▽卑怯じゃありません [4/4]


放課後になり、私は部活に入ってないから(と真紀が運良く言っていた)掃除が終わり次第直ぐに帰ると決めていた。
手に持っていたモップを掃除ロッカーの中に入れ、鞄を持って玄関へと向かう。
今日は暇だし何処に行こうか。
そう考えながら靴を履き、歩いていると昇降口の側で、何やらもめている声が聞こえた。
気になって少し顔を覗かせば、園原杏里と、矢霧誠二がいた。

私の感が正しければ、多分張間美香のことだろう。

そして少し視線を上げると、紀田君と竜ヶ峰君が居た。
何となく見たことがあるシーン。
少し頭を捻ってよくよく考えてみると、このシーンは杏里ちゃんが美香ちゃんのことで矢霧君に聞いているところを、紀田君と竜ヶ峰君が発見する所だ。
懐かしいなぁ、と思いながらもう一度竜ヶ峰君達の方に視線を向ける。
すると一瞬竜ヶ峰君と目が合ったと思ったが、気のせいだろうと思い、私はその場を去った。
下手に巻き込まれたくないからね。
勿論しっかりとあの場面は目に焼き付けた。
生で見るのは貴重だからね。



♂♀



とは言ったものの、本当何処に行こうか。
ぶっちゃけ私は池袋のことを全て覚えた訳じゃない。道は勿論、何処に何があるかさえ分からない。
メイトにだって真紀がいなけりゃ辿り着けなかったし、家だって…まぁ、流石に家の場所は覚えたが。
矢張り“この世界”に一時的でも住むとなれば、この土地の地形は最低限覚えておくべきだろう。

なので今日も私は池袋を探検中。
もしもの場合があれば真紀に電話してヘルプしてもらおう。

人混みが多い中、私はふらふらと宛先がないまま歩く。
右を見、左を見、上を見上げ高い建物を見れば、自分が居た前の世界とは何ら変わらない。

池袋に行ったことがなくても、テレビとかでよく見るから違いは直ぐに分かる。
前の世界と違うところと言っても、最低此処が二次元であり、二次元キャラが居るということだろう。

ぼーっと歩いていて数分後、視界に黒いファーコートを着た人が見えた。
直ぐに人混みへと消えて行ったからよく見えなかったけど、あれは多分折原さんだろう。
……多分だが。
まぁ、私には関係ないことだ。

そろそろ帰ろうと思った瞬間、本日二度目、路地裏から女性の怒鳴り声が聞こえた。
そろりとバレないように路地を入っていってみると、案の定園原杏里がケバい来良の制服を着た女子生徒に囲まれていた。
その光景を見て私はフリーズする。

この場面は私にとって実際目には入れたくなかった。
何でかって、だって、こんな光景を見たら助けるか助けないかと迷うからだ。
どうせこの後に竜ヶ峰君が来るからいいんだけど、本当に私はこのまま去っていいのかって思う。
いや、いいんだけど。
いいんだけども、何処か心の奥底で迷う自分がいる。
あぁ、だから嫌だったのに。

内心慌てふためいている私に、後ろから私の名前を呼ばれ、私はビクッと肩を上げた。
恐る恐る振り向けば、そこには竜ヶ峰君がいた。
その姿を見て、私はタイムオーバーという文字が頭の中に映し出された。



「りゅっ、竜ヶ峰君…」


「波崎先輩、これ…いじめですよね」


「えっ、あ…うん。…だと思うよ……多分」



どうしよう。
諸に竜ヶ峰君と出会ってしまった。
本当どうしよう。
下手に関わりすぎるのは嫌だし…、でもだからって今直ぐ此処を立ち去るのは可笑しいだろう。
絶対有り得ない、酷い先輩って思われる。



「……波崎先輩、僕に良い考えがあります」


「…………どんな?」


「彼女、僕の知り合いの園原さんって言うんですけど、その園原さんに虐めに気付かなかったフリをして笑顔で挨拶するんです。…どうです?」



「…何とまぁ、可愛らしい発想なことで」



呆れ半分、そう言った。
本当、私が知っている帝人君そのものだ。
その発想が真面目な顔で言うものだから少し笑える。
いや、流石に竜ヶ峰君の前では笑えないけど。
笑ったら絶対竜ヶ峰君泣くよ。
何て思っていた矢先、私達の上から声が聞こえた。



「虐め?やめさせに行くつもりなんだ?偉いね」



ふと肩に違和感を感じたと思ったら後ろには折原さんが立っていた。
ニコニコといつも通りの笑顔をしており、私と竜ヶ峰君を見ている。
そして折原さんは竜ヶ峰君の肩を掴みぐいぐいと前に押し出した。
私はと言うと放置。
折原さんに待ってて、と言われたのだ。
実は言うとかなり有り難い。
けど早く帰らせてほしい。



「ちょっと!?」



急なことに竜ヶ峰君は声を出し、その声にケバい来良の子達が気付き此方にすぐさま顔を向けた。
勿論杏里ちゃんもだ。
私は折原さんの後ろをただ立ち尽くして傍観。
ただその光景を目に入れるだけ。
ふと、折原さんが此方に視線を向けた。
が、また帝人君達の方に視線を戻す。

……それは帰らないの?と言っている意味なのだろうか。
それともちゃんとそこにいるね、という確認か。
うー…ん、わからない。
もし帰れよ的な意味なのなら帰ろうか。
あ、いやでもさっき待っててって言われたし…。
雰囲気的にあれだけど。
というか絶対私ハブだよ。
ぼっち確定だよ。
これ帰っていいよね?

自問自答をしながら私は最終的に帰る選択をする。
私が此処に居ても意味はない。
そう確実に思ったからだ。
少しずつ後ろへと足を歩める。
幸いケバい来良達の子達と杏里ちゃんと帝人君にはバレてない。
折原さんには多分バレてるだろう。
………多分。

普通はこういう場合は助けれなくても傍観するか頑張って助けるかだと思う。
けど私は不本意ながらもこの先の未来を少なからず知っている。
だから逃げる。
否、逃げるは少し言葉的に悪いだろう。
逃げるというより杏里ちゃんが助かるのはもうわかっていることだからその後の未来に関わらないようにする。
まぁ、あまり意味は変わってはないだろうが兎に角私は面倒事は一切御免だ。
そう思いながら私はその場を静かに立ち去った。



卑怯じゃありません

どうせだからスーパーに寄って買い物していこうかな。




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