星屑で編んだ光


「こんばんは、デイダラくん」
「**、」


昨日あんなことがあったけど、何一つ変わらずいつも通りの**。綺麗に微笑むその姿に胸が痛くなった。

カラッと晴れた昼間だったから夜も雲ひとつなく儚く光る星を見てとれた。きれいな満月がやけに視界に入ってきて、月が**を攫ってしまいそうな感覚に陥る。


「今日、花火、持ってきたよ」
「…おう」
「やる?」
「…もちろんだ、うん」


三年前の夏の日のように、ろうそくに火をつけてオイラに花火を手渡す**。
あの日に戻ったように無邪気に笑うもんだから、ごちゃごちゃ考えてたのがいつしか花火の煙に連れていかれた。


「見て!いっぱい色が変わるの!」
「うお!すげぇ!うん!」

「そっちの火、くれよ、うん」
「いいよ、はい」

「デイダラくん、それ持っちゃダメなやつだよ?」
「大丈夫だって、見てろよ、**」
「っわ、きれい、!」

「**、それ絶対オイラに向けんなよ?絶対だからな?うん」
「え?フリ?」
「ちげぇって!!」


パァン!
煙を出しながら上空に舞う小さな打ち上げ花火。どうあってもどでかい花火に敵うわけもなく、「小さいね」とクスクス笑う**につられて「そうだな、うん」と笑った。


花火は好きだ。オイラの芸術みたいに一瞬でその魅力を最大限に引き出すから。この世に永遠なんてないから、だからこそたった一瞬でも全力で光輝けばいい。


「綺麗なものってさ」
「ん?」
「短い時間の中で全力で美しくいようとするから、みんな魅了されるんだろうね」
「…それ、オイラも、同じこと思ってた」
「ほんと?じゃあ以心伝心だね」
「ははっ、そうだな、うん」


芸術は一瞬であることが一番美しい。そんなことを**と共有できたことに思わずにやけてしまう。限られた時間の中で、精一杯綺麗になればいいんだ。


「はい、最後の花火」
「あとは線香花火だけか?」
「うん、6本だけ、だけどね」


何気ないふりをしながら「そうかよ、うん」なんて言いながら花火をもらった。最初に、**が綺麗だと言ってた青く光る花火だった。
それの端っこを持ってろうそくに近づける。火に触れた先端の紙の部分がみるみるうちに花火に熱を伝えていった。

川の流れる音、虫が鳴く音、そして花火が激しく燃える音。本当にこの瞬間が、三年前に戻ったみたいで感覚が麻痺する。


「やっぱ、綺麗だな、うん」
「…そうだね、ほんと、…すごく綺麗」


星空の下で花火が一番美しく感じた。どんな一等星よりも、満月よりも、青く光る二つの花火が何よりも美しかった。

美しいからこそ、すぐに終わりを迎えてしまう。


「…消えちゃったね」
「そうだな、うん」


燃え尽きた光は儚く消え、白い煙が空気の中に溶けていった。


「ゲホッ、ゲホッ、」
「大丈夫か?」
「う、んっ、ゲホ…大丈夫だよ、ちょっと煙を吸っちゃっただけ、」


花火の燃えた跡の熱を冷ますように川の中にその先端をつけた。ジュウ…と二回聞こえたのを確認してからそれをバケツに放り込んだ。


「はぁーっ、終わったねぇ〜」
「まだ残ってるぜ、うん」
「…そうだね」


今年は線香花火は少ないらしい。たった6本並んだ中の一本に手を伸ばした。
あの時みたいにドキドキと心臓が煩くなり始めた。でもあの時とは、緊張の度合いは全く違う。


「…やる気、満々だね」
「やるか、**」
「…ふふ」


いたずらっぽく笑ってはオイラ同様一本の花火を手に取った**。あまりの緊張と夏の湿気に息が苦しくなる。
額に流れた汗を拭いながら、**が座る横に並んで腰を下ろした。


ーールールはあの時と同じね?
ーーおう


本当に、綺麗に笑うようになった。普段は大人っぽく振る舞うくせに、オイラの前じゃ無邪気に笑うあの少女がこんなに綺麗になってるなんて、時の流れはある意味残酷だ。

抑えきれないほどの**への思いがじわじわとオイラを苦しめる。


「火、ついたか?」
「……うん、ついた」


パチ、パチ、とわずかに光を散りばめて水面に吸い込まれている火の粉がひどく綺麗だった。徐々に強くなっていく光。

ちら、と横を見れば火の光が**の顔を照らす。何度見てもきっとこの光景だけは忘れられないと思うほど、綺麗で美しかった。

四方八方に飛んだ火の粉が水面に引き寄せられる。


「あん時も、こんな感じだったよな、うん」
「夏が、終わる日だったね」


いつしか火の粉も落ち着き、赤い火の玉が花火の先っぽにぶら下がる。ほんの少し手が揺れただけで大きく揺れる火の玉。

ジ、ジ、と最後に輝こうとした火の粉が何個か瞬いた。


「あ」
「…私の、勝ち」
「ちぇ、」


水が一滴落ちるように川へと吸い込まれていったオイラの火の玉。そしてそのすぐ後に**の火の玉が後を追うように沈んでいった。


「私も、落ちちゃった」
「質問はなんだよ、うん」
「せっかちだね。…うーん、それじゃあ、」


わずかに口を開いた**。どんな質問が来るのか想像が全くできなかった。形のいい唇がゆっくりと動く。声が届くまで、耳を澄ませて**を見つめた。



「……三年前に好きだった人のこと、今でも好き?」
「っ、」



**は、ずるい。

オイラが誰を好きなのか知ってるくせに。その気持ちが変わってないことも、むしろ想いが膨らんでることも、全部わかってるくせに、なんでオイラに言わせようとするんだ。

言葉が詰まる。息が苦しくて、心拍数が上がった。それを知って、**はどうするんだ。
なにを思って、オイラになにをしてくれるんだ?


「…好きだ」
「、そっか」


悔しかったから、**に向かって、**を思ってそう言葉にした。
それなのに知らないふりをしてオイラに背を向けて、表情を作ってからオイラを見るんだ。

いつも通りの優しく微笑むその表情を読み解くことなんてできなかった。
なにを考えているのか、わからないまま。

わずかに期待した自分が情けなくて恥ずかしい。ガシガシと頭を掻いて、水面を見つめた。


「次、しよっか」
「…おう」


三年越しの告白も、返事はなかった。




星屑で編んだ光
それでも、何年たっても何回だって。