▽理由?知りませんよ [2/4]


やぁ、と声をかけてきた人は、見た目からしてで優しい青年。
だが、ニコニコとしているその笑みにはただ貼り付けただけの笑顔にしか見えず、それと同時にリアルで会えての嬉しさと比例するかのように、恐怖さえ湧いてくる。
でも私には関係ない。
そう思えるのは私はこの世界のイレギュラーな存在であり、彼が何億ともある人数の中から、こんな端から見ると一般人にしか見えない私を(事実一般人なのだが)気にかけるわけない。
寧ろ、私のことなど直ぐ忘れるだろう。
だから彼に会えても特に私には何の意味もない。
それは彼にとってもそうなることだろう。
紀田君に挨拶をしてきた目の前の青年に紀田君はぎこちなくどうも、と言った。

そんな紀田君を見て私はやっぱり苦手なんだな、と表情には出さず内心思った。
ちらっと紀田君と帝人君を横目で見てから青年の方を見るとバチっと目が合った。
まさか目が合うとは思わなかったので、思わず直ぐ目を逸らそうとすると、にこっと微笑まれたので、一応礼儀として軽く解釈した。
そんな私を見てから青年は紀田君の方を見て、口を開いた。



「その制服、来良学園のだねぇ。あそこに入れたんだ。今日入学式?おめでとう」


「え、ええ。御陰様で」



青年のあまり感情の入ってない言葉に紀田君は冷や汗を垂らしながら、強張った顔で話す。
そんな彼を目の前にしながらも、青年はただ笑みを浮かべながら「俺は何もしてないよ」と言った。



「珍しいっすね、池袋にいるなんて…」


「あぁ、ちょっと友達と会う予定があってね。そっちの子は?」



青年が最初に帝人君の方に目を向け、次に私の方に向けた。
また微笑まれたが、私は何もせず、ただ青年を見つめただけだった。



「あ、こいつはただの友達です。んで、こっちは俺の先輩で…」


「俺は折原臨也。よろしく」



あえて帝人君と私の名前を出さないように紹介した紀田君だったが、そうはさせまいと青年は、折原臨也は自身の名前を口にした。
その名前を聞いて私はただただ本当に此処は二次元の世界なんだな、と改めて知らされた。
この場面は、何回も本で読んだしアニメでも見た。
だからこそ、やっと此処がデュラララ!!の世界だということが実感出来る。
嬉しいような、悲しいような、寂しいような、それとも、嬉しさを通り越しての興奮なのか、何とも言えない感情が溢れ出した。
そんな私を余所に、帝人君は自分の名前をフルネームで名乗り、それに折原さんはエアコンみたいな名前だね、と純粋な感情を述べた。
次は私、とでも言いたげに折原さんは私に顔を向ける。



「えっと…私は、」


「あぁ、大丈夫。俺君のこと知ってるから。…波崎芭菜さん、でしょ?」



その言葉に私だけではなく、帝人君も紀田君も固まった。
私はただ目をぱちくりさせて目を瞬かせた。
もしかして“私”はこの人と知り合いだったのだろうか。
まさかの信者でしたー、なんてオチだったりするのだろうか。
いや、でも言い方的にただ相手が一方的に知ってるという言い方だったから“私”はきっと彼とは無関係だったのだろう。
……多分。



「えっと、何故私の名前を」


「あぁ、君今日朝交通事故でトラックに轢かれたんでしょ?それで重傷な君は病気に運ばれた。なのに君は今此処でこうして街中を歩いている。…不思議だと思わない?あ、この情報は街中に流れているわけじゃないから安心していいよ。ただ俺の知り合いの医者が君を探していたから俺が知っていただけさ」



マシンガントークな彼にはぁ、と呟いた。
医者と言うのは多分新羅君ではない医者だろう。
私なんかに新羅君が心配するわけないし、創作もしたりしないと思う。

それと、医者から聞いたと言うのは嘘だろう。
私が消えたことによって病院で騒いでたとこをちょっと小耳に挟んだだけだと思う。
と言うことは、だ。
私は今『重傷だった患者が消えた』と病院の人達に騒がれて探されているのだろうか。
それは困ったことだ。
さり気なく今の私の状況を語ってくれた折原さんに心の中で感謝を述べた。



