刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 16.紅桜篇『終/咲かずに散る花の名を』(7/8)

負けた。

「おーーーう邪魔だ邪魔だァァ!」
「万事屋董榎サンがお通りでェェェ!」

燃えたよ……
まっ白に……燃えつきた……
まっ白な灰に……


「どけ。俺は今虫の居所が悪いんだ」
「あっ、桂じゃーん! 元気〜?」
「おおっ、董榎殿ご無事で何よりです! 俺もこの通り!」
「虫の居所は?」
「引っ越した。浜松だ。自然が豊かでアクセスも良い」
「桂さん!!」

甲板に出た所で合流した万事屋一行と桂。別行動していた攘夷党の一班もタイミング良く駆けつけた。

「桂さん、高杉の説得はやはり……」
「……すまなんだ。ここまでお膳立てして貰いながら失敗した……皆に申し訳が立たん」
「謝らんでください! 得るものはあったのでしょう、でしたら良いのです。さあ、我らにご指示を!」
「かたじけない──退くぞ」
「了解!! さあ、皆さんもこちらへ」

空には鬼兵隊と手を組んだ宇宙海賊『春雨』の援軍が迫り、甲板は武装した天人で埋め尽くされている。桂一派はこの不利な状況をいち早く察し、撤退の準備を進めていたのである。

村田兄妹が先に浪士たちの先導で歩き始める。銀時と桂は残って殿を務めるつもりらしい。桂はともかく銀時は負傷者だ。神楽と新八も当然残ろうとして──

「はーいお前らはこっち」
「董榎さん!?」
「わっ! 離すネ董榎兄ィ!!」
「先生」
「ああ、頼まれた」

桂と董榎が頷き合い、くるりと互いに背を向ける。董榎に抱えられた新八と神楽はバタバタと手足を振り回して暴れた。

「離せェェェェェ!!」
「痛っ……ちょ……落ち着……おち……落ち着けって!!」
「離せつってんだろうがァァァ!!」
「あーもう仕方ねーな……ああほら敵来たじゃん、倒してほら」

「え」「あ」

董榎は暴れる神楽をモンスターボールみたいに投げた。ついでに新八も投げた。ふざけんなァァァ! と二人分の絶叫が響き、もーっこのじゃじゃ馬娘はァ……と董榎はもっともらしく悪態をついている。忘れがちだがこの男、いろいろ大雑把なところがあるのだ。めんどくさくなるとすぐ投げる……違う、断じてダジャレではない。

自身も天人の矛を折ったり力ずくでパクッたりしながら、董榎は懇切丁寧に教えてやることにした。

「どうやら奴さん白夜叉と桂小太郎の首に用があるようだぜ。この場で囮としてアイツらほど適任はいないってこと」
「だから銀さんを置き去りにするって言うんですか!?」
「それだけじゃない。お前らを海賊の眼に止まらせたくないのさ」
「だったらせめて董榎兄ィが……」

言いかけた神楽の意識は目の前の光景にさらわれる。鉄矢に向かう銃弾を叩き斬った董榎が、飛び上がって狙撃手に接近、断末魔を上げる暇もなく数人を叩き伏せた。浪士たちが苦戦してるところあらば音よりも速く駆けつけ、最低限の援護をしてその次へと。宇宙で最も悪名高い組織と相対しながら死者は0──到底誰にでもできる所業ではない。新八も神楽もこの男が残った理由を理解した。

「……ふー……桂の仲間を見てみな、(かしら)が残ったのに当然って顔してやがる。ここで問題だ。桂小太郎の異名は?」
「逃げの小太郎……あっ」
「な。それにどっちも俺の生徒だ。やわな鍛え方してねーよ」
「一番説得力ありました」
「……ん? まあ……観察力や推察力ってのは身につけといて損はねーから。張り切りすぎて空回りすることはないか? 護るつもりが護られる側に立っていたことは? 正しく状況判断ができれば後手に回ることは少なくなる」

身に覚えは、ある。

駆け巡る記憶、思わず硬直した神楽と新八。その隙を付く天人の襲撃。いつの間にか近付いてきた董榎が、二人の頭を撫でた。

「と言っても、焦って大人になんなくていい。大人だって失敗も学びもするんだから。今のうち存分に甘えときな」

むしろ甘え方も甘やかし方も知らない大人の末路は悲惨だぞ〜と脅す男の背後で、どさどさと二つの体が倒れて重なる。

この人やばい。

新八の心情はこの一言に収縮できた。ちなみに神楽は夜兎の血が騒いだらしく普通に目を輝かせていた。




銀時と桂は無事にパラシュートで脱出したらしい。計画の要である紅桜を失った鬼兵隊は潔く撤退を選び、春雨と共に江戸を離れた。暫く江戸に拠点を作ることはないだろう──というのが、警察奉行所各所の見解である。






<紅桜篇 終> 




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