自重してください



何とか山崎さんに局長室まで案内された私は只今近藤さんと一対一でいる…はずだったのに。



「何で土方さんしか居ないんですか」



そう。今局長室には私と土方さんしか居ない。
辺りをキョロキョロと見渡してみても近藤さんの姿は一切見当たらない。



「あー…近藤さんは今居ねぇよ」


「だから何故」


「ストーキング中」


「………………は?」


「だから、ストーキング中だって言ってんだろぉが」



さも当たり前とでも言う土方さんに私は体をフリーズさした。
固まる私を気にしてないのか土方さんは問答無用に煙草を吹かしている。
ふー、と吐いた煙は辺りに広がり、一気に煙たくなるが、今はそんなこと気にしている場合ではない。



「え…いや、…は?え、と、ストーキング?」


「あぁ」


「いやいやいやいや、何でそんなさも当たり前みたいなこと言うんですか。ここ警察ですよね?ふざけてるんですか?それともまた私を馬鹿にしてるんですか」


「残念だが、ふざけても馬鹿にもしてるつもりは一切ねぇ。これが事実なんだよ」



そしてまた煙を吐く。んな馬鹿な。
え、警察がストーキングしていいとでも?
あ、それとも悪い人を捕まえようとその罪人をストーキングしているのかな。それなら納得だ。

自答し、ほっと胸をなで下ろして机に置いてあったお茶を飲んだ。
あ、美味しい。そんな私を見て土方さんは何故か溜息をついた。



「そっちで解決とこ悪ィが、近藤さんがストーキングしてんのは攘夷浪士とかじゃなく、間違いなく普通に好意を抱いている女をストーキングしてんだよ」


「んなまさかぁ。警察ですよね、ここ。いい加減冗談は止めましょうね。肺炎になって死んでください」


「いや、何でだよ!!じゃなくて、」


「副長!局長が帰ってきました」



土方さんの言葉を遮るように、さっき私を局長室まで案内してくれた山崎さんが割入ってきた。
山崎さんの後ろを見てみれば隊士達が何かを運んでいるように見える。
それを見た土方さんはやれやれと言ったような顔でやっとか、と呟いた。

私は山崎さんに続き、局長室に入ってくる隊士達が運んでいる物が気になり顔を覗かせてみた。



「あれ…近藤さん!?」



隊士達によって運ばれた近藤さんは、意識不明なようで、顔に殴られたあとが沢山あった。
私は慌てて床に寝かされた近藤さんに駆け寄る。きっと今の私の顔は真っ青だろう。

こういう風に誰かが殴られた顔や血などは親の仕事関係で嫌というほど何回も見たことがあるが、流石に慣れたりはしないのだ。
人が傷つくところは見たくない。



「酷い…!一体誰がこんなことを!!」


「いや、それ自業自得だから。近藤さんがそうなって帰ってくんのは日常茶飯だ」


「土方さん、流石にそれは有り得ません。見損ないました。普通局長の心配をするのが副長じゃありませんか?いくら日常茶飯だからって…!」


「ちょっ、実乃ちゃん落ち着いて!!」



土方さんの言葉にキレた私は立ち上がって土方さんに今にも飛びかかろうとしていた。
山崎さんに抑えられ、私は一旦平常心を保つ。
チラッと近藤さんの方に目を向けてみると、やはり酷い有り様だ。

私は手に持っていた鞄から包帯やら絆創膏やら傷薬などを出した。
それを見た土方さんは目を見開き、ぎょっと驚いている。



「おい、てめぇ…何し」


「怪我の手当てですよ。誰かさんと違って私は非道ではなく、心優しい人なので」


「ねぇ、こいつ斬っていい?斬っていい?」



今にも私に斬りかかろうとしている土方さんを無視して、私は近藤さんの手当てに集中する。
よし、と言い何とか近藤さんの手当てが終わった。
隊士達や山崎さんは呆気に見ている。
この場にもし効果音があるとしたらきっとポカーンという効果音が適用だろう。

手当てが終わったのと同時に近藤さんがうなり声をあげながら起き上がった。



「あっ、近藤さん大丈夫ですか?一体何があったんですか!」


「ん…あ、実乃ちゃんか?あれ、この手当てって…」


「私がやりました。それより、その怪我本当にどうしたんですか!」


「実乃ちゃんには悪いことをしたなぁ。いやぁ、本当にすまない」


「いや、だから怪我」


「だからさっき言っただろ。自業自得なんだよ」



急に口を挟んできた土方さんは此方に一切目を向けずに窓の外を眺めて煙草を変わらず吹かしていた。
カッコつけですかコノヤロー。
というかさっきから自業自得とか言っているが、何が自業自得なんだ。
土方さんは近藤さんがストーキングしてるって言ってたけど、それのどこが…、どこが……。

まさか。

私は顔を引きつらせた。
その顔のまま土方さんの方にゆっくりと顔を向ける。
私の視線に気づいた土方さんは煙草を吸うのを止め、此方に体を向けてきた。



「近藤さんは好きな奴つけ回してその女に毎回殴られてんだよ」


「………」



ま じ で か。

嘘ですよね。
あの優しい近藤さんが?

近藤さんに嘘だと言ってもらいたくて私は近藤さんに視線を向けた。
近藤さんは違うぞ、トシ!と言いだした。
ほら、やっぱ違うじゃ



「お妙さんはただ照れ屋なだけなんだ!!それに俺はストーキングなど、ストーカーがするようなことはしない!寧ろ正面から毎日会いに行くぞ!!」


「………」


「それが駄目なんだよ!!いい加減自分がストーカーだって気づきやがれ!!」



何だか裏切られた気分だ。
それも近藤さんは自分がストーカーだと思ってないらしい。
そして仕舞いには近藤さんがストーカー行為をしている“お妙さん”と言う人を語りだした。



「……近藤さん」


「ん?実乃ちゃんもお妙さんに会いたくなっただろう!?お妙さんは照れ屋で可愛いんだぞ〜」


「兎に角一回殴らせろ」


「え?いや、何で…ぎゃぁあああああ!!」





(ストーカー行為は女の敵なんです)



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