が嫌になった。引き止めたいのに、ついていきたいのに、言葉が出てこない自分が、嫌いだった。

私も好き、その言葉さえ出てこなかった。


今なら言える。
好き、大好きだよ、デイダラくん。本当は、デイダラくんにそばで幸せにして欲しかったんだよ。ずっと笑ってたかった。いつからこうなったんだろうね。


「デイダラくん、…」


呟いた言葉と同時に、体に何かが突き刺さった。



ずっと君に救われたかった
吹き出る赤は、好きな青とは正反対の色をしていた。