「じゃ、そろそろ待ち合わせの時間だから」



それだけ言って、早足に去って行った。
と思ったら、私の方に近づき、私にしか聞こえないように耳に顔を近づけ「今度教えてね」とだけ言い残して今度こそじゃあね、と言い消えていった。

今度教えてね、とはきっと私が何故病院に跡形もなく消えたかだろう。
そんなの私が訊きたい。
ぽかんとした状態で去って行った彼の背中を見送っていると、紀田君が背を伸ばして、肩で大きく呼吸をした。
そしてその体制のまま此方に目だけを向けてきた。



「…芭菜さん。今あいつに何か言われましたよね?……何て言われました?」



何時ものあのはちゃけた雰囲気はなく、少し焦っているような、何かに怯えているような、そんな目で此方を見つめてきた。
じっと見てくる紀田君の目は絶対言え、と語っているように感じる。
私は特に隠すことではないだろうと思い、さっき言われたことを口にした。
すると紀田君は、がしっと両肩を掴んでくる。



「芭菜さん。あいつとは、折原臨也とはもう関わったら駄目です。あいつは、危ない奴なんだ!芭菜さん、お願いだからもう臨也さんとは会わないでください…!」



いつになく真面目な顔で語る彼は、今朝私の家に訪問してきて私にしがみついた時の顔とそっくりだった。
きっと彼は私を心配してくれているのだろう。
ふっ、と微笑んで私は紀田君の頭を撫でた。
そんな私の動作に吃驚したのか一瞬体がビクッと動いたが、ずっと撫でているとそれに落ち着いたのか、体に入っていた力も次第に抜けていくのがわかる。



「紀田君。私あの人が何故怖いとかよくわからないけど、もう会うことはないと思うよ。私だって学生で殆ど学校だし、折原さんもきっと仕事あるだろうし、会う確率は少ないよ」



それに、私何処でもいそうな通行人Aみたいなものだし。
その言葉は飲み込んで、ずっと紀田君を見つめる。
しかしそれでも納得いかない様子な紀田君は未だ顔を歪めている。



「でも、あいつが言っていたことは本当っすよ?芭菜さんが車に轢かれて病室から居なくなったって話。だから俺も朝、」


「えっ!?ちょっ、待って紀田君!波崎先輩って本当に轢かれたの!?」



空気状態だった帝人君が突如口にした。
折原さんの言葉をあまり信じていなかったらしく、紀田君の言葉で漸く事実だと分かったらしい。
まぁ、無理もない。



「…あは。事実だよ、帝人君」


「じゃあ、何で波崎先輩は…言い方悪いですけど……何で生きているんですか?」



紀田君と同じく真剣な目つきで此方を見る。
しかしそれは目の前に非日常がある、と認識しているのかどこか楽しそうだ。
きっとさっき非日常な彼、折原臨也を見たからその興奮が未だ抑えきれてないからだろう。
私が彼の非日常になるなんて無理だから。



「それはね、…って言いたいところなんだけど自分でも分からないんだよね」



私の言葉にえ、とでも言いたげに二人は口をあんぐりと開けた。



「え、じゃあ誰かに運んでもらった…とか?」


「さぁ…。そしたら車に轢かれた傷はどうなるんだって話だけどね」


「じ、じゃあ、魔法使いが傷を治したとか?」


「私魔法使いに知り合い居ないし、魔法使いなんてまず存在自体居ないでしょ」



私の言葉に二人はまたうーんと唸る。
これは私の問題なんだから、二人は突っ込んだきてほしくないなぁ…。
苦笑いを浮かべながら、私は二人の肩に手を置いた。



「…兎に角、私もよく分からないんだよね。考えるの面倒だし、今は病院行って謝ってくるよ」


「えっ」


「なら俺も行きます!芭菜さん一人だなんて危ないです!」


「いやいや、いいよ。私一人で大丈夫だって。紀田君は帝人君とお出掛け中でしょ?だから紀田君と帝人君は私について来なくていいから」



寧ろ今は一人がいいかな、と思いながらもじゃあね、と走ってその場を去った。
これで彼らもきっともう突っ込んでこないだろう。



理由?知りませんよ

そういえば病院って来良病院…か、な。
あぁ、場所がわからない…!!




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